5月5日 その⑥
「お願いだ、智恵を助けるのに協力してくれ!」
俺がいるのはチームEの寮であり、俺の目の前にいるのは、西村誠と中村康太・渡邊裕翔の3人。宇佐見蒼は、こちらを何か企んでいるような表情をしながら、こちらを見ていた。
「待て待て待て、オレもか?」
「あぁ、裕翔もだ。お願いできないか?」
「はぁ?嫌に決まってんだろ!どうして、お前なんかの手伝いをしなきゃならないんだよ!馬鹿馬鹿しい!」
「まぁまぁ、話だけでも聞いてみようぜ?」
康太に、諭され裕翔も話を聞くにまで持っていくことができた。俺は、皇斗や愛香に話した時と同じ内容を話した。そろそろ、この一連の流れも覚えてきそうだった。
「───それで、靫蔓が連れ去ったと...」
「ハッ!ざまぁねぁな、栄!」
「コラ」
裕翔は、康太に頭を小突かれる。
「俺は協力するぞ...」
「誠!」
誠は、すぐに協力を飲み込んでくれた。靫蔓と面識があり、ボコボコにされた相手だ。
誠だって、何か相手を打ち負かしたいところがあるのだろう。
「俺も別に協力してもいいよ。クラスメートが危機に陥った時は、お互い助け合わないと!」
康太も、納得してくれた。
「さて、残るは一人。栄きゅんはどう説得するピョン?」
「オレは何を言われても協力しないぞ?オレは、お前のことなんざ大嫌いだからな!」
「でも、俺は裕翔の強さを知ってるんだ!共に殴り合ったからこそ、その強さを知ってる!裕翔だって、俺の強さを知ってるはずだ───」
「知らねぇな、お前の強さなんか」
俺が言葉を言い切る前に、裕翔が否定に入る。
「お前は、これまで仲間に頼ってばっかりだ。違うか?」
「それは───」
「例外として、第1ゲームの『クエスチョンジェンガ』は、アレはすげぇよ。あの勇気は認める。認めるが───アレ、言ってしまえば馬鹿の特攻と一緒じゃね?」
裕翔の否定。
「なん───」
「わかんねぇのかよ。お前、これまで何度も言われただろ?クエスチョンジェンガ、倒したら死ぬかもしれないのにどうして倒したんだ。お前、死んでたのかもしれないんだぜ?いや、あそこで死んでくれたら俺は万々歳だったんだけどよ!」
「───」
裕翔のは、心配じゃない。俺が「死んじゃうかもしれない」と心配しているわけではなかった。
「なぁ、康太。教えてやれよ。お前があの時、どうしたか...」
康太は、第1ゲーム『クエスチョンジェンガ』にて皆に「全員で生き残る方法がある」と言った。
───言った、だけ。
「お前も覚えてるだろ?言葉に出しただけだ。あれは、どういう事かわかるか?」
「───やめろ」
「絶対に生き残れるかわからないから、誰かを生贄にしようとしたんだぜ?」
「裕翔!」
裕翔の、首を掴んだのは康太であった。そりゃあ、そうだろう。自分の行動を罵倒されて、不名誉を押し付けられているのだから。
「全員が生き残れるのなら、それをさっさと実行すればよかったのに。自分ではしなかった。そりゃあ、デスゲームだからな?自分の命がかかってるしな。当然だ。さも当然の行動だ。皆そうするし、オレもそうするだろう。だが、栄。お前は違う。自分で行動を行った」
俺は裕翔に指を指される。
「お前は、思いつくと同時に自分で行動したんだ。誰かで実験せずに。もし仮に思いついたとしても、自分でやる必要はなかっただろ?自分以外のチームの誰かになぎ倒させればよかっただろう?それが、自分の命の安全策。もっとも安心できる方法」
「でも、そしたら誰かが死んでたかもしれないじゃないか!」
「へぇ、自分が死ぬのはいいんだ。なら、智恵なんて諦めてとっとと死んじまえよ」
「───ッ!」
裕翔から吐かれる悪口雑言。
「そんで話を戻すけど第2ゲーム『スクールダウト』の予選で、俺と殴り合った時も、お前はオレに負けてただろう?危機一髪のところで、仲間に助けられてオレは集団リンチ───と、かなりオレ視点では胸糞悪い結果に」
そうだ。あの時は、仲間がいなければ勝てなかった。
「第3ゲーム『パートナーガター』でも、友達と協力して臨時教師を殺したんだろう?そして、今回もそうだ。お前は、ただ人望があるだけで、お前に強さはない。友達が強いから、自分も強いと思いこんでいる雑魚だ」
「雑魚って───ッ」
俺は、言い返すことができなかった。
「別に、お前の仲間は馬鹿にしねぇよ。そうしたら、お前にキレられるのが落ちだからな。お前の怒りの沸点は、自分が馬鹿にされることじゃない。自分以外の誰かを馬鹿にされるところだ。だから、お前は怒れないし、冷静な判断ができちまうお前は、オレに殴り込むような行動もできない。そうだろ?」
裕翔の、俺を見る目は正しかった。俺は、自分のことをいくらバカにされたって相手に怒りをぶつけるようなことはしない。なぜだか、そこに怒りがたまらないのだ。自分をいくら馬鹿にされても、次は気をつけよう。もっと努力しよう───そんな考えになってしまうのだ。
「絶対にオレはお前に協力しねぇ。それとも、智恵を本当は救いたくないけれど、自分は最後までいい顔したいから助けるフリをしている。それならば、その妨害役を───わざと、負けるようにしてやんよ。オレは、負けるのが得意みたいだからよ」
裕翔の、嘲笑するような文句。ここまで、言われたならば普通は引き下がるだろう。だが───
「わざと負けるように行動するってのは、少し納得行かないが...そのマイナスを埋めるくらいの努力を、俺がして勝利を掴んでやる。それなら、仲間になってくれるだろう?裕翔!」