5月6日 その㉛
3回戦『バッターナイフ』のルール
1.ゲームは表裏最高9回行う。
2.ゲームは、攻撃側と守備側を交互に行う。攻撃側と守備側を両方行い「1回」とカウントする。
3.攻撃側は、ボールと書かれた球4つとナイフと書かれた球2つの合計6つが渡される。
4.守備側は、バリアを2枚・スイング3振り・ダブルスイング1振りの合計6つの権利がある。
5.攻撃側と守備側は、1球/1つずつ選択し、手持ちがなくなるまで行う。手持ちがなくなったら、攻守交代する。
6.ボールがスイングに当たれば、「駒」と呼ばれるもう片方のペアの人物は1つ塁を進める。ボールがダブルスイングに当たれば、駒は2つ塁を進める。なお、ボールがバリアに当たっても何も起きない。
7.挑戦者側は、駒とバッターを交互に行う。
8.生徒会側の駒は、マスコット先生が行う。
9.駒が本塁にまで戻ってくることができたら1点を獲得する。
10.ナイフがバリアに当たったら防衛成功。1点を獲得する。
11.ナイフがスイングに当たっても何も起きない。ただし、ナイフがダブルスイングに当たった時は、ダブルスイングを行った人にナイフが突き刺さり、死亡する。
12.死亡した人物が出たチームは、その場で敗退決定。
13.ゲーム終了時までに死者が出なかった場合、得点が高かったチームの勝利。
第4ゲーム『分離戦択』の3回戦『バッターナイフ』の8回裏が開始する。
3回戦『バッターナイフ』のルールに「ゲームは表裏最高9回行う」と記載されているので、試合が終了の歯この8回裏が終わった後もう1回した時だった。
「最高」という記載は、どっちか一方のチームで死者が出た場合その場で試合を終了するからついているものだが、このまま行けば死者も出ずに安心して終了できそうだった。
8回表までの得点は挑戦者側が14点で生徒会側が10点と、もうこちらの負けはない状況になっていた。
「これで、2点獲得することになるから、4回戦は俺と誠が出て第4ゲームに王手をかけようとするかな...」
俺は3回戦『バッターナイフ』が終わった後のことをもう既に画策していた。
「8回裏、1球目」
───と、俺が今後のことを思案している内にもう既に1球目が決定していたようだった。
と言っても、1球目は毎回スラスラと決定していた。そして、1球目にナイフが投げられたのは15回中2回だった。
1回表と5回表の2回。両方、投げたのは康太だった。蓮也は、1球目にナイフを投げるような勇気はなさそうだったし、奈緒はその優しさからかナイフを投げることはなかった。
───そして、8回裏の1球目に投げられるのもやはりボール。
そして、奈緒はそのボールをスイングでかっ飛ばした。康太は、それを目で確認して1塁に進む。
「さて、もう得点を貯める必要はないからな...」
奈緒は、何かを考えるような表情をする。そして、すぐにタブレットでどれを次に使用するか決定したようだった。
「───」
蓮也も、すぐに選択したようだった。
「2球目」
どこか、マンネリ化した3回戦。流石に、9回裏までやるのは長かったのだろうか。
観客席側からは、もう既に飽きたような声が聴こえていた。試合を見ずに、スマホを眺めている人だっていた。
そして、3球目に放たれるナイフ。それを防御するために現れたバリア。もう得点は必要ないが、奈緒に迫ってくるナイフがバリアで防衛されたために、挑戦者側に1点が追加される。
これで、15点だ。
「───まずい...」
ポツリと、蓮也がそう呟く。俺は、奈緒と康太の2人を応援しているがために蓮也の手助けになるようなことはできない。
「蓮也、焦らなくてもいい。大丈夫だ。君のことを、誰だって責めることはない」
奈緒は、負けることを危惧しているであろう蓮也をそう優しく宥める。
