4月1日 その⑮
当然のように現れた2体目のマスコット先生。被り物をしているから同一人物か確認することができない。
───いや、できるかもしれない。
「貴様、妾が首を斬ったはずだ」
森愛香は、床に転がった1体目のマスコット先生の首を拾う。
”ドテッ”
中からこぼれ落ちてきたのは、1つの生首。マスコット先生の被り物が取れて首が落ちたのだ。
その首の正体は───
「誰?」
皆、ピンときていない。俺もわからなかった。
顎に無精ひげを生やした男性。生首だけなので正確な年齢を予想することさえできない。
30代より年上で70代より年下───と言ったところだろうか。
髪は黒く、鼻は少し低め。耳は普通くらいの大きさだ。
「イケメン───と、分類できるかな」
生前どのような顔をしていたかはわからない。
「はいはい、皆席に戻ってくださーい」
2体目のマスコット先生が手を叩く。
「貴様は、何者だ?」
「私はマスコット先生です」
「その気持ち悪い被り物の話じゃない。貴様の中の人の話だ」
「その首と同じですよ。ほら、私のことはいいから席に座ってくださいよ〜」
「いいや、法螺話にしか思えん。外せ」
「断ります」
「妾が外せと言ったら外せ」
「嫌です」
「ならば、貴様も死ね」
”ダッ”
森愛香が踏み込んだ音がする。手に持っていた生首は地面に叩きつけられ、その代わり1体目のマスコット先生の首を斬ったノコギリを手に持っていた。
「貴様の残機はいくつかな」
「きゃああ!」
マスコット先生の近くにいた生徒が、叫び声を放ち、その場から離れる。
”パシッ”
「───ッ!」
森愛香が両手で持っていたノコギリが、マスコット先生に片手で受け止められる。
「凶器を振り回してはいけませんよ、森愛香さん」
「知っているか?ノコギリとは、引いて使うものだ!」
森愛香は、ノコギリを思い切り引く。
”キッ”
皮が裂け、肉が切れる音がする。
「い...嫌ぁ...」
傍観者である生徒は、泣き言を言ったり伏せたりしていた。
「よく見れるな、栄」
「え、なんで?」
「俺、こういうの苦手でさ...目の当たりにできないんだよ」
健吾は、俺の背中に隠れて目をつぶっていた。
「さっきの、首斬りも見てないしよく見れるな。死んでるんだぜ?人が」
「───そうだな、なんでだろう」
人が死ぬかもしれないし、実際に金髪の少女と1体目のマスコット先生は死んでいたのだ。
「金髪のあの子が、死ぬのを見ちゃって...もう、怖くて怖くて...」
健吾が、そんなことを俺の背中で言っている。
「俺も、俺が怖いよ。だって───」
───人が死んでいるのに、平然としているのだから。
***
ペットが死ぬのを見て、心が辛く涙が止まらなくなったことがある。
もちろん、死ぬのはわかっていた。だから、「お別れは笑顔で」なんてことを心の中で決めていた。
けど、無理だった。涙は止まらなかった。
でも、今はどうだろうか。金髪の少女が死ねども、涙は出なかった。
この差は、なんだろうか。同じ重さの命だと言うのに、何が違うのだろうか。
***
”トンッ”
「───」
”ドサァ”
教室の中で暴れていた、森愛香が首の後ろをマスコット先生に一度叩かれただけで、先程のジェンガタワーのように崩れ落ちてしまった。
「騒がしい子ですね...問題児って言うやつですか...」
マスコット先生は、抉れている自らの手を見ている。
「あー、皆さん。席に座ってください。生徒を脅しの材料にしたくはないのですが、森愛香さんのようになりますよ?」
マスコット先生は、抉れていない片方の手で森愛香を抱えて31番の───彼女の席に横たわらせる。
「まぁ、乱闘もあったことですし。一日目はこれで終わりにしたいと思います」
先生が、教卓の前に戻った後そんなことを言い出した。
「───って、大事なことを一つ伝え忘れていました」
先生は自らの手の腹と手の腹を重ね合わせる。怪我をしているままなのに、放置でいいのだろうか。
「生徒会メンバーを募集します。最低でも3人。最高で6人。なんと、生徒会に入った場合は禁止行為が無くなります!」
「なっ!」
「嘘!」
「どういうこと?」
ざわめきが、教室を支配する。生徒会に入って禁止行為が無くなればもうこの学校では怖いもの知らずだ。
「生徒会になりたい方は、本日の17時に一斉メールを送信しますので、そちらに連絡をください。メールを受け付ける期間は今日の23時59分59秒までですのでー」
最低でも3人は、この学校で最強とも言える地位を確立するのだ。「死」と隣合わせという生活からいち早く解放されるのだ。
「待て。マスコット先生」
一人の少年───西村誠が手を挙げる。
「どうしましたか?西村誠君」
「生徒会に入るデメリットは何だ?」
西村誠はそう問いかける。今、説明されたのはメリットだけ。
だが、こんな甘い話にデメリットが無いわけがない。だから、マスコット先生は何かを隠しているのだ。
「デメリット...ですか。ゲームの主催者及びGM・教師の言いなりになることくらい...ですかね?」
「そうか」
生徒会。それが意味することは、裏切り者。間者。
「ここにいる35人を裏切って、そっちに寝返ろと言う事だな?」
「えぇ、そういう事です。情報収集や、ゲームの錯乱など色々な重要な仕事をしてもらいます」
マスコット先生は、被り物なのに口角が上がった。
「皆さん、楽しみにしていますよ。最低3人なので、集まらなければ残りはランダムに決めますので」
先生は、一度手を叩く。
「では、今日はこの辺で終わりにしたいと思います。皆さんは、チームの名前と同じ寮に帰ってくださいね。荷物は部屋に届いていますので。それでは」
先生は、そう言うと教室を出ていった。
生徒会。そんな、裏切り者の集団には俺は入らない。
生徒会
生徒会は、禁止行為が無くなる代わりに、ゲームの主催者及びGM・教師の言いなりにならなければならない。それを破った場合は死に値する。但し、課された命令が直接的に死に関する内容ならば、実行しなくてもよい。
例:息を止め続けろ。首にナイフを刺せ。など
生徒会は3人以上6人以下。3人に満たない場合は、ランダムで決定される。
生徒会が、一人でも残っていたまま卒業を迎えると、生徒会のメンバー以外は死に、生徒会の生き残ったメンバーはゲームの主催者の元に就く。
他チームのクエスチョンジェンガも描きたい。
でも、トリックもオチもわかってる今、クエスチョンジェンガを書いても読者は楽しめないという問題点。
でも、クエスチョンジェンガは伏線とか謎を入れやすいんだよなぁ...
ジレンマに陥っている...