5月7日 その㉑
───こちらは、四次元。
「マスコットの正体がバレたか...」
GMは、静かにそう呟いた。四次元には、太陽のように光を齎す何か───と言うものは無く、GMが用意したのであろう三次元を映し出すホログラムのような三次元の───いや、実際には四次元なのだろうけれど、私達三次元の人物には三次元としか捉えられない物体の光でのみ光が放たれていた。
一般的な生活をするに従い、光量はそのくらいで十分だが、それでも影になるところはある。
その影の部分が、たまたまGMの体の前面であって顔がハッキリと見えないことは何ら不思議ではないのであった。
「マスコットには、正体がバレた時の動きを行ってもらおう...どちらにせよ、息子である栄との面談は必要だろうな...」
日に日に揺れ動くデスゲームの見物を楽しみつつ、GMはその対応に追われているようだった。
「しかし、ここでマスコットの正体がバレるとは...いや、別にバレても構わないから鬼龍院靫蔓にバラさせたのだけれども。まぁ、マスコットの正体がバレようとも俺の正体がバレなければ問題ない───って、俺の一人称はなんだっけか。私?僕?俺?うーん、思い出せない...」
変なことを口にしているGM。ちなみに、4月1日に入学式として見たVTRの映像ではGMの一人称は「私」であった。
「第5ゲームは...そうだな。生徒会を関連させずに生徒同士に争ってもらうとするかな」
GMがそう言うと、口角があがる。彼は被り物をしていないので、その感情の変化がよくわかった。
GMの正体は───
***
「───池本朗」
「はい、なんですか?」
「池本朗ねぇ...なーんか、慣れないよなぁ...」
生徒会室に集まっているのは、第5回デスゲームで生徒会として活動している人物と、マスコット先生であった。
「まさか、栄の父親だったなんて思わなかったわ」
「そうですか。よく言われます」
「よく言われますって、今日正体がわかったから言われたこと無いでしょうよ」
「ははは、そうですね」
マスコット先生のジョークにしっかりとツッコミを入れる生徒会メンバーの一人。
「───でも、4月1日も首を斬られた時に顔が見えてたけどどうして判断できなかったのかしら?」
「池本栄君とはほとんど出会っていませんので。池本栄君も私の顔がわからなかったのでしょう」
「あー、わかった。慣れない理由、違和感の理由がわかった。その{池本栄君}ってやつだ。自分の子供をフルネーム+君付けする親がいるか?」
「私は、生徒のことは君・さん付けで呼ぶって決めているんですよ」
「だけどなぁ...もう、正体バレたんだから付けなくてもいいじゃないですか」
「これは私が決めたものですので」
「そうですか...」
「話を変えて、次のゲーム───第5ゲームはどうするんですか?」
「あぁ、それに関してはGMが決めております。どんなゲームになるのかは楽しみにしておいてくださいね」
「まだマスコット先生も知らないんですか?」
「マスコット先生は知りませんよ」
「なんで、急に一人称がマスコット先生に変わったんですか...」
「これもジョークですよ」
「はぁ...」
マスコット先生の言う「ジョーク」の意味がわからない生徒会メンバーは、呆れたような表情を作り出す。
「クラスメイトの父親と考えると、少し気まずいわね...」
「ははは、それもそうだね。しかも、俺は栄と親しい部類に入るだろうし」
「それを言うなら、僕も栄と共闘したことになると思うし、気まずいと言えば気まずいよ」
「ははは...そうですか。ですが、クラスメイトの父親ではなく、ちゃんと担任の先生として接してください。それは一応、池本栄君にも言っておくことにしますし」
「───と、話を変えますけど先代の生徒会をこんなに大量に出して死亡させてもいいんですか?生き返らせることができるからいいんですかね?」
「正確には、生き返らせるではなく、肉体を呼び起こして記憶を追加させるという方法なのですが...質問に答えさせていただくと、死亡させても大丈夫です」
「どうしてですか?」
生徒会メンバーの紅一点からの質問に、マスコット先生はこう答える。
「今回でデスゲームを最後にする予定だからです」
「───今回で最後?」
「はい、第5回デスゲームが最後のデスゲームになる予定です」
「どうしてですか?もしかして、栄がいるから?」
「正解です。池本栄君がいるから───私の息子がいるから、最後にします。いや、正確には最後だからこそ息子を呼んだって感じなんですけれど」
正確にはなどと言っているが、栄がいるから最終回と、最終回だから栄がいるというのは、因果が全くの逆になっているような気がしてならない。
「まぁ、どっちでもいいんです。今回で、私の野望は果たされるので、最後のデスゲームでいいのです」
「野望って、真の天才を作ることか?」
「それは、下から要請された願いですよ。真の天才を作ってくれとお願いされて、渋々承諾しているだけです。まぁ、断っても勝てるほどの軍力を私は持っていますが、それをすると日本は終わってしまいますからね。ナショナリズムってのはあるんですよ、こんな私にもね」
そう言うと、マスコット先生の被り物の口角が上がる。生徒会メンバーは、マスコット先生の裏にある何かを探るために、各々が思考を逡巡させていたのであった。
生徒会メンバーの人数を公開するのは、まだ少しお待ちください。