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智恵の過去 その⑥

 

 ───それから、5ヶ月ほどが経つ。


 2025年が始まり、早くも丸3ヶ月が経って、私も4月7日からは「甲美」の高校2年生になるところであった。


 ───おっと、私は2年生から3年生にあがろうとした時に留年したので、1年から2年にあがる時はまだ問題なくあがることができていた。


 私がサッカー部にあれだけ凌辱されていても、それを外に───要するに、誰かに話すということはせず、自分の中に溜め込んでここまで生きてきた。

 誰かに話したら、その人もサッカー部の被害に合うと思ったからだ。女子に話せば、理由をつけられてその子も女子としての尊厳を奪われて冒涜されてしまっていたであろうし、男子に話せばサッカー部は容赦せずボコボコにしていただろう。


 もちろん、両親にも話すことはできなかった。

 テレビのいじめの被害を聞いて「両親に話したくなかった」や「両親を心配させたくなかった」などという意見をよく聞くが、私はまさにそれであった。


 テレビで見ている時は、「私なら言うだろうな」なんて甘いことを考えていたが、実際にその立場に立たされると、話せるような状態ではなかったのだ。

 短絡的で、馬鹿な私でさえも、両親にサッカー部にされていることを話すようなことはできなかったのだ。


 サッカー部をやめるなんてことも考えたが、それもできそうにない。今更やめたところで、どうこうなる問題ではないし、それ相応の報復もありそうだった。

 隆貴と別れる───というのは、思うことさえも怖かった。そんな手段を取れば、私は生きては帰れないことがわかっていた。


 隆貴の暴力は、日に日に増していたのだ。最近の隆貴の私を見る目は、恋人を見る目ではなく、愛玩動物を、ペットを見るような目とほとんど同じだった。私は、奴隷のように生きることしかできなかったのだ。


 猿回しと猿のような、貴族と奴隷のようなそんな関係であった。私は、その立場をどうこうすることなく、体を動かし自分を支配する人物───隆貴がお金を貯めるために何かをしなければならなかったのだ。


 ───と、これは1回目の2年生の1学期が始まる前のある日の夕食の話だった。

 その日、私は家族3人で夕食を食べていた。私に兄弟姉妹はいないから、私とお母さんとお父さんの3人だった。


「ねぇ、智恵。最近よく食べるわね」

「───ええ、そうかな?」

「うん。最近、よくおかわりするようになったじゃない。それに、おやつだって食べてるでしょう?太ってない?」

「別に、太ってはないと思うけれど...」


 私は、そう言いながら夕食である湯豆腐を食べる。

「もしかしたら、サッカー部で色々動いてるから栄養が必要なのかもしれないな」

「───う、うん...そうだね」


 お父さんがサッカー部の話をするけど、かなり気まずかった。正直、学校には行きたくないくらい嫌だった。

 いや、もはやあの状態で行きたい人なんているのだろうか。生きたい人なんているのだろうか。


「最近、隆貴君とはどうなの?」

 お母さんが、そんなことを聞いてきた。でも、隆貴との対等じゃない関係を話せるようなものではなかったので、嘘を言うことにしていた。


「うん、順調だよ。この前もデートに行ったし」

「そうなのね、そろそろ一周年かしら?」

「あー...うん、そうなるね」

 最初の方は隆貴は優しかった。ずっと、あの頃の隆貴がよかった───と、それはないな。


 ずっと、猫を被っている状態だなんてありえない。最初から体目当ての隆貴は、手を出して来ないわけがない。


「隆貴君なら、しっかりしているし、智恵を安心して任せられるな!」

「そうねぇ、隆貴君なら安心ね」

 両親も、そんなことを言っている。2人は、私の苦悩を理解していなかった。


 ───でも、それで問題なかった。


 私の心のうちにある問題を理解されてしまっていちゃ、困る。隆貴率いるサッカー部が何してくるかわからないからであった。


 ───その日は、白米のおかわりを一度するだけで終わりにした。


 湯豆腐はおかずにならない。これは、私の持論だった。


 ───そして、2年生となり、1学期が始まる。



 私の「絶望」はこの年に、この歳にして最骨頂を迎えるのであった。


 ───そして、その後の人生で「絶望」を感じられないほどに、私の「希望」や「絶望」を感じさせるメーターをガバガバにした事件が起こる。


 私の「絶望」を生んだのは、何個もの要因がある。その全ては、隆貴に終着するものであった。


 ***


「私の過去の前編は...いや、序章はころで終わりかな」

 智恵は、高校1年生までを話し終えて、そう告げた。ここで、暫し休憩を挟むことにしたのであった。


 既に、話し始めて1時間ほどが経っていたのだ。流石に、ずっと喋りっばなしは智恵も疲れるだろう。

 俺は、心臓を吐き出してしまいそうな、聞いてるだけで絶望してきそうな話を、静かに聞いていた。


 俄には信じられないが、全てが事実であろうことが智恵の語り草から理解できた。俺は、話の全てを聞いた後にどうなってしまうのか、不安だった。


「栄、ここまで聞いて、どう?失望した?」

「失望なんてするわけ無いだろ?どんな過去があろうと、俺が愛しているのは現在(いま)の智恵だ」

「───そう。なら、これからの話を聞いて考えが変わらないといいな」


 ───そして、15分ほどの休憩を取った後に後編が───智恵の言葉に合わせると、「絶望の本編」が開始した。


 その「本編」は、開始一言から衝撃的であったのだ。いや、予想はできていたのだが、それは彼氏として───否、一人の友だちの経験として聞くに耐えないような内容だった。その言葉と言うのは───


「───私の妊娠が発覚したのは、学校が始まって間もない頃だった」

さて、そろそろ本気を出して行きますか!

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 見事なまでの共依存。 そしてやはり妊娠か。 となると次は中絶か、流産か。 う~ん、確かに地獄のコンボだ。 でも智恵のライフはもう0よ、許してあげて!
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