5月1日 その⑦
「───なんっ!」
俺は、階段を上るだけのデスゲームをしていたはずだ。そして、岩田時尚を助けようとしたら、失敗して俺だけ転げ落ちて、そのまま最下層に到着したはずだった。
「なんで...」
俺は死んでいない。走馬灯で無ければ、過去回想でもなかった。
「森宮皇斗君!頂上まで上りきりましたね!おめでとうございます!」
マスコット先生のそんな声が聞こえてきた。そして、俺は気付いた。
七不思議其の壱『20cmの高揚感』のルール
1.ゲーム参加者は全員、用意された階段に移動する。
2.階段に乗った者は、全員階段の頂上を目指して階段を登っていく。
3.最下層まで降りてきてしまったゲーム参加者は死亡する。
4.誰か一人が頂上にたどり着いたらゲーム終了。ゲーム参加者は全員、学校に戻ってくる。
七不思議のルール4の『誰か一人が頂上にたどり着いたらゲーム終了。ゲーム参加者は全員、学校に戻ってくる』が実行されたのだ。
俺が、最下層に到着する直前に森宮皇斗は頂点に辿り着き、ゲームはその時点で終了したのだ。
「危ない...死ぬかと思った...」
俺の心臓は脳に響くほどにドクンドクンと鼓動を鳴り響かせている。死のギリギリのラインまで突き進んでいったのだ。実際には転がり落ちていったのだが。
「助かった...」
「栄!大丈夫だった?」
稜が、すぐに俺の方に走ってくる。俺は、極度の恐怖感からその場から立ち上がれなかったが、稜はすぐに俺の方に駆け寄ってきた。
稜も、最下層の方に下っていたのに。もしかしたら、どこかで転んでいたのかもしれないのに。
「あ...あぁ。俺は大丈夫だよ...」
森宮皇斗の方を見ると、マスコット先生から何やら表彰されているが、俺はそれどころじゃない。
これまでで一番死にかけたのだ。
本当にギリギリだった。もしかしたら、廣井大和と戦った時よりも、命の危機が迫っていたかもしれない。
いや、きっとそうだ。後コンマ数秒遅ければ、俺は死んでいった。
そうなると、森宮皇斗には感謝してもしきれない。彼がいなければ、俺は死んでいった。
「栄君!栄君!俺を助けてくれてありがとう!ありがとう!」
そう言って、今にも転びそうな走り方で走ってくるのは時尚であった。その目には、涙が浮かび上がっていた。
「俺のせいでごめん!ごめん!もしかしたら死んじゃったのかもしれないのに!ごめんごめん!」
時尚は、涙を浮かべながら謝罪してくる。
「助けてくれてありがとう!ありがとう!」
「俺は───」
「栄君達に助けられてなかったら死んでた!稜君もありがとう!ありがとう!」
───そうだ、時尚を救わず放っておいた場合は、時尚は死んでいたのだ。
理由を述べるとするならば、落下していくスピードが違うから。時尚が転がって来たのを救わなければ、そのままのスピードで時尚は転がっていっただろう。
それならば、最下層にまで届くのは俺が落下した時よりも数秒は確実に速かっただろう。それなら、時尚は死んでいたことになる。
加速度などの関係もあり、俺達が止めていなければ、時尚は死んでいたことになるのだ。
───俺達4人は、時尚の命の恩人なのだ。
「ありがとう!ありがとう!皆は俺の友達だ!」
ワンワン泣きながら、時尚はそう言った。
───そうだ。時尚と俺は友達なのだ。
俺は少し避けるようにしていたが、時尚にとっては俺は立派な友達なのだ。信頼に当たる人物なのだ。
俺の口からは何の言葉も出てこない。
俺の周りには、泣きながら抱きついてくる時尚の声だけが響いていた。
「───生きた心地がしなかった...」
俺は、小さくそう呟いた。俺は、七不思議其の壱をなんとかして生き延びたのであった。
息を整え終えると、俺達はマスコット先生との会話に耳を傾けた。
「───にしても、困りましたねぇ...まだ5月1日の20時ですよ...一ヶ月続けるはずだったのに、こんなに早くクリアされるだなんて思っていませんでしたから困ってますよ...」
マスコット先生は、そう述べる。そして、困ったような顔をしていた。
「何?今のは、ウォーミングアップではなかったのか?」
森宮皇斗は、驚いたような顔をしてそんなことを述べていた。
「ウォーミングアップとは...よくもまぁ、そんなことを言ってくれますねぇ...デスゲームを考えるのだって大変なんですよ?しっかり、生死のバランスも考えないといけませんし、難易度調整だって大変なんですから!」
マスコット先生は、そんなことを言いながらプリプリと怒っている。
「───そういえば、マスコットに質問なんだがデスゲームの内容は全部お前が考えてんのか?」
鈴華が、マスコット先生にそう質問する。
「いえ、GMが考えています」
「「「お前じゃないのかよ!」」」
その場にいた全員がツッコんでしまう。もちろん、俺もだし時尚もだ。
───ていうか、4月12日も『じゃんけん』なんてふざけた運ゲーを持ってきて大批判を食らっていたような気がする。
「はぁ...しょうがないですねぇ...優勝者の森宮皇斗君には特別に、先代生徒会メンバーとタイマンの殺し合いをする権利でも授けましょうか?」
「───別に余は殺し合いがしたいわけではないのだが...まぁ、いいだろう」
先代───ということは、第4回デスゲーム参加者の生徒会が出てくるのだろうか。
「それでは、5月2日の午前0時に、再度グラウンドに起こしください!森宮皇斗vs先代生徒会メンバーの殺し合いを開催しようと思います!」
───マスコット先生のそんな宣言と共に、どうにかこうにか七不思議其の壱は幕を閉じた。
主 人 公 補 正