5月7日 その⑯
───その後、智恵はマスコット先生に早退を命じられて、同じくチームFの梨央と美緒・紬の3人によって寮に連れて行ってもらえた。
俺も、智恵に同行したかったがまだ第4ゲームは終わっていないからと拒否された。
第4ゲームのことが終わったら、俺もチームFの寮に行って智恵と話さなければならないだろう。
「まだ、色々と残っています。今回のデスゲームで、禁止行為を知ることができる権利が一人にのみ配分されるのですが、どうしますか?」
「1人...なんですか?」
「そうです。一人です」
康太が、裕翔を連れて行ってどこかに行ってしまった状況。なので、俺の周りに集まったのは7人だった。
「栄でいいんじゃないか?」
「僕もそう思うよ」
「このメンバーを集めたのは栄だしな」
「アタシも異論はないわ」
「オレもだ。栄、でいいと思うぜ」
皆が皆、「俺でいい」と言ってくれる。
「でも、俺が禁止行為を聴く人物って、もう皆わかってるけど...いいのか?」
「別に、恋人がいるなら当然でしょ。オレだったとしてもそうしているよ」
俺の疑問に、拓人がそう返してくれる。みんな、俺のことをわかっていて俺を推薦してくれているようだった。
「それじゃ、俺が聴きます」
「誰にしますか?」
「もちろん、智恵のです」
「わかりました。では、こちらに」
俺は、マスコット先生の方へ近付く。すると、マスコット先生は俺の耳に近付いてこう言い放った。
「村田智恵さんの禁止行為は『絶望したら死亡』です」
「───」
マスコット先生により告げられる智恵の禁止行為。それは『絶望したら死亡』というものだった。
絶望というものは、どう測るのだろうか。そして、これまでのデスゲームで智恵が生きているということは絶望していないこととなる。何か思惑があり、助かることがわかっていたのか。それとも───
いや、これは智恵に聴けばわかる話だ。後で会ったときに聞いてみようと思う。
「それでは、お待ちかね。処刑タイムのお時間です!池本栄君も、ほらほら。教卓の近くから離れてくださいよ」
マスコット先生が急かすようにして言うから俺は教卓から離れて教壇から降りた。すると───
「───ここは...」
教壇の上に現れたのは、飛騨サンタマリア・神戸トウトバンダー・成瀬蓮也・松阪マリン・鬼龍院靫蔓の5人だった。来ていないと思ったが、成瀬蓮也も他の4人と同じくマスコット先生に管理されていたと言うのだろうか。
「ひ、人殺し!」
そう、糾弾の声を最初に上げたのは、他の誰でもない梨花だった。同じ寮の仲間である睦月奈緒を殺されて、恨みを持っていたのだろう。
そう、梨花が非難の声をあげると、教室は非難轟々に包まれた。
「人殺し!」
「お前にはピッタリの死に様だ!」
「とっととくたばれ!」
教室中からの大批判。俺は、それを聞いてどこか蓮也に申し訳なくなってしまう自分がいた。
「だから、僕は悪くない!僕は脅されて仕方なくやったんだ!そんなに言うことないだろう!」
「その態度がムカつくんだ!」
「どうして謝らないのよ!」
「死ね!死ね!」
非難。批判。誹謗中傷。
蓮也に向けて言葉というナイフが牙を剥く。
「じゃ、じゃあ...謝る。謝るよ!これまでの態度を謝るよ!だ、だから助けてくれ!反省する!反省するから!」
先程まで、偉そうにしていたのに手のひらを返したかのように態度を変える成瀬蓮也。蓮也は、涙を流しそうになりながら命乞いをしてきた。
「お願いだ、助けてくれ!栄、お願いだ!なんとか言って助けてくれよ!」
「俺は───」
「栄、お願いだよ!僕が死んだって知ったら、君の恋人の村田さんだって傷つくよ!もしかしたら、自殺しちゃうかもよ!」
「───」
成瀬蓮也の言葉に、俺は動かされてしまう。ここで、蓮也を殺したら智恵のメンタルが更にやられてしまうかもしれない。智恵が、更に自暴自棄になってやつれてしまうかもしれない。
「マスコット先生、蓮也を助けることはできるのか?」
「何言ってんだよ、栄!」
「人殺しを許すのか!」
「ハッキリしろよ、栄!」
俺にも、非難が飛び火してくる。この教室は全会一致で蓮也が死亡することを望んでいる。だけど、だけど、俺は───
「───これで、蓮也を殺して智恵がやつれて自殺したらお前らが人殺しになるんだぞ?それでも...そしたら、お前らは全員死ぬのか?死なないだろ!可哀想だねとか同情するだけで、何も行動しようとなんかしないはずだ!」
俺がそう言うと、非難の声は止む。皆、ピタリと何も言わなくなったのだった。
「マスコット先生、蓮也が死亡したら、第4ゲーム『分離戦択』のルールの『11.挑戦者側が敗北したら人質も死亡する』に反するはずです!何故なら、蓮也は好んでゲームに参加したわけではないから!」
「そう、そうだよ!僕は望んでない!」
蓮也も、救われるとわかったのか笑みを浮かべた。
「そうですねぇ...その言い分も正しいかもしれませんねぇ...」
マスコット先生は、少し考えて被り物の口角をにやりと上げる。そして───
「そうですね。成瀬蓮也君は特別に生き残らせることにしましょう!」
「やった、ありがとう、栄!」
そう言って、俺に泣きながら抱きついてくるのは蓮也。
「俺だって、やむを得ず救ったんだ。蓮也がこれからどうなろうが俺は知らないからな。中途半端に救うだけだからな」
「い、いいよ!大丈夫、大丈夫!生きていればなんとかなるんだから!」
そう言って、蓮也は俺に感謝した。そして、再度湧き上がってくるのは蓮也への誹謗中傷。
ここから、蓮也の身にやってくる惨状を俺は知る由もなかった───否、俺は見て見ぬふりをした。