5月5日 その②
俺は、一つの寮の前に立っていた。そう、ここはチームDの寮であった。
俺は、玄関の前に立ちチャイムを鳴らす。
「誰や...って、栄か。どうかしたんか?」
出てきたのは、チームDである津田信夫であった。だが、今回仲間に引き入れたい人物ではない。
「あの、皇斗を呼んでくれない?」
「あぁ、任しとき!おーい、皇斗!!!」
信夫は、その持ち前のデカい声で皇斗のことを呼ぶ。マイクを持ってないのに、こんな声量が出るとは驚きだ。運動会とかでは応援団長を務めていそうだ。
「なんだ...余の名前をそんなデカい声で呼んで...静かにできないのか?」
「いやぁ、すまへんすまへん。そんで、栄がなんか用があるようでな」
「そうか。栄、なんの用だ?」
「えっと...それはだな...」
俺は森宮皇斗と、寮の中に戻らなかった津田信夫の2人これまでの経緯を話す。
「ほう...それで、余に協力して欲しいと?」
「え、待って待って。皇斗、飲み込み早すぎや。ワイなんてまだほとんど理解できてへん」
「今、栄が大変なんだ。一々説明しておく暇はない」
「んな酷いこと言わずに、簡単に説明してくれや」
「靫蔓って言う、昔のデスゲーム参加者が智恵を誘拐した。第4ゲームで勝負して勝たないと取り返せない。第4ゲームには計10人の出場者が必要。それで、余に出てくれと栄が頼み来た」
本当にザックリと、皇斗が信夫に解説してくれる。
「靫蔓って、食虫植物の名前と違うんか?」
「桜ちゃんみたいな感じの人名だ」
「ほーん、親はどう言った心境でそんな名前を付けたんやろか」
素朴な疑問だが、誰もが抱くであろう疑問であった。靫蔓ってなんだよ。
「それで、皇斗...手伝ってくれるか?」
「断る」
「───ッ!どうして!皇斗がいれば、智恵は助かるはずだ!この前だって、先代生徒会を一瞬で倒しただろ!」
「だからだ」
「───はぁ?」
「余が出ても勝てないから諦めて出ないのではないし、なんなら余が出ればその勝負は十中八九勝てるだろう」
「そうだよ、わかってるじゃんか」
「余が出るほどでもないんだ」
「え?」
俺は、皇斗の言葉に驚いてしまった。
「余が出る幕ではない。余が出なかろうと、勝負に勝つことはできる」
「───そうなのか?」
「あぁ、そうだ」
「必勝法───とまでは行かないけど少し位手伝いをしてやる」
「手伝い?アドバイスではなく?」
俺は、第3ゲームの時に皇斗から貰った「アドバイス」を思い出していた。
「前回は───第3ゲームは口だけのアドバイスだった。結局、活かせてないようだったけどな...だから、少し協力する」
確か、だ3ゲームの時のアドバイスは「微細な変化に気付け。不可解な点の解は追求し続けろ」であったはずだ。
「それは...申し訳ない。第3ゲームのアドバイスはどんな意味だったんだ?」
「臨時教師は複数いる。そのことに気付け───という意味であった」
「え...じゃあ、皇斗は臨時教師が2人いることに気付いてたのか?」
「当たり前だ」
「そう言ってくれればよかったのに...」
「そう言えば、臨時教師は2人で確定してしまうだろう?余は多才だが全知全能ではない。臨時教師は2人だけでなく3人4人といるかもしれなかっただろう」
「それは...」
正解だ。何も言い返せない。臨時教師が1万人いたっておかしくなかったのだ。
「それで、今回の手伝いってのは?皇斗みたいな殺人術を磨けと?」
「まさか。仲間集めに協力してやると言っているんだ」
「それは、ありがたい」
「それで、栄は自分自身ともう仲間にした3人、そして余を抜いた残りの5人。誰を仲間につけようとしているんだ?」
「それはだな...」
俺は、残りの5人の名前をあげる。西村誠に森愛香。東堂真胡と中村康太に───。
「栄...マジで言っているのか?」
「あぁ、冗談じゃない」
「そうか...余に想像がつかない人選であった...」
「そうかよ。それで、どこか改善点とかはあるのか?」
「そうだな...改善するとすればだな...」
森宮皇斗から、改善する案を聞く。
「東堂真胡を彼女に?」
「あぁ、そうだ」
「でも俺、その人とあんまし接点ないし...」
「勝利には必要な人材だ」
「本当か?」
「余を疑うのか?」
「───」
皇斗は、これまでの実績がある。優れすぎている彼の言葉を、優れている俺が疑う余地はないだろう。
ある程度俺も凄いからこそ、皇斗の凄さがわかる。
「信じてみるよ」
「まぁ、とりあえずは西村誠達にでも声をかけてみろ。いや、先に森愛香がいいだろう」
「わかった、そうしてみる」
森宮皇斗を仲間にできれば最高だったのだが、今回は諦めることにした。
「手伝いをしてやる───と言ったが、具体的に何をしてくれるのか聞いてなかったぞ?」
森宮皇斗曰く、今回は口だけではないらしい。仲間集めに協力すると言っていたが...
そんなことを考えつつも、俺はチームHのチャイムを押す。
「え...あ...栄君...どうしたの?」
寮から出てきたのは、綿野沙紀であった。彼女は、自分の腕よりも長い上着を着ていた。彼女のドアノブを掴む手は服に隠れて全く見えていない。そして、彼女の足元には大きなテディベアが座った状態で置かれていた。
「すまない、愛香を呼んでくれる?」
「うん、わかった」
そう言うと、綿野沙紀は傍らに置いてあった大きなテディベアを抱きかかえると寮の奥に入っていった。
───森愛香を仲間にすれば、大きな戦力になるだろう。
恒例のように森宮皇斗にフラれる栄。