5月8日 その⑤
「どうして、俺を残して失踪したんだ?」
「それはですね...」
マスコット先生の───否、俺の父親である池本朗の言葉尻が濁る。何か、答えづらい何かがあるのだろうか。
「理由が、無いんですよ」
「───はぁ?」
思わず、俺の口から驚きが出てきてしまう。理由がないとはなんだ。俺は、15年以上もの間、理由もなく失踪されていたのだろうか。
「───失踪した理由を聞かれると困るんですよね。理由が無いんですから」
「もう少し、まともな嘘は───」
否、俺の父さんである池本朗は嘘をついていない。もう少しまともな嘘───と思ったが、これは嘘ではなく真実だとするのであれば、こんなくだらない話も納得いく。
「本当に、理由はないんですか?」
「ないです。この世の全てに理由があると思ったら、大間違いですよ」
「ないんです...か?第何回デスゲームが行われたからそれ以降...とか」
「うーん、第2回デスゲームは17年前に行いましたが、別にそれがいなくなった大きな理由にはなりませんからねぇ...」
俺の父さんは、困ったように頭を掻く。きっと、本当に理由がないのだ。
俺は、これまでの15年以上、両親は何か意味があっていなくなっていたと思っていたのだが、そうではなかったのかもしれない。
「なんか、適当に理由をつけてくださいよ...俺が、納得できませんよ...」
せめて、デスゲームに息子を参戦させないために愛情をわかないようにする───とか言う理由があってもよかったはずだ。
それなのに、「強いて言うなら───」などと理由を付けないのは本当に理由がないのだ。
俺は、理由がないことに、悔しい以上に悲しかった。
俺は、理由も状況もなしに失踪されちゃ、腑に落ちない。だから、せめてもの何かを教えてもらいたい。
「じゃあ、失踪して何をしていたんですか...俺を放っておいて、何をしていたんですか...」
「そんなの、デスゲームの準備に決まっていますよ」
「じゃ、じゃあ...デスゲームを行うためにこれまで失踪していたんですか?」
「まぁ、そうなることになります...かねぇ?」
そう言いながら、首を傾げる俺の父さん。
「───じゃあ、どうして俺を産んだんだよ...産まなくてもよかったじゃないか...」
俺は、そんなことをつい口を出してしまった。
「そんなことはございませんよ。私は池本栄君のためにこのデスゲームをここまで繋げてきたんですから。本来の目的では不必要だった2回・3回・4回のデスゲームを行ったのですから」
「───んぇ?」
俺のために、このデスゲームを作った。それは、どういう意味なのだろうか。
「それは、どういう?」
「そうですね...失踪の理由がない代わりに、どうしてデスゲームを行おうと思ったかなどという理由だけでも話しておきましょうかね」
マスコット先生は、一拍開けた後に話を始めた。
「───第1回デスゲーム。それは、私の興味本位で始まりました」
「私の?」
「はい。まぁ、GMと一緒なんですけれどね」
マスコット先生は、そうおいた。そして、話を戻す。
「私の興味本位で日本中から天才を集めて、デスゲームを行いました。そこに、私の妻であり、池本栄君の母親である人物───池本望がいました」
俺の父さんは、教え子である母さんに恋をしたらしい。
「───って、父さんは何歳?」
「私ですか?46歳です」
「えっと、第1回デスゲームが行われたのは?」
「27年前です」
「え、じゃあ19歳の時にマスコット先生として行動してたんですか?」
「はい、そうですよ。デスゲーム関係者は成人していなければならない───なんて決まりはありませんからね」
「それで、当時17歳だった俺の母さんに出会って...それで?」
「望は、第1回デスゲームの生徒会メンバーとして活躍した後に、私と結婚しました。デスゲームの参加者は、デスゲームの主催者側と結婚してはいけないなんて決まりもありませんからね」
「そうなのか...」
「まぁ、ここまでは興味本位でデスゲームを行っていたのですが、2回目以降は違います。いや、デスゲームを行う理由はいつだって好奇心なのですが、それ以外にも目的ができました。それは───」
「それは?」
「───自分の息子である池本栄君───アナタをデスゲームに参加する際に、敵になるであろう人物を作る、です」
「俺の...敵を?」
「はい。池本栄君がデスゲームに参加することは、生まれる前から決定していたことなんです」
「───」
きっと、俺の父さんの言っていることは嘘じゃないだろう。主催者側は、デスゲームを興味本位で楽しみながら、俺の敵を作っていたのだ。
その点、俺は靫蔓の言う通り「主人公」なのだろう。
「というか、話の核心を突きすぎて、あまり話ができていないのだけれど...」
「じゃあ、まとめます」
父さんがまとめたのはこんな感じだった。
1.失踪したことに理由はない。こじつけるとするならば、デスゲームの準備。
2.デスゲームの第1回は興味本位で行った。
3.第2回から第3回までは、俺の敵になるだろう人物をデスゲームに参加させた。
4.父さんと母さんは、第1回デスゲームで出会った。
「まとめるならこんな感じですかね。」
「そうですか...」
「他に、聴きたいことはありますか?」
聴きたいことは、色々あるし、何なら今の話を聞いて増えたまでもある。
どうして、俺を中心にデスゲームを行ったのかも知りたいし、「真の天才」のことも興味がある。他にも、過去のデスゲームのことについても聴きたかった。そもそも、どうやってデスゲームをしているのかなどという謎もあるだろう。
だが、俺が次に聞くことに選んだのはこの質問だった。
「───父さん。デスゲーム参加者の子孫って...森愛香であってるか?」
「正解です」
【追記】本日、もう1話更新します。マスコット先生との対談を終わらせたい。