5月7日 その⑮
「───主人公のライバルか...そりゃあ、勝てねぇぜ...認めるよ、お前を。そして、負けを」
靫蔓がそう一言言い放つ。そして、自分の目を右手で覆った。
「───勝った...よかった...」
俺は、一気に脱力してその場にヘナヘナとへたり込んだ。誠は、その状態を突っ立った状態でただ俯瞰していた。
───まず、こう宣言しておこう。
俺達挑戦者側は、第4ゲーム『分離戦択』を生き延びる───3勝して勝利したのであった。
1回戦『リバーシブル・サッカー』 鈴華・拓人vs飛騨サンタマリア 勝利
2回戦『パラジクロロ間欠泉』 歌穂・稜vs神戸トウトバンダー 敗北
3回戦『バッターナイフ』 康太・奈緒vs成瀬蓮也 敗北
4回戦『限界ババ抜き』 健吾・純介vs松阪真凛 勝利
5回戦『デッドヒート・デッド』 栄・誠vs鬼龍院靫蔓 勝利
5回戦『デッドヒート・デッド』は「負けを認めたら負け」なので、靫蔓が敗北を認めた今、こちらの3勝が決定したのであった。
第4ゲーム『分離戦択』のルール
1.チームは生徒会側・挑戦者側の2つに分かれる。
2.生徒会側は5人・挑戦者側10人の参加者とする。
3.ゲームは最大で5ゲーム行うこととする。
4.1ゲームにつき生徒会側が1人、挑戦者側が2人出場する。
5.有事でゲームに参加できなかった場合、補欠として新たな参加者を用意する。
6.先に3勝したチームの勝ち。
7.ゲームの内容は、ゲーム開始前に挑戦者側が指定する。
8.負けたチームは全員死亡する。
9.挑戦者側が勝利したら、参加者に5万コインを配布する。
10.生徒会側が勝利しても、賞金に値するものはない。
11.挑戦者側が敗北したら人質も死亡する。
これで、俺達の生存は確定した。この2日間で繰り広げられていた長きにわたる戦いが幕を閉じたのであった。
───と、マスコット先生が靫蔓の敗北宣言を聞き、俺達、出場者と傍観者の全員が『3-Α』の教室に戻ってきた。いや、全員ではない。俺と戦っていた靫蔓は教室に戻ってきていないようだ。
俺達が3勝したために、靫蔓達生徒会側は全員の死亡が決定してしまう。
───そして、人質として取られていた智恵が戻ってくるのであった。
「さて、これにて第4ゲームも終了ですね!主人公である、池本栄君が勝利しました。主人公補正がかかっていますね」
「そんなんじゃない。これは、皆で掴んだ勝利だ」
主人公補正だなんて、俺一人で掴んだ言葉みたいではないか。確かに、最終試合に出て勝利したのは俺だ。だが、俺一人で手に入れた勝利じゃないのだ。
「まぁ、とりあえず優勝賞品である5万コインを9人には配布しますね」
そう言って、俺達には5万コインが配布される。だが、俺が今欲しいのはそれではなかった。
「マスコット先生、早くしてくれ。俺は早く会いたいだ」
「はいはい、わかっていますよ。ちゃんと受け止めてあげてくださいね」
マスコット先生がそう言った刹那、俺の目の前の宙に現れるのは、靫蔓によって誘拐された一人の少女───俺の彼女である村田智恵であった。
「き、きゃあ!」
唐突に呼び出され、足元に地面がなくなりびっくりしたのか智恵は小さな悲鳴をあげて俺の方に降りて───いや、落ちてきた。
「智恵!」
俺は、智恵の名前を呼び落下してくる智恵を受け止める。その柔らかな体が俺の上にやってきた。
「え、あ...さか、え?」
俺の腕の中にすっぽりと収まった智恵。座り込んでいる俺の上に正座をするような感じになった。
そして、受け止めたのが俺だということに気付いた智恵はすぐに涙を流してしまう。そして、智恵は俺のことを抱きしめた。
「智恵、もう大丈夫だよ...大丈夫。智恵のことは俺達が助けた。だから、大丈夫。怖い思いをさせてごめんな、智恵」
俺の腕の中で幼子のように泣く智恵を頭を、俺は優しく撫でる。智恵の温もりが、俺の肌に伝わってくる。
「栄...私、助けないでいいって...」
「言っただろ、そんな約束は守れないって。俺は、智恵を犠牲にして生き延びようなんて思わないよ」
「私だって...栄が死ぬかもしれないなら、栄の大切な友達が死ぬかもしれないなら、私は助かりたいなんて思わないよ...」
智恵の自己犠牲は、智恵の優しさだった。でも、今回のデスゲームで死亡してしまったのは睦月奈緒だけであった。智恵が思う10人全員が死亡する───なんて状態にはならなかった。
睦月奈緒には悪いが、智恵のメンタル的にも今この状態では、奈緒の死は隠させてもらう。と───
「智恵、知ってるか?お前を助けるためにデスゲームに参加した睦月奈緒は死んだんだぜ?お前が殺したってのと同義だろ!」
そう、智恵の心を抉るような発言を行ったのは、俺のことを目の敵に思っている裕翔であった。
「おい、裕翔!」
裕翔は、康太に怒鳴られて教室の外に連れて行かれる。
「───え...え...栄...それ、本当...なの?」
俺は、ここで嘘をついてもよくないと思い俺は静かに首肯いた。
「そんな...そんな...」
智恵の声が震える。どうにかここで、メンタルのケアをしなければ。
「で、で、でも...」
「でもじゃない、でもじゃないよ!私を助けるために死んだってことは、私を殺したのと同じだよ!」
智恵の声がハッキリと、そう述べる。この数日間、ずっと考えていたのだろう。
「私なんかより、絶対に奈緒ちゃんの方が生きていて価値はあった!」
「智恵、そんなことは言うな」
「私なんかより、奈緒ちゃんの方がなんだってできる!運動もできるし勉強もできる!それなのに...それなのに...」
「智恵、違う!俺は───」
智恵が、自暴自棄になっている。俺は、どうにかして智恵を慰めなければならない。冷静さを取り替えさせなければならない。
「私なんて、可愛くもないし頭も良くないし、役に立たないのに、どうして...ナイナイづくしの私なんていらないでしょ!」
「目に入れても痛くないし、あどけない智恵が嫌いなわけないだろう?それこそ、智恵のいい部分をあげていくとキリがないよ!ナイナイ尽くしかもしれないけど、その『ない』は否定の『ない』じゃない!そんな、自分を悪く言う感情はナイナイしちまえ!」
俺は、そう言って、智恵にキスをする。智恵は、俺のその行動に驚き、一瞬目を見開き、すぐに再度涙を流してしまう。
「私は...私はぁ...」
智恵が強く抱きしめる。教室には、智恵の泣き声だけが響いていた。
教室には、智恵の泣き声だけが響いていた。
勝利。その後味は決して甘くなく───。