閑話 先々代の生徒会と智恵
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時は少し遡り、5月4日の深夜。
靫蔓と、彼に背負われた少女───村田智恵は、先代生徒会やGMがいる謎の空間にやってきた。智恵の口を抑える手は外される。
「ここは...」
「ここは、俺達がいつもいる空間だ」
「───そう...なんですか?」
智恵はそう言うと、靫蔓の肩から降ろされる。
「ついてこい。お前も、俺と一緒だったら何されるか不安だろうし、栄だって有事があったら怒るだろうしよ...」
智恵はそう言われると、黙って靫蔓についていった。
「お前、連れ攫われる時、全然悲しそうな顔をしていなかったが...悲しくないのか?」
「え、あ...いや...」
靫蔓も、智恵の表情にほとんど変化が無いことは気付いていた。智恵が、拐われる時も、心配そうな顔も悲しそうな顔も絶望した顔もせず、ただただ平然としていたような感じであったことに気付いていた。
「感情が無い───とは捉えられない。お前、過去に何があった?呼吸をやめるより辛いことが、呼吸するようにやってきた人にしかできないような目だ」
「───私の過去...」
その直後、智恵の瞳孔が開かれて、その場に膝から崩れ落ちる。そして、嘔吐した。
「───すまない」
靫蔓は静かに謝る。自分の発言が間違いだったことを───否、触れてはいけない禁忌であったことに気付き謝罪した。
「本当に申し訳ないな。嫌なことを思い出させちまったみたいだ」
靫蔓は智恵に謝りながら背中を擦る。
「うえ、うえぇ...」
「───本当に、何があったんだよ...」
───そして、智恵が落ち着くまでその場で行動を中断している。すると───
「---・ ---- ・-・-- ・・ ・-・ -・-・ ・--- --・-・ ・-・-- ・- -・--・ ・・--」
そこに現れたのは、黒髪であり、深海より暗く闇より黒い瞳を持ったモールス信号で会話する少女───絶望を絶望とも思わず、希望という文字に生まれてからこれまでの間ずっと無縁であった少女───これまでの人生で一度も、何かに勝利したことがない少女───深海ケ原牡丹であった。
「牡丹か。すまない、彼女を任せられるか?」
「-・ ・・ ---」
「栄の彼女だ」
「--・-・ ・・ ・--・- -・--- - ・・-- - ---・- ---- ・-・・」
「あぁ、そうだ。任せてもらえるか?」
「-・- ・-・・ ・--・ -・」
そう言うと、ヒョイと智恵を持ち上げた深海ケ原牡丹。彼女は、智恵よりも背が低いのにも関わらず、軽々と持ち上げた。
「この少女───智恵という名前だが、多分、お前と似た過去を持ってる」
「---・ ・・-」
「だから、よろしく頼むよ」
「───」
智恵は、深海ケ原牡丹にお姫様抱っこをされながら、どこかに行った。
「栄、お前の彼女...相当マズいぞ。もし彼女の過去回想が行われるなら、最初の一言だけで吐き気を催すようなものが待ち構えてるぞ...」
靫蔓はそう呟いた。
───そして、その後智恵は深海ケ原牡丹に連れられて、柊紫陽花のいる部屋に到着した。いや、それは部屋ではなく「空間」が正しいだろう。
その空間で、智恵は第4ゲームが始まるまでの時間を過ごした。