表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

202/746

5月6日 その⑫

 

 第4ゲーム『分離戦択(ぶんりせんたく)』の2回戦の相手は、神戸トウトバンダーというブロンズ色の髪をもった大学生くらいの青年であった。第4回のデスゲームがいつ行われていたかは知らないが、数年ほど前なのだろう。


 ───と、彼のことで一番気になるのはその容姿端麗な顔でも羞花閉月な髪色でもない。


 彼のその異様な話し方なのだ。彼は、一度しか話していないはずなのに2重の声が聞こえた。

 もちろん、エコーがかかっているようなことではない。2つのことを話しているのだ。


 同時に違うことを話していたのだ。口が───否、声帯が2つ無いとできないような所業に俺達は驚いてしまった。


どうした?(何故黙り込む?)具合でも悪いのか?(試合前に大丈夫か?)

 やはり、2つのことを話している。


「そんなの、2つのことを同時に話してるからびっくりしてるに決まってるだろ」

 そうツッコむのは第3回デスゲームの生き残りであり、生徒会側のリーダーでもある靫蔓(うつぼかずら)であった。


それもそうだな。(この程度で驚くか?)ビックリさせて(まぁ、いい。)申し訳ない。(この声はだな、)それで、この声のこと(話すと長くなるんだが)話そうじゃないか(静かに聞いてもらおう)()俺の体は少し特殊で(五感が優れている)嗅覚とか触覚とか(といえばいいのかな。)視覚とか味覚とか(例えば聴覚とかが)色々発達してるんだ。(人より発達してる。)それで、こんな(それが理由で)話し方だ。(変な話し方だ。)とりあえず、今は(それで、勝負は)同じようなことを(どうするんだ?)話してるから(やるならば早く)聞き取りやすいと思う(した方がいいだろう?)けど、別のことを(それじゃ、早く)話すとなると聞き取り(始めようじゃないか)ずらくなると思うよ(デスゲームとやらを!)ほら、こんな風にね(選べ、カードをな)


 神戸トウトバンダーの声は、聞き取りにくいような気もするが内容はスラスラと頭の中に入ってきた。なんだか、不思議な感覚だ。


「それで、アタシはカードを選べばいいのかしら?」

「そうだ。ちょっと待ってな」


 そう言うと、靫蔓(うつぼかずら)はその場にあぐらをかくと人工芝に6枚のカードをバラまいた。

 そこに書かれているのは「ろ過」「抽出」「クロマトグラフィー」「蒸留」「昇華」「分留」の6つであった。「再結晶」は1回戦で選んだから除外されている。


「んじゃ、次は何を選ぶんだ?」

「稜はどれがいいと思う?」

「ん、俺は別にどれでもいいと思うよ。ゲームの内容と書いている内容はほとんど関係ないと思っているし」

「あら、そう。なら勝手に選んじゃっていいかしら?」

「あぁ、構わないよ」


「───そう言えば、今回は最高で5回戦行うのよね?」

 歌穂は靫蔓(うつぼかずら)に質問を行う。


「あぁ、そうだが?」

「今回用意されたゲームは全部で7つでしょう?最低でも2つは余ることになるけど、それはどうなるの?」

「まぁ、そりゃ行われないだろ。常識的に考えて」

「そう、もったいないわね...」

「別に、俺のありふれたデスゲーム。行われる方が珍しいだろ。売れる漫画ってのは、売れない漫画が他に何百個もあるからこそ成り立ってんだぞ。全部が全部売れてりゃ、打ち切りも近くなるだろうしな」

「───へぇ...」

 歌穂には、靫蔓(うつぼかずら)の例えはあまり理解できなかったようだった。


「てか、最高で5回戦行われるとしても、どこかでは俺が出るから、その時はGMが考えたゲームを行われる。だから、俺が考えたゲームが行われるのは最高で4回だ」

 靫蔓(うつぼかずら)は、そう補足した。確かに、行われるのは4回だ。


 そうじゃないと、かなり不平等になるしね。マスコット先生ってか、GMもそこは赦さないようだった。

 マスコット先生も平等を重んじているが、GMもそれと同じくらい平等を重んじているようだった。


「へぇ、靫蔓(うつぼかずら)ですって?アナタからすると、どれがオススメかしら?」

「俺のオススメェ?んなの、言うわけねぇだろ。どちらにせよ不平等になる」

「そう、何も教えてくれないのね...」


 歌穂はそう言うと、一枚のカードを取る。そこに書いてあったのは「昇華」という文字だった。そして、そのカードを裏返す。そこに書いてあったのは───


「はいはい。そんじゃ、第4デスゲーム2回戦。その名も───『パラジクロロ間欠泉』だ」


 ───こうして、2回戦のタイトルが発表される。そのタイトルは『パラジクロロ間欠泉』というものだった。


『パラジクロロ間欠泉』の元ネタとしては、パラジクロロベンゼンだろう。


 ───と、パラジクロロベンゼンの説明をするのは必要だろうか。


 パラジクロロベンゼンは、ベンゼンの二塩化物であり、昇華しやすい白色の個体である。主な使用例としては防虫剤などだろう。あ、それと俺達男子は小便器にあるとついつい的にしてしまうあの緑色の球とかにもパラジクロロベンゼンが含まれている。


 以上が、俺のパラジクロロベンゼンについての知識だ。正直、そこまでの詳しくはない。


「───それで、『パラジクロロ間欠泉』はどんなゲームなんだ?」

「どんなゲームかってのはまぁ、百聞は一見に如かず。会場を見てもらったほうが早いだろう。てことで、マスコット先生!」

「はいはいはい、わかりました!てことで、第4ゲーム2回戦『パラジクロロ間欠泉』の試験会場へ、行きましょう!」


 直後、俺達の視界が漆黒に包まれる。唐突に暗闇に包まれた俺達は夜目ではなかったので、何も見えなくなってしまう。だが、そんな状態もすぐに終わり───


「───んだよ、これ...」

 俺達の視界の先に入ってきたのは、巨大な縦横9マスずつにマス目が用意された木の板───巨大な将棋盤であった。


「ここが2回戦『パラジクロロ間欠泉』の勝負場所です!」

 マスコット先生は、声たかだかに宣言した。将棋盤が用意されているが、どのようなゲームが行われるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨城蝶尾様が作ってくださいました。
hpx9a4r797mubp5h8ts3s8sdlk8_18vk_tn_go_1gqpt.gif
― 新着の感想 ―
[良い点] 神戸トウトバンダー。 これまた濃いキャラですね。 後、ルビ振りが面倒くさそう! そして次の勝負は『パラジクロロ間欠泉』。 単純な将棋ではなさそう、でも多分頭使う勝負ですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