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5月6日 その⑦

 

 ───10分39秒。


「やっと私の復活です、と私は少し焦りを持ちながらもそれを言葉と動きに表さないようにしてゆっくりと立ち上がった。相手に、大量得点を許してしまった今コレ以上の油断は赦されない。私の一存で負けが決まる訳では無いが、私の大損で負けが決まる可能性はある。この場合の大損は、相手に得点を荒稼ぎされることだ。」

 そう言いながら、飛騨サンタマリアは立ち上がる。


 拓人の5分間の大量得点獲得タイムが終わりを告げたのだ。


 試合開始からのタイムは前述の通り10分39秒。今現在の得点は、32:14であった。


 サッカーでは無く、バスケなのではないか?と思うような点数だったが、俺の目の前で繰り広げられている競技は確かにサッカーであった。もっとも、これは普通のサッカーでではなく『リバーシブル・サッカー』であったが。


「いい点数差じぇねぇか。オレも一時退場は少し終わりにすっかな」

 鈴華がそう言って首を回す。すると、首の骨がぽきぽきと鳴った。


「んじゃ、覚悟しろや」

 2人が、コート入りを果たして対面する。コートに3人が揃うのは、5分ぶりだった。


 ボールは、飛騨サンタマリアから。拓人が大量得点を決めていた時は、飛騨サンタマリアがいなかったのでずっと挑戦者側(こちら)のボールだった。

 だが、飛騨サンタマリアが戻ってきてしまったからずっと相手ボールになる。


 ───そして、試合が再開される。


 飛騨サンタマリアは、ボールに下から上に触れると、やはり上空に吹き飛んでいった。

「───またかッ!」


「拓人、任せたぞッ!」

「───ぇ」

 飛騨サンタマリアが、上空にジャンプすると同時に鈴華も拓人を掴み、それを空中にほっぽり投げる。


「おいおい、マジかよ...」

 もちろん、人一人投げるのにはかなりの筋力を使う。だから、拓人が浮いたのは2mほどで、飛騨サンタマリアの3m超えの化け物ジャンプにまでは届かない。


 ───だが。


「文字通り、足を引っ張ってやれや。拓人」

「───ッ!」


 空中で、拓人は飛騨サンタマリアの足を掴む。


「よくもっ!」

 飛騨サンタマリアは、ボールよりも早く地面に落下してしまう。


 ───そう。ルールにファールをしてはいけないなんて書いてないのだ。


 これは、暴力だってなんでもありの「デスゲーム」なのだ。だから、試合中に殺人が起こったところで何も不思議ではないし、それどころかファールをするなんて日常茶飯事なのだ。


 飛騨サンタマリアを下にして、拓人は着地する。高く打ち上げられたボールは、鈴華がヘディングでキャッチし、そのままゴールの方へ持って行ってしまった。


「クソ、また得点を取られる...」

 飛騨サンタマリアは、拓人を振りほどこうとするも、必死に足を掴み雁字搦めになっている拓人から離れるには時間が足らない。


「これで、オレの得点───」

 直後、鈴華の背中に、何かが激突する。それは───



 飛騨サンタマリアの足を必死に掴んでいた拓人であった。

「あが...」

「───拓人君!」


 そう、心配そうな声をあげるのは秋元梨花だった。第4ゲームに参加しない人も、このデスゲームは見られるようになっていた。その時、現場にいなかった俺だって誠から事情は聞いていた。


「振りほどくのに時間がかかるのなら、全てを無視して吹き飛ばせばいいじゃない───と私は言い張る。まるで、パンが無ければケーキを食べればいいじゃないと言うように。それが、何らおかしくないことかのように。きっと、常人の筋力ではおかしいのだろう。絡みついてきている高校生男子を足を一振りすることで吹き飛ばすことなんて。」


 そう口走っているのは飛騨サンタマリアだった。その異様なフィジカルに驚きを隠せない。

 飛騨サンタマリアは、シュートをされていなかったボールを、横取りしてそのままシュートを決める。


「───クソ...」

 鈴華と拓人は立ち上がれないような状態にまで陥っていた。


 鈴華は、前回の第3ゲームで背骨を砕かれていたのだ。1ヶ月どころか2週間ほどで完治しているのだが、ふつうに考えてそれはおかしいことだろう。きっと、まだ鈴華の背中は傷んでいるはずだった。


 が───


「オレは負けねぇ。負けねぇって言ったら負けねぇし、負けたくないなら負けなければいい。ここで諦めんのは、自分への───オレを仲間に引き入れてくれた栄への裏切りだ」

 そう言って、立ち上がるのは鈴華だった。


「拓人、立てやオラ。そこで寝てたらお前をボールにすんぞ」

「全く、人使いが荒いなぁ...空中に何も言わずに放り投げたのはそっちだろうに...」

「だが、アレが無ければボールは奪えてなかったぜ?」

「それはそうだけど...はぁ、この議論は馬鹿馬鹿しいからやめにしようよ。オレたちは勝利を追っていればいい」

 そう言って、立ち上がる鈴華と拓人。そして、2人はコートの真ん中に戻っていった。


「んじゃ、試合続行だ。オレ達のボールは痺れるぜ?」

「そうですか、と私は受け流す。彼ら彼女らの言い分に興味などなかった。」


「おいおい、酷い言い方だなぁ...本当に」

 そして、2人はお互いに顔を向き合うと頷いた。そして───


 2人は、片足ずつを後方にあげて蹴る前の予備動作を取る。


「「一瞬でゴールまで飛ばす。それなら、お前も取れまい」」


 ───直後、鈴華と拓人が同時に足を振り、ボールが放たれる。


 狙うは、鈴華と拓人の目線の先にある───飛騨サンタマリアの後方にあるゴールだった。が───


「───ぇ」

 ボールは、鈴華と拓人の頭と頭の間を通り抜けて2人の後方にあるゴールに吸い込まれるようにして入っていった。


「───何故」

「ただのカウンターですよ、と私は説明する。ボールの進むエネルギーの方向をただ全く逆に変えただけの誰でもできる技だったから、誇るほどでもない。ただ、目の前の2人には理解できなかったようだ。」


 そう、飛騨サンタマリアは述べる。飛騨サンタマリアの蹴った動作どころか、体に当たったところさえも見れなかった。飛騨サンタマリアの高すぎる跳躍力や速すぎる走行力は、まだまだ序の口だったようだ。



 ───試合開始より13分7秒で得点は32:16。俺達挑戦者側が、まだ優勢だった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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