4月2日 その①
夜。
それが、一概に寝静まっているものとは断定できない。
夜中、明かりがついている寮も付いていない寮もある。
全ての寮で、夕食は20時までには済まされていた。一人、食事を摂らなかった生徒もいたけれど。
学校の1つの教室───生徒会室では微かな明かりと共に、最低まで暗くされたPCの画面を眺める大人が一人いた。
その大人は、PCを見つめてただ沈黙を貫いている。部屋には、この大人ただ一人であった。
画面に映し出されるのは、「生徒会参加希望」のアンケートの結果だ。
生徒の個人名と、参加希望の是非が記載されている。
「───。一人、やはり一人か。答えていないのは」
その大人は、そうおもむろに呟いた。声は、男のようだった。
アンケートに答えていないのが一人なのか。もっと他に真意があるのかは、判断できない。
「答えるのを強制しなかったのも悪いので、咎めることもできないか」
その大人はそう言うと、目の前にあったパソコンを閉じた。
「安土鈴華...思惑があるのか?」
意味深に呟いた、一人の女生徒の名前。その大人は、生徒会室の窓から外を眺める。
「綺麗な星々も、黒く汚れる日は来るのだろうか...」
そう、口から放った。その直後、その大人は次元から消えた。
***
一方、生徒会室にいた大人に名前を呟かれた安土鈴華は、現在進行形で自分の部屋で眠りについていた。
ベッドに入り眠ったは、安土鈴華が寮にやってきてすぐのことだった。
制服からキャリーバッグに入っていた私服に着替えるよりも先に。ベッドに入り込み眠りに落ちていった。
彼女のその行動に、同じチームである園田茉裕・竹原美玲・三橋明里は理解できなかった。
「そんなに疲れていたのかしら」
と、園田茉裕が。
「私達は、リビングでゆっくりしましょう」
と、竹原美玲が。
「スケバンと同じチームになった時はどうなることかと思ったが、怠惰な野郎だったのか」
と、三橋明里が。
もちろん、部屋に籠もり毛布とベッドの間に体を挟み込んで眠りにへと誘われた安土鈴華はその言葉に気付いてはいないのだけれど。
現在進行形で眠っていると言うことは、もちろん彼女は夕飯も食べていない。
先述の「一人、食事を摂らなかった生徒もいたけれど」は彼女のことだ。
別に、乏しめることでもないので食事を摂らなかったことに関してはとやかく言うことはしない。
このまま、4月2日0字0分まで眠りこけていれば彼女が生徒会に入る権利は失われることとなる。
───いや、権利を放棄しただけであって、生徒会希望者が3人に満たなかった場合はランダムに生徒会の責務に就くことを強制されるのだけれど。
生徒会に入っていない証明になる。アンケートは、別人名義で送ることは許されていないし無効とされるので生徒会の人数が4人以上の場合は、「生徒会ではない」という絶対的な保障ができるのだ。
もっとも、「ベッドの中でコソコソとスマホをいじっていた」などと疑われてしまうのでその保障は無いに等しいのだけれど。
───こんな風に、つらつらと記載を続けていたらあっという間に4月1日は終了してしまった。
皆は、明日に備えて眠ることを選択した。
───まぁ、心的にも物的にも疲労が溜まっていたので徹夜するような体力は誰にも残っていなかったのだけれど。
***
「───」
池本栄───俺は、いつもの調子で朝の5時30分に目が覚めてしまう。
いつも、この時間に起きて浩一おじさんと自分の分の朝食を用意していたからだ。
俺の他に、起床している人はこの寮にはいない。
「夢じゃ...ないのか」
昨日の、現実では信じられないような出来事が眠りから覚めても続いているということで現実だと判断する。
「デスゲームなんて、好きでしたくないのにな...」
そう、呟いた。俺は、思い出していた。昨日死んだ、金髪の少女のことを。
なんのルールも説明されることもなく、チュートリアル的な感じで殺されてしまったその少女を。
デスゲームであるならば、最初のモブのような感じに扱われてしまったその金髪の少女を。
「酷い...話だよな」
どうして、デスゲームなんか行うのだろう。GMの意思が理解できないし、それに協力するマスコット先生も理解できない。
「真の天才って...どんな意味なんだろう?」
マスコット先生が、言っていた「真の天才」の意味について考える。
簡単な語彙にしてしまえば「運動ができ、勉強もできる人に優しい人物のこと」だろうか。
───ならば、何故デスゲームにする必要がある。
考えても、俺には答えが出てこなかった。稜達を起こすにも、気が引けるような時間帯であったため、俺はシャワーを浴びることにした。
脱衣場で服を脱ぎ、若干寝ぼけ眼を擦ってから浴室のドアを開けた。傷一つ無い鏡を覗くと、一糸まとわぬ自らの姿が映り込んだ。
シャワーから出る水を手に当てて、温度を調整する。
髪を濡らさぬように、気をつけて体にシャワーから水をかける。
───こんな、リフレッシュするような行為を行っているのにも関わらず、俺の心は締め付けられる一方だった。
何かを、恐れている。言葉では表せないような、漠然とした恐怖。
「死」への恐怖心だろうか。それとも、出会ってしまった仲間を失うことへの恐怖心だろうか。
───もしくは、人が死んでも冷静になってしまっている自分への恐怖心かもしれない。
「答えは...全部だな...」
俺は、もう一度鏡を見る。やはり、鏡には生まれてきた時と同じ丸裸の自分が映っていた。
「母さんと父さんは今...何をしているのだろう」
そう呟いた。浴室には、シャワーから飛び出る水の音だけが溢れていた。





