閑話 睦月奈緒の過去
睦月奈緒───ボクは、この世に名を残せない人生だった。
この世に名を残せる人の方が少ない───という正論はおいておいて、ボクには確かにこの世に名を残せる才能があった。
アスリートであり185cm超えの父と、昔は数年だけアイドルとして活動していた母の間に産まれたボクには、人を惹きつける才能と運動能力が備えられていた。
───と、父と母が結婚した経緯は、父が母の熱烈なファンで、そこから交際に繋がり、結婚までいった。
まぁ、その話は今は不必要なものだった。
ともかく、ここで伝えたいのはボクにはアイドルのような美貌とアスリートのような運動神経があったのだ。
だから、ボクはその運動神経一筋で生きてきた。だが、その選手生命というものは酷く凄惨なものだった。
学校という小さな集団の中ならば、ボクは素晴らしい結果を残せた。それに、陸上クラブでも周りが喫驚するような結果を残すことはできた。
───だが、父はアスリート。ボクの世界はこれだけ小さなものじゃない。狙うのは、世界だったのだ。
陸上の世界大会への参加の基準としては、アンダー18に参加するとしても16歳であることが必須だった。
───が、審査基準にこんな規定がされている。
年齢カテゴリー
16歳未満の競技者 - 2025年12月31日時点で16歳未満(2010年以降生まれ)の競技者はエントリーす
ることができない。
(WORLDATHLETICS 参加資格取得制度および標準記録より引用(したものを2025年用に改定))
ボクが高一の時は、こんなルールが定められていた。本来ならば、高一の時から参加できるはずだった。
───だが、ボクは早生まれで誕生日は2月26日であり、高1の時は参加できなかったのだ。
これを利用すれば、ボクは高3までなら参加できるはずだった。だから、どちらかというと有利なはずだったのだが、早く大会に出たいボクは高一で出られないことを悔やんだ。
───そして、早くも1年が経つ。
高2となったボクは、世界大会にエントリーして予選を突破しついに本戦まで勝ち上がった。ここで勝てば世界王者だ。
ほぼ、それと同時期にボクのところに届いたのが帝国大学の附属高校である帝国大学附属高校の勧誘が来たのであった。国立の大学だが、その下につく私立であることが見て取れた。
それに、帝国大学は文武両道であり世界とも戦えるトップクラスのアスリートを排出している。
「父上、ボクは帝国大学付属高校に行っていいのでしょうか?」
「オレは別に拒まねぇけど...いいのか?来年のアンダー18には出場できねぇんだぞ?」
「それに関しては大丈夫です」
「───どうして?」
「今年で優勝しますから!」
「ほう、流石はオレの娘だな!」
そう言うと、父は大きな右手でボクの頭をワシャワシャと撫でた。
───で、世界大会の結果はどうなったかのとは言うと。
不戦敗だった。
そもそも試合に出れずに敗退。ボクは、夢にまで望んだ世界大会の会場に足を踏み入れること無く敗退したのであった。
そして、大会に一度も出ることなく僕は帝国大学附属高校に転校することになったのだ。
───それで、そこでクラスメート全員が生き残るように慎重に行動していたら裏切られて死亡した。
***
「───どうやら、ボクには勝利という文字は似合わないようだ」
「ハハハ、本当にそうですねぇ。アナタは、敗北の女王ですよ。第6回以降のデスゲームがあったら、是非とも敵として出ていただきたい」
「───でも、どうして勝ち知らずのボクをデスゲームに?」
ボクは、死んだはずのボクを生き返らせて過去を話させたマスコット先生に質問をする。
「毎回、参加させるようにしているんですよ。勝利という言葉とは無縁の女性を」
マスコット先生はそう述べた。
「ハハハ、いい性格してるね、先生は」
「よく言われます」
そう言って、マスコット先生の被り物の口角が上がる。そして───
「───では、さよならです。機会があれば、またいつか」
───ボクの意識は、混濁していく。そのまま、プツリと何かが切れ───。
ボクは再度、人間の行きつく先に戻ったのだった。
死亡キャラの過去回想は、このようにしてマスコット先生が一度生き返らせて聞いていました。
もちろん、聞いた後は再度殺されます。そうしないと「死」が軽くなってしまいますからね。