5月7日 その③
「───それでは早速、ルール説明を始めましょう。第4ゲーム『限定ババ抜き』の」
映し出されている映像から聞こえるマスコット先生の宣言と同時、手を挙げるのは純介だった。
「───って、西森純介君。どうしました?」
「あ、あの...トイレに行ってきてもいいでしょうか?緊張で腹を下してて...」
「トイレですか...まぁ、それも構わないでしょう。お腹大丈夫ですか?」
「負けたら死ぬって思うと、今日の朝から腹痛で...」
「そうですか。では、行ってきていいですよ。傍観者の皆さんも今のうちにトイレに行ってきてください」
すると、数人がトイレに出ていった。昨日、死者が出たのだし再度デスゲームを集中して見る人も多かったようだった。俺も、純介のことが不安だったのでトイレに移動する。
───と、思いトイレにやってきたけど純介はトイレの個室に入ってしまってた。
そりゃあ、腹を下していたらしいのだから当然といえば当然だろう。
───と、ここらへんであまり記載していなかったしトイレのことについても記載しておこう。
女子トイレは、入ったことどころか覗いたことすら無いので知らないのだが、男子トイレは入って右側に小便器が6つ規則正しく並んでいる。左側には、手洗い場が2つと個室が3つあった。
トイレの個室の内側の扉には、「トイレットペーパーは使いすぎないでください」という文字とマスコット先生に似た落書きのようなものが書かれた紙が、個室のそれぞれに貼られている。
別に、学校のトイレにしては普遍的なものだった。トイレに関しては、私立の高校に負けてしまうかもしれない。でも、他の教室が異常なほどに広かったりするのだが。
俺は、純介の気持ちも考えてトイレの外で待つことにした。トイレのすぐ側で待たれても、排泄に集中できないだろうし。
───数分後、純介がトイレからでてきた。
「あ、栄...」
「純介、大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫だよ」
「無理しないでね」
「残念だけど、後先がないんだ。後戻りはできないみたいだしね。だから、無理しかしないよ」
「そうか...ごめんな、俺のせいで」
「栄のせいじゃないよ。そんなに、僕を誘ったことが心残りみたいなら、僕だってそれを見返してやるくらい活躍してやるよ」
「そうか、じゃあお願いするよ」
「任せてくれ!」
そう言って、純介は『3-Α』の教室に戻っていった。話が少し横道にそれるが『3-Α』って発音するのも、かなり慣れてきた。別に語呂が悪い訳ではないし、それどころかハマり具合もいいような気がしている。
───と、やはりそんなことはどうでもいい。
俺は、『3-Α』の隣の空き教室 (3-β?)に移動して白板に映し出される映像を見る。純介も、丁度席に戻っていったようだった。
「おかえり、純介」
「ごめんね、待たせて」
「別に、問題ないぜ」
「私も問題ないわ。緊張くらいするわよね、私も第4回デスゲームに参加していた時は毎回していたわ。生徒会だからといって、デスゲームで生き残れる確証はないもの」
松阪マリンは、謝罪する純介を優しく宥める。今回敵である先代の生徒会も、俺達と同じくデスゲームを経験し、1年間を生き延びたのだ。故に、デスゲームの恐怖も知っているのだ。
「そうか...生徒会はあくまで生徒の中での情報を撹乱したり場を扇動するだけで、真の天才を作るっていう目的の対象ではあるのか...なんか、面倒な存在だな...」
そう呟くのは、俺の斜め後ろ辺りでデスゲームを観覧している康太であった。ちなみに、俺は皆からの好意で最前列の中心に座らせてもらっている。
いつも噛み付いてくる裕翔だが、自分はデスゲームにほとんど興味がないのか後ろの方でスマホを見ている。別に、何も言うまい。デスゲームの見る見ないは個人の自由だ。だが、その態度が今後どう影響してくるかが問題だ。
「───それでは、デスゲームの説明を行います!では、こちらを見て待っていてください!私は、傍観者の皆さんがいる部屋にも貼ってきますので少々おお待ちを」
そして、ルールを渡される3人。その数秒後、マスコット先生がこっちの部屋に入ってきてルールを貼り出してそのまま戻っていった。
4回戦『限界ババ抜き』のルール
1.このゲームはトランプを2組 (54枚×2)を使用する。
2.最初に、ジョーカーを4枚取り出して裏面でシャッフルをして1枚を抜き取る。抜き取った一枚は、参加者に見えないように伏せておく。
3.引かれたジョーカー以外の、残りの3枚を、数字と模様が書かれたカード104枚に含め、シャッフルを行う。
4.最後までババ (ジョーカー)が残ったら負け。
5.ペアが揃ったら捨てることも可能。
6.同じ数字且つ同じ模様でないとカードをペアとして捨てることができない。
7.他のルールはババ抜きに準ずる。
───ついに発表された『限界ババ抜き』のルール。
それは、神経衰弱とジジ抜きも一部加わったババ抜きであった。
「このゲーム、普通のババ抜きじゃねぇな...」
そう、このゲーム。ルールは簡単だが、それ故にかなり高度な心理戦が行われることが予想できた。
まず、ジョーカーには黒と赤の2つがある。そのトランプを2組使うので、ジョーカーでもペアを作ることが可能だ。そこから1枚引いているから、ジョーカーの一枚が欠けている状態。
───要するに、黒か赤のどちらかのジョーカーはペアができるのだ。
よって、ジョーカーのペアができて廃棄されるまでどっちがジョーカーかわからないのだ。
「全く同じトランプを2組使って初めてできる遊びってことか...」
神経衰弱よりも更に厳しく、全く同じカード───例をあげるなら♤の1ならば、もう1枚の♤の1が無いと捨てられないということだ。
───さて、この『限界ババ抜き』はどう動くのか。