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智恵の過去 その⑨

 

 ───私が自殺を決心し、実行した夜。


 その日の私は、これまでとは違い軽快だった。

 サッカー部に輪姦されて、女として生きることを侮辱されて、タバコを買わされた私は、いい加減生きるのが辛くなったのであった。


 これまで、どうして自殺という手段を取らなかったのかというと恐れていたからであった。

 私は、無様にも「希望があるかもしれない」と、思っていたのだ。でも、現実はそんなに甘くなかった。


 私が生み出した希望は、妄想の産物にしか過ぎなかったのであった。


 ───では、どうしてその日に自殺を行おうと決心したのか。


 理由としては、簡単だ。

 サッカー部以外の生徒にも、隆貴に金を払えば私と性行為が行えると知られたのだ。


 それが理由で、私は放課後だけではなく授業と授業の間の10分間の休みに、顔も名前も知らないような人物と性行為をしなければならなくなったのだ。


 だから、私は自殺を考えた。私は、サッカー部だけでなく学校中の性奴隷となってしまったのだ。

 もう、先生がどうこうで収集つかないところまで来てしまっているだろうし、学校側も男子を全員退学───なんてのもできるはずがない。


 きっと、被害者であるはずの私が「自主退学」ということで話を終わらせられるはずだった。

 そして、今の私が別の学校で上手くやっていけるはずもないので、私は逃げることすらも許せなかった。


 流石に、最終学歴中学生の女性は食いつないでいく未来が見えなかった。せめて、男ならば土木作業などができたかもしれないが、私は女だからそれすらもできそうにない。

 それに、非力じゃなかったら、とっくに隆貴にやり返していて尻に敷いていたはずだ。


 ───と、自殺をする時に話を戻そう。


 私は、自殺を思い立ったと同時に行動に移していた。遺書なんてものは書く気なんてサラサラなかったし、隆貴の罪を告発しても証拠がなかった。

 実際、タバコは私のお金で買ったのだし「タバコを吸ってた」のは私ってことにされるだろう。


 私の堕胎のことだって、強姦のことだって全部のらりくらりと避け続けるはずだった。


 自殺をしようと向かったのは、家の近くにあった工事現場であった。20階建てのマンションが建築されるとかなんとかで工事をしているのだ。

 もちろん、暗い夜に工事なんかできないので工事現場に人はいなかった。


 こっそり忍び込んだ私は、特設されていた鉄骨の細い階段を登って、そのまま最上階まで向かう。

 ヒュウヒュウと夜風が吹き、私の髪と着ているシャツを揺らす。


「───ここから飛び降りれば...」

 私は、つばをゴクリと飲み込む。


 もう、地獄のような現実だった死ぬのなんて全く怖くない。この現実で生き続けるほうがよっぽど怖かった。

 工事現場にいるのは私だけ。


 ───ここから飛び降りれば、死ねる。


 私は、目を瞑ってそのまま飛び降りた。下なんか、確認していない。


 その刹那、やって来るのは落下していく感覚と、恐怖であった。足から飛び降りたはずなのに、すぐに頭が下になっていく。

 心臓が飛び出そうな落下感を体験したその刹那、私の意識は空中で無くなった。


 地面にひしゃげる前に、パソコンがシャットダウンするようにして意識がフワリと無くなったのであった。

 意識が直前で盗まれたかのような気分だった。もっとも、その気分を感じる意識はその時は無かったのだけれど。



 この飛び降り自殺を行ったってことは、栄も第2ゲーム『スクールダウト』の私の1つ目の情報である「自殺しようとしたが、失敗した」で知ってたよね。

 そして、私が今ここでこの話をしていることもこの自殺が()()()()ことの大きな証明になるかな。


 そう、私は自殺を失敗した。私は、もしかしたら天国からも地獄からも拒まれてしまうかもしれない。


 いや、きっとそうだ。そうだとしか思えないほどの奇跡が起こったらしいのだ。

「都合のいい漫画や映画よりも都合のいい、ご都合主義もびっくりするほど驚くような奇跡が起こった」と、私が目を覚ました後にお医者さんから聞いていた。


 私が落下した地点には、なんでかわからないけどたまたま私の身長よりもちょっとだけ高い三叉のような棒が立ててあって、丁度私の服がその三叉に引っかかったらしいんだよね。

 それだと、首を吊ったような状態になっちゃうんだけど、たまたま引っかかった部分が破れてそのまま落下したっぽいって、病院で教えてもらったんだ。


 それが、嘘か本当かわからないけど、私が生きていることは事実だから本当の話なのかもしれない。


 ───と、私はそれで飛び降り自殺をしたのに擦り傷一つなく失敗してしまった。


 でも、失神はしてたからその場から動くこともできず次の日の朝工事現場に来た作業員によって発見されて病院に行ったらしい。その後、私は2日間ほど眠った後目を覚ましたんだ。


 そこで、医者からさっきの奇跡的に助かったって話を聞いたの。

 私の自殺は、こんな感じで失敗したんだ。でも、その自殺が原因で良くも悪くも私の生活は変わっていく。



 まず、いいことから。私が通っていた「甲美」は自殺を謀ったことからも2ヶ月行かなくてよくなった。


 そして、悪いことは栄も御存知の通り成績不振と出席日数により留年することになった。

過去回想も後1・2話を予定しています。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] ある意味、自殺という手段も拒まれたのか。 でもサッカー部一同や他の加害者のざまあ展開が 少し欲しいですね。このままだと読後感が良くない気がします。
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