5月8日 その②
俺がチームCの寮に帰ると、そこにいたのは第4ゲームにて3回戦に出てくれた好青年───中村康太であった。
「こ、康太...どうしたんだ?」
「どうしたんだ?じゃねぇよ!どうして俺がいるのかわからないのか!」
怒鳴るようにして、俺に言葉を投げかけてくる康太。俺は、早くも先程までの智恵との幸せな空間に逃げ出したかった。
「えっと...」
「あぁ、いや、もういいや...ハッキリと言うよ。どうして、蓮也を助けたんだよ?」
「それは───」
「蓮也は奈緒を殺したんだぞ?アイツは、自分可愛さに奈緒を殺したんだぞ!それに、謝りもしなかった!アイツは反省してないのはハッキリとわかるだろ!」
蓮也を救った糾弾する康太。康太は、俺が蓮也を救う選択をした時に俺にちょっかいをかけてきた裕翔にお説教するために教室の外に出ていた。だから、俺が蓮也を救う場面には居合わせていなかったのだ。
きっと、その後誰かから蓮也を救ったことへの話を聞いたのだろう。それで、俺にその真意を聞くために家に押しかけてきた。だが、俺は寮に戻ることはなくそのまま智恵の部屋まで行ってしまったから今の今までその怒りを培っていた状態なのだろう。
俺が帰らなかったのは問題だが、メッセージを送ってくれてもよかったのではないか───などと思いつつも、それを言ってもどうにもならないことはわかっているし、開き直ったと捉えられそうだし、被害者面するなと怒られそうなのでそれを口にすることはなかった。まぁ、俺が被害者であることは間違っていないのだが一晩も康太を待たせてしまったことは、俺に問題があるだろうし、それに関してはおあいこだろう。
「───智恵が悲しむだろうから救った」
「───はぁ?」
俺の意見に、今にも反論しそうな顔をした康太であった。
「アイツは人を殺したんだぞ?それがのうのうと生きている方が、智恵にとっては不安なことだし悲しいことだろう!そうは思わないのか?」
「でも、死んじゃったら意味ないし...」
「人を殺してるんだぞ?それを栄は黙認するのかよ!じゃあ、これまでの生徒会と───靫蔓やマリン・サンタマリアにトウトバンダーと戦ってきたのはなんでだよ!」
「なんでって、そりゃあ...」
「アイツラが過去のデスゲームで人を殺したからじゃないのか!」
違う。第3ゲームで、鬼であった臨時教師───廣井兄弟を相手にしたのは、梨央に命の危険があったからであり、第4ゲームで戦った靫蔓達は、向こうから勝負をしかけてきた状態だった。
だから、過去のデスゲームで人を殺したから───などという中途半端な正義感で戦ってはいない。
「違う、それは違うよ...俺はいつだって、人殺しはよくないといったレベルでは行動していない!それなら、俺はマスコット先生を赦していないし、マスコット先生を殺しているはずだろう!」
「そうだが、それはできないことがわかっているから、周りのやつから片付けようとしてるんじゃないのかよ!」
「違うに決まってるだろ!俺達はいつだって受け身なはずだ!俺達はデスゲームに巻き込まれてる!違うのか?」
「違わない、違わないけどよ...それでも、蓮也をなんで生かすんだよ!まだ、殺すかもしれないんだぞ?」
「それはわかってるよ。でも、でもよ...」
俺の声は、段々小さくなる。
「殺せばよかっただろ!あの時、無慈悲に切っておけば、確実に蓮也に殺される人はでなかった!それに、蓮也のことは誰も好きじゃないから、誰も栄に恨みを持つ人なんて人はいないはずだった!あそこで、蓮也を生かしたから、美沙や遥は昨日学校に来なかったじゃないか!」
チームAの佐倉美沙や橋本遥が学校に来なかったのは、きっと蓮也がいるからだろう。
でも、生かす選択をしたのは学校に来なくなった日だから、理論としては崩壊している。
でも、蓮也がいるから学校に来ない───という仮説は当たっているようだったから、俺は何も言えなかった。
それどころか、美沙や遥を学校に行きにくくさせてしまったのであった。
「あそこで蓮也を殺さないのは間違ってる!栄、あそこで蓮也を殺すのが一番の選択だったはずだ!そうは思わないのかよ!」
「思う、思うよ!でも、でもよ!」
俺は、言葉が腹から絞られるようにして出る。自分でも、蓮也を殺さなかったことが正解かどうかはわからない。でも、これだけは確かに言えるのだ。
「俺は、誰かを殺して英雄になるより、誰かを生かして英雄になりたいんだ!」
これが、俺の意思。これが、俺の決断。
誰かを殺すのが勇者なのであれば、俺は勇者にならなくていい。誰かを生かして罵倒されるなら、俺はその道を選ぶ。
「───はぁ...もう、ウンザリだよ。栄」
そう言って、ため息をつくのは康太であった。康太は、ガバリと椅子から立ち上がると俺の横を通って、チームCのリビングを出ていく。
「邪魔したよ。もう、俺はお前にこのことで何か意見をぶつけることはない」
康太は去り際に、振り向いてこう言った。
「だけど、お前の決断はいつか絶対に後悔に変わるぞ。それがお前の選んだ道なのだから」
自分が世間一般から見て絶対的に正しいとは思わない。でも、自分から見て自分が正しいと思えるような人間になりたいと、そう思った。そう誓った。