5月7日 その①
「んん...」
俺は悪夢に魘され、目を覚ます。時刻は、5時30分。いつもと同じ起床時間であった。
ベッドの外に、這うようにした俺はシャワーを浴びようと浴室に向かう。
───智恵を救うためには、もう後がない。
今日行われる第4ゲーム『分離戦択』の4回戦と5回戦の両方で勝利を収めなければならないのだ。
「4回戦は健吾と純介の2人任せることにして...」
そんなことをブツブツと呟きながら、俺は脱衣所で服を脱ぎ終えて浴室の中に入る。
智恵のいない朝と言うものは、酷く寂しいものだった。
早起きして、智恵とお喋りをする至福の時間が取れないのだ。俺は、シャワーの水を浴びつつ考え事に耽る。
靫蔓は、4回戦には出ずに5回戦で俺と誠の2人の相手をするだろう。ならば、4回戦は誰が出るのだろうか。
飛騨サンタマリアや神戸トウトバンダーのような感じで第4回デスゲームの参加者がでるのは予想できていた。蓮也のように、本校の生徒が出る可能性も予想はできていたのだが、昨日試合に出ずにその場にいた、マスコット先生と同じ被り物をしていた人物がいたので、その人物だろうと予想できたのだ。
俺は、負ける気はないので4回戦を健吾と純介の2人に任せることに決めた。2人が勝てるように願うのだ。
「俺達4人で、11人の命がかかってるのか...」
そう思うと、かなり重責だ。尚更、負けるわけにはいかない。
「───頑張らないとな、智恵と会うためにも」
智恵を助け出し、過去の話を聴くのだと決めたのだ。森愛香を仲間に引き込もうとした際に、智恵のことを何も知らないことに気付かされたのだ。
「もう、逃げないって決めた。智恵、覚悟しとけよ」
何の覚悟かって?そんなもの、最初から決まっている。
「俺から更に愛される覚悟だ」
弱気になってはいられない。シャワーを浴びて、気分がサッパリしたので俺は浴室から出て制服に着替える。
───そして、すぐに時間はやってきたので登校する。
「ははは、空気が重いな...やっぱり」
そう言って、自虐的に笑うのは稜であった。
「しょうがないだろ、僕達は出番があるんだから...緊張してるんだよ」
純介も、自分が確実に負けられないことは気付いているようだった。いや、聡明な純介ならそのくらい俺よりも先に気付いていただろう。
俺達チームCの栄・健吾・純介の3人は今日試合を控えていた。稜は、昨日試合を行っており、負けてしまった。だが、誰もその負けを責めはしないだろう。稜は勇猛果敢に戦った。
「負けた俺が、とやかく言うべきじゃないんだろうけど、頑張ってくれ」
「もちろんだよ。稜だって、頑張ったんだから自分を卑下しないでくれ」
「ありがとう、純介。でも、負けた俺自身が自分を許せないんだ」
稜はそう言うと、深刻そうな表情をした。誰だって、不安なのだろう。
───そして、朝のHRの時間がやってきた。
「ガラガラガラ、皆さん。おはようございまーす!」
ガラガラと口で良いながら教室に入ってきたのは、マスコット先生と、マスコット同じ被り物をした人物が一人だけだった。靫蔓の姿は見えない。後で来るのだろうか。
───と、教室に数人の姿が見えない。
「本日は、人が全員座っている様子ではないので出席を取りますね」
智恵の座席が空いているのは当然だが、他にも数人の生徒の姿が見えない。例をあげると、愛香だ。
「では、1番から。秋元梨花」
「はい」
「安土鈴華」
「いんぜ」
「安倍健吾」
「はい」
「池本栄」
「はい」
「岩田時尚」
「はい」
「宇佐見蒼」
「いるピョン」
「奥田美緒」
「はい」
「柏木拓人」
「はい」
「菊池梨央」
「はい」
「斉藤紬」
「はーい」
「佐倉美沙」
先生が、美沙の名前を呼んでも返事が帰ってこない。
「佐倉美沙さんいますか?いませんね、秋元梨花さん何か聞いていますか?」
「アタシ以外の2人は休みです。誰かさんのせいで人間が怖くなったと」
「あら、そうですか。それは残念ですね。では、次。杉田雷人」
「はい」
「園田茉裕」
「はい」
「田口真紀」
「はい」
「竹原美玲」
「はい!」
「橘川陽斗」
「はい」
「津田信夫」
「はい!」
「東堂真胡」
「はい」
「中村康太」
「はい」
「成瀬蓮也」
蓮也の名前を呼んでも、返事は返ってこない。
「勝ち逃げかよ、クソガキが...」
そう、声を出すのは康太だった。蓮也は、皆から攻められるのを予想したのか今日は休んだようだった。
「いないってことは休みですね。次、西村誠」
「はい」
「西森純介」
「はい」
「橋本遥───は、休みなんでしたね」
秋元梨花と佐倉美沙と同じくチームAの橋本遥も休みのようだった。
「細田歌穂」
「はい」
「三橋明里」
「はい」
「村田智恵と森愛香はおやすみで...森宮皇斗」
「はい」
智恵と同じく、マスコット先生は森愛香の休みを完全にスルーした。理由さえ聴かなかったのだ。
───もしかしたら、靫蔓と愛香の2人がいないのはマスコット先生と勝負を受けて敗北したからだろうか。
「山田稜」
「はい」
「山本慶太」
慶太の名前を呼んでも返事が返ってこない。山本慶太は何故休んだのだろうか───と、思ったが違った。
教室にしっかりといた。ただ、眠っているだけだった。
「山本慶太君!」
「え、あ、は、はい!」
マスコット先生の大声に驚いたようにして返事をする慶太。
「寝ないでくださいよ、結城奏汰」
「はい」
「渡邊裕翔」
「はい」
「綿野沙紀」
「はい」
「休みは5人ですか...了解です。それでは、第4ゲームの4回戦を始めようと思います。場を仕切るのは、靫蔓の代わりに私が引き受けます。それでは早速、挑戦者側の皆さんは4回戦に誰が出るか選択してください」
───と、靫蔓がいないままにゲームは進んでいくようだった。
愛香や靫蔓が居らず、不安点は色々あるのだがそんなことは誰にも追求されずに第4ゲーム『分離戦択』の4回戦は始まろうとしていた。