俺達は、誰も死なないためにデスゲームをしているのだ。死なないために死ぬゲームをやる───とは、なんとも矛盾を感じるものだが、捉え方を変えれば蓮也もまた智恵と形は違えど人質に取られたようなものだった。
そして、3球目の選択が始まる。それも、数十秒もかかることなく一瞬で選択が終わる。
「3球目」
蓮也が投げるのはボール。そして、奈緒の目の前で展開されるのはバリアだった。
ボールがバリアに当たり、反射するように地面にコロコロと転がる。どうやら、奈緒の2連続ナイフを投げてくるという読みは外れたようだった。
───いや、もう得点を重ねる必要はないので適当に選抜した結果なのかもしれない。
ダブルスイングにナイフさえ当たることさえなければ問題ないのだ。故に、ここからのゲームでの難点はほとんどそこだろう。
相手にいくらでもポイントを稼がせてもいいから、現在試合に出ている3人が死亡しないようにすればいい。
そうすれば、俺達は勝利もできるしクラスメートも死亡することはない。一番いい形で勝負を終わらせることができる。
「───さて、4球目はどうするか...」
奈緒は一瞬迷って、こう蓮也に告げる。
「蓮也、次にボクはダブルスイングを選択する。全員生き残るためにも、ここはナイフは投げないでほしい」
「───うん」
蓮也は、奈緒のいう言葉を噛み締めてから返事をした。そして、球の一つを入れた。奈緒も、その姿を見てタブレットで「ダブルスイング」を選択していた。
───今思えば『バッターナイフ』は、心理戦ではなく協力して戦うことが多かったような気もする。
1回表の康太の「ナイフを投げる」という宣告から始まり、奈緒がピッチャーをやる際に掲げて宣言した「3球目にナイフを投げない」というルール。
それを信じて、今のところ3人が生き残っていた。蓮也は、靫蔓に脅されつつも皆を生きる道を選択したようだった。
「4球目」
マスコット先生の言葉と放たれるのは───
───ナイフだった。
「んなっ!」
「───」
「なんで!」
奈緒と康太は驚き、蓮也は俯いたまま声を出さなかった。
奈緒の目の前で振るわれる強力なスイング───ダブルスイング。その力強さとスピードのせいでナイフに当たることはなくそのまま、ナイフはものすごいスピードで奈緒の胸に突き刺さる。
「───かは」
「───マジかよ...」
隣の隣で健吾の声がする。確か、初日に健吾は「グロいのが苦手だ───」とか言うことを言っていたはずだった。
「稜、健吾を頼む!」
「あ、あぁ!」
稜は、俺の言葉に察してサッと健吾の視線を背中で塞ぐようにして立った。
「健吾」
「すまん、ありがとう...」
「おい、おい、おい!奈緒!」
俺は、奈緒に駆け寄った。俺達の考えが甘かった。相手は、敵なのだ。信頼なんかできるはずなんかなかったのだ。
「は...はは...ボクはものすごい馬鹿だな...」
ナイフが胸に刺さった奈緒は、呼吸が浅い状況で言葉を紡いだ。
───もう、奈緒は数分もせずに死んでしまう。
「ごめん、ごめん、奈緒!俺の判断ミスだ!ごめん!」
奈緒の周りに来ていたのは、俺と康太の2人。マウンドの方を見ると、安堵したかのような表情を浮かべていた蓮也がいた。そして、観客席の方に顔を向けると、こちらをただ棒立ちで見ている者だったり、奈緒が死んでしまう状況に驚き青ざめてしまうもの、死の瞬間を見ないようにするために顔を手で覆っている者もいた。
もちろん、そんな状況でもスマホを見ている者だっていた。人が死んでいるというのに、だ。
───そして、俺は奈緒が死んでしまい『バッターナイフ』に敗北してしまうという、史上最悪の『バッターナイフ』の終わり方をしてしまったことに気が付いたのであった。