5月6日 その①
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───5月6日。
俺は、ホームルームが始まる前の教室で、マスコット先生を待っていた。
今日、第4ゲームが行われる。参加するのは俺の他に、山田稜・安倍健吾・西森純介・細田歌穂・西村誠・中村康太・睦月奈緒・安土鈴華・柏木拓人の9人。
勝てば、拐われた智恵を救うことができて、尚且つ参加者全員に5万コインが配布される。
───だが、負ければ参加した全員と智恵が死亡してしまう。
智恵の命は、俺達の手にかかっているのだ。もちろん、自分達の命もかかっているが。
「栄、そんなに気を張りすぎない方がいいぞ?緊張しすぎると却ってミスしちまうし」
俺は、目の前に座っている健吾にそう声をかけられる。
「あぁ、そうだな」
気張りすぎるのもよくない。最高のコンディションで靫蔓との戦いに挑みたい。
「おはよ!あ、栄」
教室に軽やかな挨拶をしながら入ってきた爽やかなイケメン───柏木拓人は、俺のことに気が付くとすぐに近付いてきた。
いや、近付いてきたと言うのは少し自意識過剰すぎるだろう。だって、拓人の席は俺の左斜め前にあるのだから。
拓人は自分の席に荷物を置くと、俺のところまで歩いてくる。自分の席に行くのも俺のところに来るのも正解だったようだ。俺は自意識過剰ではない。セーフ。
「今日、頑張ろうな!」
「あぁ、頑張ろうな」
俺は拓人と声をかける。
「拓人は緊張したりしないのか?」
「うーん...どうだろう。県の大会とかに結構出てたし、そこまでかなぁ...」
どうやら、スポーツをやっていたらしい拓人は緊張しないようだった。俺は、部活に入っていなかったから大会とかは無関係だったしなぁ。
そして、拓人と駄弁をしていると───
「ガラガラガラガラ!おはようございます!」
扉が開いていたので、自分の口から扉の開く音を発して教室に入ってきた。もちろん、こんな奇行を行うのはマスコット先生だけだ。
「皆さん、おはようございます!本日5月6日は、ゴールデンウィークが終わり初めての登校日ですね!ゴールデンウィークはどうお過ごししましたでしょうか?」
智恵が連れ拐われて、第4ゲームの仲間を探して。色々忙しかった。
「皆さん、このゴールデンウィークで成長したことはあったでしょうか?私は───いや、デスゲーム運営全体としては、成長することができました!」
マスコット先生が、そんなことを言う。
「これは、皆さんにも関係があることです!」
マスコット先生がそう言うと、聞き耳を立てていなかった皆が、ピクリと動き顔を上げて一斉に先生の方を見た。
「皆さんのスマホに入っているアプリ『帝国大学附属高校』の中のショップにて、100万コインを支払えば、一つ校則を追加できるようになりました!」
「校則を追加することができる?」
「はい、そうです!100万払えば、自分の好きな校則を好きなように追加することができるようになったんです!順番としては、お金を払う。校則の内容をタイプする───の、たった2工程!難しいことなんか一切ございません!校則を作ったら即適用となっております!」
校則を追加することができる───それは、とても魅力的なことだ。
校則で「二足歩行の禁止」と書けば、皆二足歩行することができなくなる。「言語の厳罰化」にしたら、誰も言語を話すことができなくなる。
───「服の着用の廃止」とすれば、全校生徒裸族に変貌する。
自分の夢───というか、野望を叶えるには持って来いであった。
───だが、唯一の難点としてはその値段だった。
100万コイン。100万コインなのだ。週末に行われるデスゲームの全てで優勝しても、20週かかってしまう。七不思議を一人で参加して優勝しても、8.3回優勝することが必要だ。
───到底、成し得ない数字。
友達と協力してお金を集めなければ校則を追加するのは難しいだろう。だが、校則の追加というのはロマンがあった。
───って、待ってくれ。先例の3つを言った後にロマンがあるなどと発言してしまうと、俺は四足歩行で服を着ておらず言葉をしゃべらないような───まるで獣のような人間が好きみたいになってしまう。
そんなことはない。
校則で「デスゲームの廃止」や「禁止行為の廃止」などにしたら、デスゲームを行うことはなくなる。これで、安全になるのだ。
デスゲームや禁止行為を無くしてしまえば、ただの全寮制の学園になるだけだ。なんら脅威はない。
「───と、私は自分のことを話しすぎましたね!」
マスコット先生は手のひらと手のひらを合わせる。
「本日は木曜日!ですが、第4ゲームを行いたいと思います!」
そして、教室に入ってくる4人のマスコット先生と同じ被り物をした人物たち。一人は靫蔓で確定だろうが、残りの3人は知らない。
───って、第4ゲームは2vs1を5回戦だから、一人足りないんじゃないか?
遅刻している人物がいるのかもしれない。デスゲームの初日───4月1日は、愛香や智恵だって遅刻してきたし。
「この5人───いや、ここにいるのは4人ですね。この4人が、今回の臨時教師としてやってきてくれました!」
どうやら、立ち位置としては廣井兄弟と同じ臨時教師らしい。今思えば、廣井大和も俺達の目の前に姿を現していなかったのだから、別に俺らの目の前に姿を現すことは任意なのかもしれない。
「───と、ルール説明は今回のデスゲームを担当する鬼龍院先生!お願いします!」
そして、鬼龍院先生こと靫蔓が、一歩前に出る。マスコット先生と同じ被り物をしていたが、背の高さとガタイのよさですぐに彼だと気付くことができた。
───と、そんなことを思っていると靫蔓は被り物を外して顔を明らかにする。
「敵が顔を隠してちゃ不平等だ。だから、俺は仮面はしねぇ。そして、第4ゲームのタイトルを発表する!」
ここまで、発表されていなかった第4ゲームのタイトルが今、発表される。
「───第4ゲームの名は『分離戦択』だ!」