智恵の過去 その④
絶望の序章。
私の人生を音楽を例えるのであれば、私の絶望を音楽に例えるのであれば、まだ序曲にすらやってきていなかった。よくて、指揮者が会場に入ってきた辺りだろう。
そろそろ、私の人生の絶望を、地獄を。日常を話さなければならないだろうか。
逆に言ってしまえば、これまでの十数分の昔話というのはこれから話す内容に比べたら、お遊びみたいなものだった。
隆貴の暴力も、半ば強姦に近いような性行為も、全ては今後の布石でしかなかったのだ。
全ての選択が間違いだった。全ての行動が空回りだった。根っからのマイナス。人生が間違い。産まれた事自体がこの世への逆張り。強制的に社会不適合者に成り下がっていた私の人生の真髄、真骨頂を話そうと思う。
───ここからだ。私の絶望と言うものは。
映画館とカラオケ、そして隆貴の家に行ったデートを終えてから、私が処女を喪失してから1週間ほど経った日だった。その日も、部活はあったので私はマネージャーとして部活に参加していた。
いつもと同じ雑務を行い、練習をしている隆貴のことをボンヤリと眺めていた。すると───
「すまない、村田」
「───コーチ、どうかしましたか?」
私は顧問に話しかけられる。別に、嫌われているわけでもなかったし、唯一のマネージャーだったのでコーチも私のことを丁重に扱ってくれたような気がする。
「部室の掃除をしてくれないか?最近、かなり散らかってきていてな」
「わかりました、任せてください」
このまま、練習を眺めていてもボーッとしているだけだったし、私も若干部室が汚いなって思ってきていたので掃除をすることにした。
サッカー部の部室には、部員のバッグが散乱していた。綺麗に隅に寄せている者もいるが、大半は小学生が家に帰ってすぐ友達の家に遊びに行く時のランドセルのような形で投げ出すような感じであった。
「リュックをどかさないと...」
私はそう言って、人の荷物をまとめつつ部屋の一方に荷物をまとめた。リュックは、背番号が書かれていたので、それでどれが誰の荷物というのは理解できた。
私だって、勉強は苦手だけど何ヶ月も練習を傍観していれば人の背番号を嫌でも覚えてくる。クラスの人の出席番号を覚えているのと同じような感じだ。
投げ捨てられるようにしてあったタオルには、大体名前が記載されていたのでリュックの上においておいた。
「───よし、とりあえずリュックは片付けられた...次は...」
床を片付けたものの、まず必要なのは部室にある棚の掃除だろう。色々なものが適当に置かれすぎているので、まとめたほうが使いやすいと決まっている。
「えっと、ここにはプロテインを...こっちには...これを...あ、こんなところに行方不明だったサッカーボールが」
サッカー部員達は、かなりいい加減だったようだ。そして、30分ほどかけて部室の掃除を終わらせた。すると───
外から、ガヤガヤとした声が聞こえてきた。どうやら、もう練習が終わる時間になっていたようだった。幸い、ドリンクの用意はできていたし私の仕事はない。皆部室でユニフォームから制服に着替えるから、私は外に出ていったほうがいいだろう。
そう思い、外に出ると丁度隆貴と邂逅する。
「あ、隆貴。おつかれ」
「おぉ、智恵。って、部室綺麗にしてくれてたのか?」
「うん、そうだよ。コーチに頼まれちゃって」
「そうか、ありがとう」
「ううん、マネージャーの仕事だし」
「あ、そうだ。今日、残っててくれないか?一緒に帰らないか?」
「うん、わかった。じゃあ、着替え終わるの待ってるね」
「お、デートか?デートか?」
「隆貴、惚気けてるなよ!」
隆貴は、他の部員から茶化されていた。私は、それを気にせずに部室の外に出た。そして、隆貴が着替え終わるのを待っていた。隆貴が着替え終わるのは、ほぼ最後であった。
別に、着替えるのが遅いって訳では無いが、何かあったのだろうか。
「すまん、智恵。ちょっと探しものを手伝ってくれ」
私は、片付けをしている時に何かを無くしてしまったと思って、部室の中に駆け込む。もう、他の部員はいなくなっていた。
「あぁ、ごめん。何か無かった?もしかしたら、他の人の荷物に紛れ込んだのかも───」
私が、部室に入った途端、部室の扉と鍵が閉められる。
「───え」
「智恵、ごめん」
そう言って、私を部室の床に押し倒す。私は、仰向けになって倒れた。私の上には、隆貴が乗っていた。
「え、ちょ、え」
私は、困惑することしかできなかった。その間に、隆貴は私の着ている制服を剥いでくる。
「隆貴、何して───」
「智恵、しよう。もう我慢できない」
「ちょ、ここ学校───」
「鍵は内側から閉めたから、誰も覗きに来ない。顧問も帰ったって勘違いするだろうから」
「───え」
そのまま、隆貴は私のことを犯す。
1回目は、相互の了承───私が、半分強制的に了承させられたような感じではあったが、双方の合意は一応あった。だが、今回は私は一切了承していない。
それなのに、隆貴は私を犯してきた。言ってしまえば、強姦であった。