5月7日 その⑰
───俺の決断により、成瀬蓮也の生存が決定した。
周囲の皆から大批判を受けてしまったが、文句は言わせない。それに、文句を言っても受け付けることはしない。俺は、捨て猫に餌だけをあげるようなそんな中途半端な優しさを蓮也には与えた。
「生きてさえいれば何でもできる」という理論で、どうにか上手く頑張っていただきたい。蓮也には、今後何があったって「俺に罪を擦り付けない」ということを約束したので、変に逆恨みする必要はないだろう。
俺は、蓮也を責めることもなければ、これ以上救うこともない中立の立場を取ることにした。まぁ、蓮也に対する批判が強かったら抑止力になるよう動くかもしれないが。
「はい、それでは諸々の話は終わりましたね。では、残りの4人───第4回デスゲームの生徒会の皆さんと、第3回デスゲームの生徒会の鬼龍院靫蔓君には死んで頂こうと思います。それが、ルールですし」
「それは───」
「栄、止めないでいい。これは、俺が決めたルールだ。負けた今、見苦しく命乞いをしようとなんか思わねぇよ。だから、何もするな」
「───そうか、わかったよ」
俺は、小さく首肯いた。これが、靫蔓の望みだというのであれば何も言わない。死んでしまうのは嫌だったが、それも仕方ないだろう。
「それでは、目の前で死者が出ますので見たくない人はこの部屋から出ていってください」
マスコット先生の忠告と共に、部屋を出ていったのはグロ耐性のない健吾などであった。他にも、死の瞬間を見たくないという女子などは出ていった。部屋に残ったのは俺を抜かすと、安土鈴華・岩田時尚・宇佐見蒼・柏木拓人・園田茉裕・田口真紀・竹原美玲・津田信夫・成瀬蓮也・西森純介・細田歌穂・森宮皇斗・山田稜・山本慶太・結城奏汰であった。
「それじゃ、もういませんか?では、遺言の1つや2つでも残してもらって死んでもらいましょう。それでは、1人ずつ。最初は...1回戦に出た飛騨サンタマリアさんから」
「私は、名前をマスコット先生に呼ばれたので1歩前に出る。目の前にいるのは、私の後輩であり過酷なデスゲームを今後もしていくであろう挑戦者であった。マスコット先生の言葉のように言わせれば、家族であろうか。彼ら彼女らに伝えることとしては、ただの一つであろう。そう、君達と出会えて、楽しかった。その一言を残し、私は後ろに下がる。そして、一礼をした後にそこはかとない爽快感を胸に宿したまますぐに来るであろう死を待つことにした。」
飛騨サンタマリアの、まるで小説の地の文のような言葉で紡がれた遺言は、終わりになる。彼女の銀髪がススキのように小さく優しく揺れていた。もうすぐ、彼女は死んでしまうのであった。
次に、一歩前に出たのはブロンズ色の髪を持った少年───神戸トウトバンダーであった。
「長くは語らん。感謝だけを伝えたい」
神戸トウトバンダーは、そう一言伝えるだけで終わりにした。
「今思えば、彼と彼女達で第4回デスゲームの生き残りは全員いなくなってしまいますね。第2回のデスゲームの生き残りはまだ一人も死んでいないというのに...」
そんなことをマスコット先生は嘆いている。俺は、第3回及び第4回デスゲーム参加者の生徒会とは面識があったが、初回である第1回とその次に行われた第2回デスゲーム参加者と出会ったことはなかった。
もしかしたら、いつか敵として登場してくるかもしれない。まぁ、今すぐではなさそうだし問題はないだろう。
───と、まだ会ったこともない人のことを追憶していると、教壇から1歩前に出たのは4回戦で健吾と純介の相手をした松阪マリンであった。
「えっと、本当に最初の最初だけど皆と同じ学年入れたのはいい思い出です。まぁ、くじに負けて私がなったんだけどね。別に、最初からマスコット先生に仕組まれていたことだから君達のことはどうとも思っていないよ。デスゲーム、頑張ってね」
松阪マリンはそう言うと、一礼して元の場所へ退いた。さて、残るのはついさっき勝負が終わった靫蔓であった。
「えぇ...まぁ、なんというか、負けてすぐに挨拶ってのも少し恥ずかしいんだが...まぁ、いい」
そう前置きをして、靫蔓はこう言った。
「俺は、お前らのことを応援している。このデスゲームを生き残ってくれ!マスコット先生の手の上で踊らされるな。俺だって、今は生徒会でマスコット先生の仲間のような───お前等からしたら敵みたいな立ち位置だが、俺だって元はデスゲームの被害者だった。まぁ、この程度で終わりに───いや、最後に1つだけ」
靫蔓は、そう言って「コホン」と小さく席をした。そして───
「マスコット先生の正体は、栄。お前の父親だ───」
”バキュンッ”
靫蔓がそう言った直後、いつの間にかマスコット先生の手の中にあった銃弾で脳天を穿たれた。そして、靫蔓はその場にドサリと倒れる。
「んな───」
俺が驚いた理由としては、大きく2つ。1つは、靫蔓が急に射殺されたこと。
───そして、マスコット先生が自分の父親だったと判明したからであった。
これまで、俺は自分の父親が「GM」と予想していたのだが、それは違ったのだ。俺の父親は、GMではなくマスコット先生だったようだった。灯台下暗し。自分の父親は、すごく近い所にいたのであった。
「全く、そんなことをベラベラと喋って...赦される訳がないでしょう?」
───と、マスコット先生の被り物の目が、いつもより一層無表情に感じられる。
俺が思考にくれている間に、マスコット先生は他の3人に向けて銃を構えていた。そして───
「まぁ、ここで全員殺害してしまえば問題ありませんね。来世は、幸せになってください。人殺しの皆さん」
直後、靫蔓以外の3人も射殺される。そして、やってきた死体処理班によって回収されていった。
「───あぁ...死んでしまった...」
俺の口からは、そんな言葉が溢れてしまった。マスコット先生は、廣井兄弟もこんな感じで殺害したのだろうか。
───と、色々と問題を残して第4ゲームは終わりを迎えた。
まだまだ、色々な人物に聞きたいことはある。問題は、非常に多かった。