智恵の過去 その⑧
堕胎までさせられた私が、サッカー部が活動している間、常時性行為を行っていた───というわけではない。
私にも、休みというものが与えられることがあった。いや、正確には休みではなく「マネージャー」本来の業務であるのだけれど。
度々、コーチから部活で使用するものを購入してくるように───と、使いっ走りを頼まれていた。
その時は、サッカー部の面々は私に手を出すことができない───言ってしまえば、休みが安息が渡されたのであった。
もちろん、買い出しは部活が始まった時期からあった。では、なんで今話したかと言うと、栄が今にも吐き出しそうな顔で私の話を聴いているからだし、私自身これ以上女の子であることを凌辱されるところを話したくなかったからだ。
それと、この話の───私の過去回想の終着点の前振りになるからでもあった。
起承転結をしっかりと話したいし、因果もしっかりと説明していたいと思っているから、私はこの話を閑話として選んだのであった。
それと、これ以上はもう辛いから私はもう性行為に関連する話はしないことにする。
だから、結論を先に伝えると私は人生で2度の堕胎を経験していた。栄に話した時とは、別の日にも同じような方法で堕胎を隆貴は行ったのだ。
これにて、私の性行為の話は終わりにする。だけど、それが性行為は一切行われなかった───というわけではないことは理解してほしい。
話を戻して、買い出しのことに関する話をしよう。
これは、私が1度目の2年生である時の5月か6月辺りのことだったであろうか。
「智恵、今日も相手してもらえるか?」
隆貴が、金稼ぎのためにも私に声をかけてくる。一回200円という良心的で非人道的な値段で儲けを出していた隆貴は、私に毎日そう聴いてきていたのだ。
私は、隆貴のお願いを断るわけにはいかなかった。断ったら、拳を振るわれるからだ。
何をされるかわからないので、私はいつもは断れなかった。でも、今日は違う。
「ごめん、今日はコーチに買い出しを頼まれちゃってて...」
「あ、そうなの?そっか、それは残念だ...」
買い出しが大切なことはわかっているから、隆貴も怒りを見せたり暴力に発展することはなかった。
「あ、そうだ。それなら智恵に一つ追加で買ってきてほしいものがあるんだけど」
「───え?」
隆貴から、追加の買い出しをお願いされる。それは───
「タバコ、買ってきてくれない?」
「───私が?」
その内容というものは、タバコを買ってくるというものであった。私達はまだ未成年であるから、タバコを吸ってはいけないし、お酒も飲んじゃいけない。
「タバコは...駄目だよ。ま、まだ未成年だし...」
「あ?」
「───」
隆貴が、不機嫌になり声を出し、私に1歩近付いてきた。抱きしめられるような近距離だが、私は隆貴にそうする気持ちは一切わかなかったし、それどころか一種の嫌悪感や恐怖感を抱いていた。
私は、隆貴が嫌いだったし怖かったのだ。
でも、その日の私は何故か隆貴に対して言い返そうと思ったのか言い返した。
「───み、未成年だから...」
直後、私の腹に拳がめり込む。鈍い痛みがやってくると同時に、私は後ろに数歩下がりその場にしゃがみ込んでしまう。誰にとっても、強烈な一撃だっただろう。少なくとも、彼女を殴る時にこれほどまでの暴力はDV彼氏でも使用しない。私のことを、人として認識していない証拠だった。
「───わかった...買ってくる...それで赦して...」
私は、許しを請うようにしてその場を走り去った。手元に、コーチから渡された財布があったけれど、これは使えない。必然的に、タバコ代は私がお金を払うことになるのだろう。
私は、制服から少し大人っぽい格好に着替えた。流石に、制服でタバコを購入しようとすれば一発アウトで警察行きだ。もしかしたら、私は警察に捕まっていたほうが楽かもしれない。
これ以上、性行為回数を増やすよりも逮捕されて社会的に傷付いたほうがよかったかもしれない。
いや、何度も何度も強姦をされている時点でもう社会的身分は地に足付いているのだろう。
「買い出しの時は、制服ではなくてもいい」とコーチには言われているので部室に用意されている私の私服を着て買い物にでかけた。
───そして、私はコーチに頼まれたものを買ってからコンビニに向かった。
「す、すみません。タバコをください」
「何番でしょうか?」
「え、あ、番号?」
私は、コンビニでタバコなど買うなんてルールがわからなかった。番号を言えばいいのだろうか。
そう言われると、後ろにナンバリングされてタバコが用意されていた。隆貴から番号は指定されていなかったから、タバコであるならば何番でもいいのだろうか。それとも、何か種類があるのだろうか。
「えっと、32番で?」
私は、タバコの種類なんてわからないのでとりあえず白いパッケージに黒い文字のシンプルなデザインのタバコを購入した。
私は、それをポケットにしまって学校に戻るのであった。
───と、これで閑話は終わりにしよう。
閑話休題。次にしようと思うのは、私が自殺を試みた時の話だ。
コンプラを恐れました。俺は隆貴より小心者です。