5月6日 その⑩
第4ゲーム『分離戦択』のルール
1.チームは生徒会側・挑戦者側の2つに分かれる。
2.生徒会側は5人・挑戦者側10人の参加者とする。
3.ゲームは最大で5ゲーム行うこととする。
4.1ゲームにつき生徒会側が1人、挑戦者側が2人出場する。
5.有事でゲームに参加できなかった場合、補欠として新たな参加者を用意する。
6.先に3勝したチームの勝ち。
7.ゲームの内容は、ゲーム開始前に挑戦者側が指定する。
8.負けたチームは全員死亡する。
9.挑戦者側が勝利したら、参加者に5万コインを配布する。
10.生徒会側が勝利しても、賞金に値するものはない。
11.挑戦者側が敗北したら人質も死亡する。
歓喜。熱狂。乱舞。
全45分間の試合が挑戦者側の勝利で終了し、試合を傍観していた俺達は喜びを胸にした。
最高5回行われる第4ゲーム『分離戦択』で1勝を勝ち取れたのはかなり大きかった。
当たり前のことだが、次勝利すれば、第4ゲームクリアにリーチがかかるのだ。
「やった、勝ったぞ!!!」
自分だけでなく、智恵の命までかかっているからか俺は皆よりも喜んでしまう。すると───
「違う!違うでしょ!皆...喜ぶより先にすることがあるんじゃないの!」
そう、声を張り上げるのは茶髪でツインテールの女生徒───秋元梨花だった。
「───え」
喜ぶより先にすること。俺には、思いつかなかった。だが、梨花にはまっ先に思いついたのだろう。それは───
「最後に弾き飛ばされた拓人君を、どうして誰も心配してあげないのよ!」
「───」
全員が全員、気付かされる。吹き飛ばされた拓人と、敵であった飛騨サンタマリアはゴールに入っていった後未だに立ち上がっていなかったのだ。
「どうして、誰も心配しないのよ!勝利勝利って喜んでばっかりで、どうしてその勝利に命を懸けて戦った人を称えたりはしないの?!」
梨花の怒りは、最もだった。俺を含めて誰も、拓人のところに駆けつけはしなかった。
「それに、鈴華ちゃんもそのままゴールを決めればよかったのに、どうしてわざわざ後ろに蹴ったのよ!そんな、危ないことシなくてもいいじゃない!」
「っるせぇな...」
「何が、{うるさいな}よ!勝ったからって調子乗ったっていいわけじゃないの!怪我させたなら謝らないといけないのは当然じゃない!」
「あぁ、もうあーだこーだうっせぇなぁ!こっちは疲れてんだよ!試合に出れてねぇお前が口出ししてくんじゃねぇ!この試合、負けたら負けたで{何負けてんのよ!}だとか言って、文句言ってくんだろ?うぜぇんだよ!」
梨花と鈴華の喧嘩。この2人の言い争いを、止めて入ろうとするものはいない。
みんな、わかっているのだ。心配しなかった自分が悪いこと。そして、止めたら罵詈雑言を吐かれることを。
「大丈夫...大丈夫だよ。そんなに怒らなくても。オレはそんなに怪我してないんだから」
そう言って、ゆっくりと立ち上がる拓人。少し、フラフラするような印象を受ける。
「オレが少し位傷ついたところである程度問題ないし、傷つくのはオレだけだし問題ないだろう?傷つくのがオレだけなら、誰も悲しまない」
「───違う...」
梨花が何かを言いたげなかおをする。
「違う、違う違う違う!そうじゃない!間違ってるよ!自分だけが傷つけばいい?自分が傷つけば問題ない?そんな訳無いでしょう!」
「───ぇ」
拓人が、驚いたような呆気にとられたような表情をしている。ここは、黙ってみておいたほうがいいだろう。
「傷つくのがオレだけなら───だなんて、そんなつまらないこと言わないでよ!アナタが───拓人君が傷付いて悲しむ人だっているんだよ!」
「どこに───」
「今、ここに、アタシが、いる!」
拓人の小さな問いかけに、梨花が目に涙を浮かべながらそう述べる。
「───え...」
拓人は驚いたような顔をしている。まさか、梨花と美沙が喧嘩した要因を知らないのか?
梨花が拓人のことを好いてくれていたことに気付いていないのか?俺だってわかるのに。
「梨花も...怪我したの?大丈夫?」
「違う!そうじゃない!もう...なんて物分りが悪いのかしら...」
拓人は、笑えないくらいの鈍感だったようだ。まるで、恋愛漫画の主人公だ。ここまで来て、気付かないとなったら逆に天晴だ。
「アタシは、拓人君...アナタのことが好きなの!」
「───え、えぇぇぇぇ?」
驚いたような声を出す拓人。なんだろう、見ててイライラしてきた。早く付き合っちゃえよ。
「はぁぁ...最悪。人のことを叱った挙げ句に、告白イベントかよ。見てらんねぇ...」
そう言って、鈴華はポケットに手を突っ込んでどこかに去ろうとする。
「鈴華ちゃんには、後で謝ってもらうからここに残ってなさい!」
「ッチ!」
鈴華は、その場にドスンと胡座をかいて座った。地面は人工芝であるから、別にお尻に土がついてしまうわけでは無い。
「え、えっと...好きって...」
「だから...あの、アタシと付き合ってください...」
先程までの勢いを無くし、途端に弱々しくなってしまう梨花。
「あ、えっと...こんな時なんて言えばいいのか、オレにはよくわからないんだけど...よろしくお願いします、でいいのかな?」
拓人も、梨花の好意は認めるようだった。
「好きです?ないないない」だとか言って、告白という勇気を振り絞ることが必要な行為を否定するような、俺の嫌いなタイプの人間じゃなくて助かった。
どうにか、告白は成功したようだった。
「───って、あれじゃあ心配するにも心配できないじゃんか...」
そんな口を挟むのは、稜だった。2人を邪魔しない為にも、傍観者である俺達は見ることだけしかできなかった。
「全く、人前で告白するとかとんだバカップルだよなぁ...」
「え?」
俺が、ふと思ったことを呟くと、稜が驚いたような顔をしてこっちを見てきた。何か俺は間違えたことを言っただろうか?
「───え?」
「えぇ...」
俺が聴き返すと、稜は何か言いたげな顔をして眉をひそめた。俺は、拓人のような鈍感系ではないが、流石に「え?」だけじゃ何かわからないよ。
───と、そんなこんなで拓人と梨花は付き合うことになったのであった。
栄、お前も大概だぞ。