5月5日 その⑤
「随分と、長々と語ったではないか」
時間にして、7分半。俺は、智恵のことを長々と話し続けていたようだ。話している間は、そこまで長く感じなかった。
「それでどうだ?」
「断る」
「なっ───」
これだけもの時間を使用したのに、断られた。俺の話は愛香の心に響かなかったというのか。
「あんだけ長いと妾も眠くなる。非常に言い難いが、途中眠っていた」
「んな...何分でも何文字でも話していいって言ったじゃないか...」
「話す許可を出しただけだ。話しを全て聞くだなんて言っておらんわ!」
愛香が言うのは、若干の暴論であったが、マスコット先生なども似たようなことを言いそうだ。基準をマスコット先生にするのは少し癪だが、俺は愛香に反論することができない。
「断るのは何故?」
「妾は孤高が似合う女だ。仲間などいらん」
「え、じゃあ最初から俺の話なんか...」
「聞こうとなんかしていないし、仲間になろうとなんか思っておらんわ!」
「じゃあ...」
───どうして、ここまで話したのだろうか。
「孤高が似合うったって、暗闇に連れて行かれたら何もできない癖に!」
「───あ?」
愛香に睨まれる。これ以上、暗闇のことで追求すると本当に仲間になってくれなさそうだった。
「妾が仲間になる条件は、最初から出したはずだ。『智恵が帰ってきたら、その時に智恵を殺せ』それが条件だ」
「結局智恵は死んじまうじゃないか...なら、協力をしてもらう意味がないじゃないか...」
「そうだな。協力する意味がない。他を当たれ」
「お願いだ...皇斗にも断られたんだ...頼れるのは愛香しかいないんだよ...」
「断る」
「お願いだ」
「断る」
「お願いだ!女子最強の愛香にしかお願いできない!」
「物分りの悪い奴め、妾は特段面倒見の良い女ではない!だから、制裁を加えてやる!」
愛香が動く───その時だった。
「はいはいはーい。ストップストップー!」
そうして、手を叩いて俺と愛香の視線を奪ったのは、一人の少女───細田歌穂であった。
「歌穂、何か用か?」
「栄と愛香の問題の解決策が一つだけあります!」
「何だ?申せ!」
「アタシが、栄の仲間になる!」
俺は、女子最強の愛香を仲間にしようと思っていたのだ。歌穂が入っても解決になるのかどうか。
「まず、愛香は仲間になりたくない。栄は仲間が欲しい。こんなん、全く真逆の内容を言ってるからどっちかが諦めないと行けない。妥協せず、どっちも自分の意見をぶつけ合ってもイタチごっこの水掛け論だよ。だから、栄には妥協して、アタシを仲間に引き込む───ってのでどう?」
「それは...」
「最強の愛香は仲間にならないかもだけど、最恐のアタシは仲間がなる。それで、満足できない?」
「それは...」
「アタシの強さは、栄が一番知ってるでしょ」
「───」
そうだ。歌穂と俺は、4月5日に小競り合いをしたのであった。俺は、歌穂の強さも強さも両方知っている。
───いや、俺は歌穂の強さだけでなく、歌穂の優しさまでも知っている。
「歌穂...愛香の代わりってわけじゃなく、歌穂としてお願いしたい。引き受けて貰えるか?」
「はぁ...そうやって、智恵も口説いたの?全く...女誑しめ...」
「なっ、失礼な!」
「冗談冗談。さっきの話を聞いて、女誑しだなんか思わないよ」
歌穂はそう言うと、一息置いてこう言った。
「アタシにも、智恵を助ける手助けをさせて。栄のお願い、引き受けるわ」
俺は、伸ばした歌穂の腕を握り、握手をする。
「───それで、アタシで仲間にしたのは5人目?」
「あぁ、そうだ」
「残りの5人、誰にする予定なの?」
「あぁ...それはだな...」
西村誠と中村康太・東堂真胡の代わりに、森宮皇斗が推薦した人物と、後一人───。
「え、嘘?マジ?」
「あぁ、今から行く予定だよ」
「ちょっと驚きなんだけど...栄、そこまで必死なの?」
「あぁ、そこまで必死だ。アイツの強さは、何だかんだオレが一番知ってんだ」
「あ、そう。ま、頑張ってね」
「あぁ、ありがとう」
「愛香も、話しを聞いてくれてありがとう」
「それは皮肉か?まぁ、妾も応援くらいしておいてやろう」
「そうか。そうしてくれると嬉しいよ」
俺はそう言うと、チームHの宿を出ていった。そして、次に向かっていったのは───
「すみませーん」
俺が、チャイムを鳴らす寮は、チームEのアジトであった。
「はいはーい、どこのどいつだピョン?って...栄きゅんだピョン!何か用だピョン?」
玄関の扉から、顔を覗かせたのは宇佐見蒼であった。
「チームEの全員、いるか?」
「まぁ...いるけれど...どうしたピョン?」
「全員に話がある。リビングに入れてくれるか?」
「わかったピョン」
俺は、チームEのリビングにまで案内させられる。そして、蒼にチームEの全員を呼んでもらった。
「お願いだ、誠、康太、裕翔!俺に力を貸してくれ!」
俺が頭を下げたのは、西村誠と中村康太。
───そして、俺と殴り合いを繰り広げ、その後ずっと敵対している渡邊裕翔の3人であった。