5月6日 その⑤
第4ゲーム『分離戦択』のルール
1.チームは生徒会側・挑戦者側の2つに分かれる。
2.生徒会側は5人・挑戦者側10人の参加者とする。
3.ゲームは最大で5ゲーム行うこととする。
4.1ゲームにつき生徒会側が1人、挑戦者側が2人出場する。
5.有事でゲームに参加できなかった場合、補欠として新たな参加者を用意する。
6.先に3勝したチームの勝ち。
7.ゲームの内容は、ゲーム開始前に挑戦者側が指定する。
8.負けたチームは全員死亡する。
9.挑戦者側が勝利したら、参加者に5万コインを配布する。
10.生徒会側が勝利しても、賞金に値するものはない。
11.挑戦者側が敗北したら人質も死亡する。
第4ゲーム1回戦『リバーシブル・サッカー』のルール
1.ゴールをコートの両端に用意し、そのどちらかにボールを入れたら、ボールを入れたチームが一点を獲得する。
2.得点が入ったら、コートの中心に戻り、点数がはいっていない方のボールから始まる。
3.最終的にシュートした際の点数が多かった方のチームの勝利。
4.ボールは基本足で触れる。腕でボールを触った場合、どちらかのチームに点数が入った後に5分間ゲームの出場が停止される。
5.試合は1R45分。
俺は、てっきり『リバーシブル・サッカー』はこちらが圧倒的有利なサッカーゲームだと思っていた。
───だが、違かった。
これは、純粋なサッカーゲームではない。5分に一度こちらに1点が約束されたようなサッカーゲームだったのだ。
俺は、気が付かなかった。
『リバーシブル・サッカー』のルールにはこんな記載がある。
4.ボールは基本足で触れる。腕でボールを触った場合、どちらかのチームに点数が入った後に5分間ゲームの出場が停止される。
手で触れても、速攻退場にはならないのだ。どちらかが一方が得点を決めるまでは退場にならない「魔の時間」が発生する。点を決めるまでは退場にならないチートのような時間が発生する。
かつ、それができるのは俺達2人で出場できる方だけなのだ。
だって、相手の飛騨サンタマリアが触れてしまったら、5分間試合に出れずに、守備がいないまま無双されてしまうことになるから。
こちらにしか、できない作戦。圧倒的チート。
だが、それを鈴華は一瞬にして見分けた。こんなデスゲームがあっていいのだろうか。
これだけ、挑戦者側が有利なゲームがあっていいのだろうか。そう疑問に思ってしまう。
「シュートさえ、すればいいんだろ?」
そう言って、足にボールを触れさせてそのままゴールに入れる。シュートとは言えないほどに弱々しいものであったが、足に当たったから確かにシュートという概念になる。
「安土鈴華さんが早速ゴールを決めたァァ!そして、手を使ったので5分間出場停止です!」
そう、出場停止になるのはあくまで5分だけ。永久出場停止というわけではない。
しかも、相手はスポーツは苦手だと言っていた。これなら、勝てる。絶対に勝てる。
試合開始12秒で一点を獲得した鈴華と拓人。鈴華は5分間退場になってしまったが、拓人も運動は得意だから大丈夫だろう。
ボールがコートの中心に戻されて飛騨サンタマリアにボールが渡る。
「それでは、飛騨サンタマリアさん。お願いします!」
マスコット先生の隣にいつの間にか用意されていた電光掲示板には赤い文字で1:0と浮かび上がっていた。
「私、苦手なんですよね、スポーツって。私はそう述べる。私はスポーツが苦手なのだ。だって───」
話ながらに、飛騨サンタマリアがボールに振れる。下から上にボールを浮かび上がらせるようにして、ボールを宙にあげる。
───それは、びっくりするくらい上空に吹っ飛んでいった。
「───は」
「だって、私がスポーツをすると一方的な蹂躙になってしまうのですから。」
そう言うと、飛騨サンタマリアはボールを追うようにジャンプをする。それは、驚くべきジャンプ力だった。
3mを優に超えるようなジャンプ力。それは、ハッキリ言って異常だった。
重力に従い、落下してきたボールに飛騨サンタマリアの脛がチョイと当たる。すると、ボールは拓人の数十メートルほど後ろにあるキーパーなど存在しないゴールに吸い込まれるようにして入っていった。
「んだよ、これ...」
まるで超次元サッカー。別次元に行ったことがあるかのような座標を一切気にしない技。
「おいおい、そんなんアリかよ!」
そう驚きの声をあげるのは出場停止中の鈴華だった。こんな実力───実力と言っていいのかわからないが、こんな強さを見せつけられたら声を上げるしかできないだろう。
───だが、これは絶望と同時に希望でもあった。
もしこれが、時間制のゲームではなく立ち幅跳びとか走り幅跳び・棒高跳びなどだったら非常にマズかった。
ただ記録を競うだけのものであれば、飛騨サンタマリアの独壇場であったからだ。
「おいおい、こんな実力じゃ俺がサッカーを冒涜してるのかとか言ったのが恥ずかしい...俺は、飛騨サンタマリアさんを侮辱していたようだよ」
康太が俺の隣でそうぼやいている。でも、こんなチートを持っているとは誰も思わないだろう。
試合開始24秒で1:1になってしまった。
鈴華が復活できるのは4分48秒後。まだまだ長い。最初に点数が取れたのは景気が良いが、拓人がリンチにされる未来が見えてしまった。
「飛騨サンタマリアさんもゴールです!これで、同点に並びました!」
マスコット先生の実況の声が響く。この中で、驚いていないのは彼だけだろう。
「しょうがない...オレもできる限りのことを頑張らないと」
そう言うと、拓人はコートの中心で、取ってきた右足をボールに乗せる。
「スポーツマンシップを乗っ取り戦うことにするよ」
「要するにどういうこと?と、私は問う。傍点を振るっているし漢字を誤用しているとは思わなかったからだ。何か裏がある。何か策がある───と、私は考えた。」
「その思考、感謝するよ」
”ダッ”
拓人は動く。拓人から見て左に動く───と、見せかけて右に動く。
「───ッ!」
ただのフェイント。なんのまやかしも、偽りもない「フェイント」であった。これは、サッカーで無限に使われる技だ。
『リバーシブル・サッカー』だから自分の方向にあるゴールを狙う───と言った行為はしなかった。
スポーツマンシップを乗っ取るという宣言をした拓人だったが、それもフェイントでスポーツマンシップに則って普通のサッカーのように試合を展開したのだ。
「足の速さなら、オレは誰にだって負けたことはないんだ」
フェイントを使用し、飛騨サンタマリアを躱した拓人はそのまま飛騨サンタマリアの後ろにあったゴール───鈴華が手にボールを持って進んでいったゴールに向かって走っていく。
「───騙された、と私は呟く。それは、糾弾のような言葉だった。誰への言葉か。もちろん、自分へのだ。」
飛騨サンタマリアがそう呟くと同刻。拓人は、相手のゴールにボールをシュートした。
───幸先がいいのか悪いのかはわからないが、試合開始1分7秒で2:1という状況にまでは持っていけた。