5月6日 その⑧
前半 試合
後半 回想
といった感じになっております。よしなに
───第4ゲーム『分離戦択』の1回戦『リバーシブル・サッカー』が始まって早くも36分が経過した。
正確には、36分と43秒。
試合時間が残り10分も無い中で、試合に出ている鈴華と拓人の2人は、かなり窮地に陥っていた。
───というのも、今の点数は63:72と負けているのである。
9点もの差がついていて、負けている。試合開始からは10分後位は32:16とかでこちらが倍近く上回っていたのにだ。
それだけ、飛騨サンタマリアは強敵。いや、チート級のモンスターなのだ。
「やはり圧勝してしまう。これほどまでのハンデがあっても勝利してしまう、と私は煽るようにして呟く。もしここで、もう一度5分間の退場を貰っても勝利はできそうだった。私は、試合開始前となんら変わらない息遣いで言葉を口にする。実際、疲れなどはなかった。もっとも、目の前にいる私の対戦相手である2人は疲れていそうだったが。───と、駄弁は終わりにして勝負に集中しよう。相手ボールなのだから、しっかりブロックしなければならない。まぁ、ブロックしたって全然勝っているので問題ないのだが。」
「そんな長話、こっちは聞きたくないよ...」
そんなことを言いながら、肩で息をするのはこの35分間を休まずノンストップで動き続けている拓人であった。いくら、体力がある彼でもずっと走り続けるのは疲れるのだろう。
それに、これはデスゲームなのだから神経だって使う。これまで、数度のトラップを飛騨サンタマリアに向けてかけていたが、そのどれもがほとんど失敗に終わった。
「んじゃ、行くよ」
拓人は、鈴華の方をチラリと見る。鈴華は、何かに勘付くと一歩後ろに下がった。
「オレの華麗なドリブルさばき、見てくれよ」
そう言って、拓人は足でボールに触れる。そして、疲れているのにもかかわらず流水のような滑らかな動きで飛騨サンタマリアを通り抜けた。
ボールが飛騨サンタマリアのいない方───拓人の左足の外側に移動したと思ったら、軌道を変えて内側に移動した。
「フェイント?」
「エラシコ...だな」
隣で、そう説明してくれるのは康太だった。フェイントってことはわかるけど、見ただけでその技名まではわからなかった。まぁ、俺はサッカー少年じゃないしわからないのも無理はないんだけれど。
───と、視線を『リバーシブル・サッカー』に戻そう。
フェイントをかけた拓人だったが、すぐ後ろに飛騨サンタマリアがついてきていた。今にもボールが取られそうだ。
「ほら、ちゃんと見てよ。オレのドリブルを」
「───ッ!」
直後、拓人はボールを少し宙に浮かせる。それを、手で取りサッカーのドリブルからバスケのドリブルにチェンジさせた。
「ほら、手を隠したほうがいいんじゃない?」
「───ッ!」
飛騨サンタマリアが自らの手を引っ込めようとした刹那、拓人は飛騨サンタマリアに向けてボールを投げる。
「サンタマリア、パス」
「───」
「───え?」
飛騨サンタマリアは、名前を呼ばれると同時に引っ込めようとしていた手を再度戻してボールをキャッチしていた。
「あらら、2人共退場だね。これで」
「やられた...と、私は呟く。そして、拓人の方にボールを投げた。何度も言うが、私はスポーツが嫌いなのではない。スポーツが苦手なのだ。」
飛騨サンタマリアの宣告通り、ボールを渡された拓人はそのままボールをシュートする。
これで、64:72になった。後8点で逆転できるし、しかもそれは5分間相手がいない時間ができたので容易いものだった。
飛騨サンタマリアと拓人は5分後の42分19秒までは試合に復帰できない。
───ここから5分間、鈴華の独壇場が始まるのであった。
***
飛騨サンタマリア───私は、孤独でいれば最強だった。最強で最凶で最恐だった。
私のこの異様なフィジカルは、生まれつき持ち合わせていた「才能」であり「足枷」であった。優れていることは素晴らしく、人を周囲に寄せ付けるのだが、優れすぎていることは、それは欠点でしかなく人を寄せ付けないのだ。
それに気付いたのは、私が小学生の頃だった。
小学1年生の運動会では、私が走れば単独首位。紐を握れば、敵味方問わずひっくり返り。私が踊れば、その場の砂を周囲に撒き散らし。
そんな、災害のような人物だった。もちろん、ジャンプ力だって異常だったしキック力も異常だった。
周囲の友達からは疎まれ、先生からは優しくたしなめられる。
それが当たり前だったから、私は次第に体育を休みがちになり休み時間は教室で本を読むような生徒になっていた。
───だが、本を読むのも間違いだったのかもしれない。
本をたくさん呼んだことにより、私には知識がついてしまった。運動だけでなく知識までもができるようになってしまったのだ。
どうやら、私の体というものは加減を知らないらしく私がテストを受ければ有無を言わせず満点に。私がもし間違えたとしたら、その数日後にその間違いが「正解」になってしまうようなことがあったのだ。
この世界は私が中心に回ってるのかもしれない。そんなことを考えてしまった。
もしかしたら、私は主人公なのかもしれない。そんなことを考えた。
───そして、私が高校2年生の頃にやってきたのが一通の手紙だった。
それは、第5回デスゲーム参加者と大体同じような内容が書いてあった。私は、それに参加した。第4回目のデスゲームらしい。
そこで、私は生徒会になった。理由?それは、対等に戦える誰かに出会いたかったからだろう。
私と対等に戦える誰かなんて現れるはずはなかった。この異様なフィジカルを持つ人物なんて私の他に誰一人としていないんだから。
実際、第4回デスゲームにそんな人物はいなかった。
そのままダラダラと時間だけが過ぎデスゲームが終わってから3年とちょっとが経つ。第5回デスゲームの第4ゲームの1回戦に出場させられて、そこで出会ったのが柏木拓人という人物であった。
彼との出会いで、彼と試合を交わすことで私は一つ気付いたことがあった。
───私は、ライバルが欲しかったんじゃない。共に過ごす仲間が欲しかったのだ。