5月7日 その⑥
何ターンかかっただろうか。数えていないし覚えてもいない。
だが、今は松阪マリンが健吾から引く番である。
「うーん、当たらないわね...」
そう言って、純介は松阪マリンが先ほど引いたカード───♧2を引いて捨てる。そして───
「先生...お腹が痛くて...トイレに行っていいですか?」
「トイレ、ですか?」
「はい...」
「いいですが...トランプをここに置いていってください」
「松阪マリンや先生が覗く可能性は?」
「そんなことはしません」
「そんなことをしない根拠は?」
「───トイレにトランプを流したりしてはいけませんよ?」
「そ、そんなことしませんよ...それをしたら後で齟齬が生じてバレるじゃないですか...」
「それもそうですね。まぁ、イカサマ防止の為手元にあるトランプの枚数を数える機械を用意しておきます。絶対に、イカサマしたらバレますからね?」
「わかってますよ。それなら、トイレの前まで付いてきてくださいよ」
「わかりました」
そんなことを言って、純介とマスコット先生はトイレに行ってしまった。純介、本当にお腹が痛くて大変そうだ。
いや、もしかしたら何か勝つ方法を思いついていたのかもしれない。だけど、イカサマにはかなりチェックされるはずだ。
出ていく時、突如として現れた空港の荷物検査にある金属探知機のようなものをくぐった純介。残りの枚数は「15」を記していた。
───そして、数分後。
純介とマスコット先生が戻ってきた。そして、教室に戻ったときも数字は変わらず「15」を表したままだった。
そして、マスコット先生にボディチェックを受けてカードを体を隠していないかチェックされたようだった。
「1,2,3,4...ふふっ、確かにありますね。何か面白いイカサマでも思いついたと思ったら...まぁ、期待外れですね」
「失礼ですね、僕がそんなに汚いように見えますか?」
そんなことを言いながら、純介は席に座る。そして、健吾に一枚のカードを引くように指示をした。
「これだな?」
だが、そのカードは揃わない。
「あぁ、そういうことね。理解理解。それと、ここで宣言だ。オレはジョーカーを2色分持っている」
「───ッ!」
「やっぱりか...」
純介はその宣言に驚き、松阪マリンは自分の考えと同じだったと頷く。
そう。松阪マリンはジョーカーを1枚も持っていないため、健吾か純介のどちらかがジョーカーを持っていると踏んだ。そして、健吾にジョーカーの所在を聞かなかった理由で、自分が持っているババを明かしたくないから───と、考えると純介の手元に2枚あるとは考えづらかったのだ。
「純介。このターン。ジョーカーを持っていればくれ。オレがそれを捨てる」
「わ、わかった...」
純介が手渡し、そして捨てられる赤のジョーカー。そして、ここで3人に持っているジョーカーが黒であることが明らかになった。
「さぁ、松阪マリン。俺の手元にあるジョーカーの可能性のあるものを引いて言ってくれよ」
「───もちろんよ。どうせ、引くことにはなりそうだしね」
そして、引かれて捨てられるのは♧9であった。ここからは、少しダイジェストでお送りしようと思う。
純介が松阪マリンのを引くのを「マリン→純介」、健吾が純介のを引いくのを「純介→健吾」、松阪マリンが健吾のを引くのを「健吾→マリン」と現すこととする。
マリン→純介 ♡2 捨てる。
純介→健吾 ♡K 捨てる。
健吾→マリン ♡5 捨てる。
マリン→純介 ♡1 捨てる。
純介→健吾 ◇7 捨てる。
健吾→マリン ♤6 捨てる。
マリン→純介 ♡6 捨てる。
純介→健吾 ◇8
健吾→マリン ♤J
マリン→純介 ♤1 捨てる。
「うーん...どうしよう...」
純介の手元からは、ドンドンカードが無くなっていく。もう、健吾が減らせるカードは無くなってきているのだ。だから、健吾に◇8を渡したりして次のターンを凌いでいたのであった。
だが、純介の手札がどんどん減っていくために健吾を上がらせることができずにいた。
純介→健吾 ♤1
健吾→マリン 黒のジョーカー
「───」
松阪マリンが、ジョーカーを引いた。このジョーカーは、ババだと言うことがわかっていた。チラリと、健吾は純介の方は見る。その視線で、純介も何か気付いたようだった。
マリン→純介 ♤8
純介→健吾 ♤8 捨てる。
「うーん、僕の方が早く上がってしまいそうだ...」
健吾→マリン ♧8 捨てる。
マリン→純介 ◇8
純介→健吾 ◇8 捨てる。
健吾→マリン ♧9 捨てる。
マリン→純介 ♧5
純介→健吾 ♧5 捨てる。
「よし、オレは残り2枚までやってきたよ」
「おっかしいわね、私どうして減らないのかしら...」
健吾→マリン ♤1 捨てる。
現在の手札は以下の通りであった。もうすぐ、決着の時は近そうである。純介は、ジョーカーだけは引かないようにカードを選んで引いていた。
健吾 ◇4・♡4
純介 ♧K・♤3・♤7・◇3
松阪マリン ♧K・♤7・◇4・♡4・◇3・♤J・黒のジョーカー
マリン→純介 ♧K 捨てる。
純介→健吾 ◇3
健吾→マリン ♡4 捨てる。
マリン→純介 ◇4
健吾→マリン ◇4 捨てる。
マリン→純介 ◇3
そして、この時はやってきた。
「健吾、これで上がってくれ」
「わかった、ありがとう純介!」
そして、純介が健吾に渡すのは◇3。
「───まず、オレはあがりだ。松阪マリン、純介は手強いぜ?」
純介→健吾 ◇3 捨てる。
健吾 あがり
「それじゃ、僕が引く番だね」
そう言って、純介は♤7を引く。そして、カードを3枚捨てる。
「これで僕の手札は無くなった。チェックメイトだ」
「───は?」
純介が捨てたカード。それは、♤7を2枚と、♤3を1枚であった。
───♤3は松阪マリンの手札の中に存在していない。
松阪マリンの手札の残りは♤J・黒のジョーカーだった。何が起こったのであろうか。
齟齬?いやいや、まさか。