5月7日 その⑱
靫蔓達第4ゲームの生徒会側がが殺されて、俺達挑戦者側の勝利で第4ゲーム『分離戦択』は終了する。
靫蔓の遺言として明かされたのは、俺の父親がマスコット先生だという証言であった。生徒会側として、マスコット先生・GMと一緒に行動してきた靫蔓なのだからそれは正解と言えるだろう。これにより、俺は核心に1歩近付いたのであった。
靫蔓は俺が「主人公」である理由に俺の両親のことを言っていた。その際は「なにせ、両親が失踪したって過去は大きいし、その両親はデスゲームの」と言って忽然と姿を消してしまったので、俺の両親がデスゲームの何かわからなかったが、今回それでマスコット先生だと判明した。
俺はGMだと予想していたのだが、それは惜しくも外れてしまったようだ。
───と、俺の父親がマスコット先生という情報を聞いて、俺はマスコット先生を注視する。
今思えば、マスコット先生が父親である、所謂伏線というものはあったようだった。4月7日、俺がマスコット先生と二者面談をしていた際の言葉。マスコット先生はこう言っていた。
『そりゃあ、もちろん生徒一人一人が私にとっての小さな小さな可愛い子供だからじゃないですか!』
これが、本当に俺が実の子供であることから出た発言だとするのであれば納得することができるだろう。
「繋がった...全部が全部...」
俺は、これまでのことが全て繋がったことに驚きを驚きを隠せない。と、俺はいつもと少し違った感覚を覚えて我に返った。
全員が全員、俺の方を見ている。部屋にいる15人は俺の方を見ていた。その刺すような視線が、俺に突き刺さっていたのであった。
「何を───」
「栄、お前の両親は本当にマスコット先生なのか?それならば、お前は生徒会の可能性が高くなるが...」
そう、疑いの声をかけてくるのは森宮皇斗であった。
「俺だって、初めて知ったよ。だから、正解かは本人に聴かないとわからない」
「まぁ、知ってても知らなくてもそう言うでしょうね...」
細田歌穂は、呆れ返ったようにそう言った。
「親がマスコット先生だから、ここまで生き残っていたのか...それなら、まぁ納得だな」
「違う、俺は───」
「栄、大丈夫。皆、栄のことを生徒会だなんて思っていないから」
「せや!栄の性格とマスコット先生の性格を鑑みても、2人が最初から手を組んでいたとは思えへん」
「それに、オレ達は協力していたとしてもそれに生かされた。だから、文句は言わないぜ」
純介・信夫・鈴華が順々にそんなことを言ってくれる。皆、俺を生徒会だと疑っている訳ではないようだった。
「皆...」
信じてくれている。俺は皆に、信じてもらえている。
「あのクソ野郎が変なことを言ってくれましたね...まぁ、いつかはバレてたであろう事実。無様に言い訳したりはしませんよ。池本栄君、私の名前を呼んでみてください」
「父さんの...名前...」
俺は、教卓の近くにいるマスコット先生の方を見る。
「池本朗。それが、マスコット先生の───俺の父さんの名前だろ?」
「正解です」
そう言って、マスコット先生は被り物を脱いだ。そこにあったのは、4月1日にバッサリ斬られた首と全く同じ顔であった。
「───父さんだったのか...」
どこかで見覚えがあったようなその顔。今見れば、すぐにわかる。俺の父さんの顔であった。
「数日後、個別で呼びますので。少し、話をしましょう。今日は、解散です」
そう言うと、マスコット先生はどこかに消えていった。文字通り、消えたのであった。
今日だけで、長いこと謎だった父親が発見した。最後に会ったのは、何年前だろうか。俺が物心つく前に両親は既に失踪していた。
「父さん...なんのために、デスゲームをしてるんだよ?」
俺は、父さんがデスゲームを行っている理由を追及したくなった。父さんに言わせるには「真の天才を作る」ということだったが、それが真実かどうかもわからない。
デスゲームを息子に経験させるためなら、5回も行うことはなく、俺達が最初のデスゲームの参加者になっていたはずだろう。まだまだ、謎があるのは確かであった。
これが、謎が謎を呼ぶ───というやつだろうか。
───と、マスコット先生が教室を出ていったのでこれにて今日の学校生活は終わったようだった。俺達は、もう寮に戻っていいだろう。
「稜、純介。健吾に声をかけて先に戻っていてくれ。俺は、智恵のところに生きたいんだ」
「───わかった。じゃあ、俺達は先に戻っておくよ」
「栄、グッドラック」
「ありがとう」
俺は、稜と純介にお礼を言って教室を飛び出す。そして、智恵が属しているチームFの寮に走って向かった。
今すぐにでも、俺は智恵に会いたかった。智恵に会って、話をしたかった。
聞きたいことはもう決めてある。智恵の過去と、俺は向き合うって決めたのだ。
俺は、チームFの寮のチャイムを鳴らす。出てきたのは、美緒だった。
「あ、栄。智恵は自分の部屋にいるよ」
「わかった、ありがとう」
俺は、玄関で靴を脱いで階段を登って智恵の部屋を目指す。智恵の部屋は、行ったことがあったのですぐにわかった。
「智恵、来たよ」
俺は扉をノックする。が、返事がない。
───と、忘れていた。この扉は全て防音だったのだ。
俺は、スマホを取り出して智恵に連絡を取ろうとした。すると───
”ガチャッ”
智恵の部屋の扉が開く。そこにいたのは、智恵だった。
「───やっぱり」
智恵はそう言うと泣き腫らした目を擦って俺に抱きついてくる。そして───
「栄が来たような気がして、扉を開けてみたらやっぱりいた。きっと、これを真っ先に言うべきだったよね。栄、助けてくれてありがとう。大好きだよ」