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5月6日 その㉙

 

「───ッ!」


 靫蔓が、蓮也に向けて脅しのような声をかける。このままじゃいけないと、脅すような声であった。

 そのせいで蓮也は焦ってしまい、すぐに球を選んでピッチングマシンに入れてしまった。


「靫蔓、卑怯だぞ!このゲーム、脅すなんて───」

「あぁ?何言ってやがる。先に、ゲーム参加者に声をかけたのは栄。お前だろ?」

「───あ」


 靫蔓に、そんなことを言われてしまうと何も言い返すことができない。靫蔓は、俺が声をかけることを見据えてこれまで静かにしていたのであった。

 靫蔓の言い分である「俺が先に声をかけた」ということが正しい以上、こちらは何も言い返すことができない。


 いくら「脅すのは卑怯だ」などと靫蔓を糾弾したところで、靫蔓は聞く耳を持たないだろう。

 ならば、声をかけるのは無駄。俺は、これまで通りただ座ってみていることしかできないのだ。


「クソッ、俺のせいで...」


 俺のせいで、これまでの考察は全ておじゃんになってしまった。今回は、正真正銘俺の失態だろう。

 声さえ出さなければ、康太もいずれ蓮也の考えに気付いたかもしれない。


 ───と、そんなことを思っていると康太はこう声を出した。


「栄、助言をありがとう。これで、いいヒントになった。それと、靫蔓にも感謝を言っておくよ」


 康太は、俺達2人に声をかける。俺が感謝されるのはわかるが、どうして靫蔓にも感謝を?

 俺は、そんなことを疑問に思いつつ康太の選択を見届ける。


「待ちに待った、4球目」

 マスコット先生のそんな声と同時に、ピッチングマシンから放たれたのは、ナイフであった。


 ───ここに来て、蓮也はナイフを投げてきたのだ。


 俺は、思わず目を見開いてしまう。康太の目の前に展開されたのは───




 ───バリアであった。


 ナイフはバリアにぶち当たり、そのまま地面に転げ落ちる。康太は、ナイフを見極めたのかバリアを使用したのだ。


 挑戦者側の初得点。そして、こちらのリードであった。


「でも、どうして...」

「答えは簡単だ。栄の言ってくれた言葉を考えるに、蓮也は4球目もボールを投げようとしていた。でも、靫蔓がそれを咎めるように声を出したから、蓮也はナイフを投げることに決めたんだ」


 ───そうだ。


 蓮也は、靫蔓のことを怖がっている。怖い犬に吠えられたら逃げ出すように、靫蔓に文句を言われたら、自分の意志を曲げて相手に合わせた選択を取るだろう───そう考えたのであった。


 結果的に、俺の言葉は思考の誘導に成功したようだった。


「よかった...」

 俺は、胸を撫で下ろして椅子に再度座り直す。靫蔓は、こちらを睨んでいたがそれは気にしない。


 お互いに一言ずつ声を出したのだから、平等だしね。

 それがわかっているからか、靫蔓はこちらにいちゃもんをつけてこない。


 ───と、ダブルスイングを残したまま5球目にまで辿り着いてしまった。


 蓮也の持つ球は、ボールとナイフが1つずつ。そして、康太が持つ権利はスイングとダブルスイングの1振りずつであった。


 ここで、出すものを間違えてしまえば康太は死んでしまう。その状況は、依然として変わっていないのであった。


「さて、どうしようか...」

 蓮也は、ビビったようにしてチラチラと靫蔓の方を見ている。だが、靫蔓はそんな蓮也を見るだけで何も声はかけていない。別に、視線で合図を送っている───だとかはなさそうだ。


 ───蓮也が5球目に何を投げるのかはほとんど予想ができない。


 ボールを投げる可能性も、ナイフを投げる可能性もトントンなのだ。康太は、ナイフにスイングを。ボールにダブルスイングをぶつけなければ死亡が確定してしまうから、5球目も同じく重要だった。



 ───そして、お互い思案を続けて時間は3分が既に経っていた。


「長い」

「長いな...」

 傍観者からは、飽きているのかそんな声がチラホラと聴こえだしていた。試合中、ずっと雑談などが俺の耳に入ってきてはいたが、思案に邪魔なものばかりだったので聞き流すようにしていたし、特筆することもなかった。


「よし、俺も男だ。覚悟を決めようじゃないか」

 そう言って、康太はタブレットでどちらかを選択をする。俺には、その手元は見えなかった。


「さぁ、後は蓮也。君だけだよ。君の一存で、人が死ぬ。もちろん、俺はもう変更できないから」

「やめてくれよ...そんな怖いこと、言わないでくれよ...」


 蓮也は、2球のボールを1球ずつ両手に持って交互に見ていた。どちらを投げるのか、迷っているようだった。

「僕はどっちを...」


 蓮也が、助けを求めるようにして声を出すが、今回は靫蔓が蓮也を脅すことも康太が何を選択したか言うこともない。もちろん、俺だって言葉を変にはかけられなかった。



 ───この状況、蓮也は一人で孤立していた。


 そして、更に数分が経つ。集中力が散漫し、観覧席からは笑い声のようなものが聞こえてくるようになった。

 この呑気な笑い声は、岩田時尚と津田信夫の2人だろうか。空気を読まぬ2人だな。


「───僕、決めたよ」

 そして、蓮也はピッチングマシンに球を入れた。


「運命の5球目」


 マスコット先生の言葉と共に、ピッチングマシンからナイフが放たれる。


「ナイフか...」

 康太が選んだのが、「スイング」ならば康太は死を逃れる。だが、康太が選んだのが「ダブルスイング」なのならば、康太は死亡していしまう。




 康太が選んだのは───

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] ぬぬぬ。 こりゃ良い意味で展開が読めませんね。 駆け引きもある程度有効だけど、 運任せな部分も多い。 こりゃ次回でどっちかが死にそうな予感。
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