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5月1日 その⑥

七不思議其の壱『20cmの高揚感』のルール

1.ゲーム参加者は全員、用意された階段に移動する。

2.階段に乗った者は、全員階段の頂上を目指して階段を登っていく。

3.最下層まで降りてきてしまったゲーム参加者は死亡する。

4.誰か一人が頂上にたどり着いたらゲーム終了。ゲーム参加者は全員、学校に戻ってくる。


※エレベーターの逆走を推奨しているわけではございません。

 

 下りのエレベーターのように下へ下へと下がっていく階段の上方から、波のようにローションが垂れ流れてきた。


 今の状態でも少し走り辛く、転んでしまえば復帰はしにくい状態だというのに、ローションなんて追加がされてしまえば、転んでしまえば戻ってこれることはできないだろう。


「皆、ローションに突入する時は少し立ち止まった方がいい!ローションの波とぶつかって転んでしまうかもしれない!」

 純介の的確な指示。俺はそこまで考えていなかった。ローションの波が来る時は、しっかりとした足場じゃないと足をすくわれる可能性があるから気をつけなければならないだろう。


「───来るよ!」

 純介の声と共に、俺達は今乗っている足場に留まった。その間にもドンドン下に下がっていくが、下がっていくスピードは普通のエレベーターとほとんど同じなので焦ることはない。

 俺達は、これまでもう何百メートルも階段をあがってきているのだから。


「気持ち悪い...ベトベトする...」

 そう愚痴をこぼしたのは、俺達とは別集団だが、同じくらいのスピードで進んできていた園田茉裕であった。

 でもまぁ、実際に靴の中にローションが入り込んで、靴下に染み込んで、足が重くなっていたりして凄く不快感があるのは否めないだろう。


 彼女も、純介のアドバイスを聞き逃さなかったのか、その場に戸惑っていた。

「こっからは、焦らず一歩一歩着実に上っていこう!さっきよりも、上るスピードは落ちちゃうけどそれがいいと思う!」

「わかったピョン!」


 そう言うと、蒼はウサギのようにジャンプをした。そして、そのままローションなんかないかのように上へ上へと登っていく。四足歩行の生物のように移動しているので、手も汚れてしまうのだろうけれど、彼は手を使用することでしっかり足場に着地しているようだった。


「速いな...オレらには真似できない...」

 健吾がそんなコメントを残している。


 ───にしても、蒼は俺らのことなんか気にせずにどんどん進んでいく。


 また、蒼は勝手にどんどん進んでいってしまった。


「はぁ、勝手にどんどん行って...」

 純介は、そんなため息をついている。

「まぁ、ダル絡みしてくるのがどっか行ったから文句はないけどね...」


 純介はそんなことを言っていた。その後、俺達は喋ることもなく───いや、これでは好き好んで沈黙の場を作っていたみたいな言い方だったので少し訂正しよう。


 その後、俺達は喋ることもできないほどに集中して階段を上っていった。

 もちろん、1個ずつ上っていたら下がっていくスピードに負けてしまうので、1個飛ばして上っていた。


 階段が下がっていくのにプラスしてローションもあったので、上っていくのに集中しなければならないのだ。

 そう言った理由で、喋ることもできずに階段を上っていく。


 すると───


「あぁぁぁぁぁぁ!たぁすけぇてぇ!」

 そんな声で上からゴロゴロゴロゴロと土石流のように転がってきたのは、一人のメガネを掛けてきた少年───教室では、いつも俺の後ろの席に座っている出席番号5番の少年───いつも、俺達の興味が全くそそられないような、昔の艦隊やよくわからない昔のゲームの話をする少年───女性へのスキンシップをセクハラだとも思わず、平然と行う少年───岩田時尚であった。


「上から転がってくるぞ?」

「マズいよ!止めてあげないと!」

「止める?!でも、どうやって!」

「全員で、キャッチしようとすればできるよ!」

 稜の「止めてあげる」という意見に俺は賛成した。


「しょうがない...なら、僕も協力するよ...」

「オレもだ」

 純介と健吾も協力してくれるようだたt。4人が、横になれば岩田時尚の動きは止められるだろう。

 もちろん、今着ている服はローションで汚れてしまうかもしれないけどね。


 服が汚れるのと、友達の命ならば、服が汚れる方を誰だって選ぶだろう。


 ローリングしながら、落下してくる岩田時尚の着地地点は、俺達の立つところのほとんど正面であった。

「ここなら、止められそうだね」

「うん、そうだね」

「皆、弾き飛ばされないように気をつけてね?」

「あぁ、わかったよ」


 もう、数メートル上のところに岩田時尚はやってきていた。

「あ、栄く、助け───」

「もちろんだ───ッ!」


 ”ガタッ”


 俺達4人は、岩田時尚を、しっかりと受け止めた───そう思っていた。だが、それは甘かった。


 ローションの上を転がってきているのなら、岩田時尚の全身にローションが付いているのは当然だ。

 そんなことも考えずに、安直に助けようとした俺は、岩田時尚の体を受け止めるのに失敗して、強い衝撃だけを受け止めてしまう。


「───まず」

「栄!」


 俺が、後ろに吹き飛ばされそうになったその刹那、稜がこちらに手を伸ばして、俺の手を掴む。



 だが───



 ”スルッ”



「───なっ!」


 ローション。そう、ローションまみれの岩田時尚を受け止めたということは、受け止めた側の手にも多かれ少なかれ必ずローションは付着するだろう。稜の手には、大量のローションが付いていた。


 故に、俺のことを掴んだ手はスルリと抜けてしまい、俺は岩田時尚に変わって、そのまま落下してしまうことになった。


「んだよ、クソ!」

 俺は、階段を掴んで止まろうとするも上手く行かない。やはり、ローションが掴むのを阻むのだ。

 それに、出っ張りのない階段が掴むのに最適だとは思わないし思えない。


「栄!」

 俺を追いかけるようにして、稜も落下して───否、走って戻ってくる。


 一歩一歩を踏み外さないように───だが、俺を助けるために迅速に。


「───稜」

 俺は名前を呼ぶことしかできなかった。不幸中の幸いで、ローションがあるからか落下中に痛みはそこまでやってこない。いや、ローションが無ければ落下するような事故もなかったのだが。


 ダサい俺は、醜くも転げ落ちてしまう。追いかけているが、稜は間に合いそうにもない。階段を掴もうとする俺の手も、ほとんど掴むことができなくなってきた。


 きっと、岩田時尚もこのようにして転がってきたのだろう。もしかしたら、俺たち以外誰も助けようとしなかったのかもしれない。

 少なくとも、宇佐見蒼は無視だっただろう


 怖かっただろう、虚しかっただろう───などと、岩田時尚を同情するようなことを心の中で思っていたら、あっという間に階段の最下層が見えてくる。


 登るのは時間がかかるが、降りるのは時間がかからない。積み上げていくのは大変だが、それを崩すのは簡単であるのと同じだ。


 俺はそのまま、階段の最下層に到着する───



















 ───直前に、俺の視界は学校のグラウンドを映し出していた。

今回は、完全に仲間意識と正義感が足を引っ張った結果ですね。

必要最低限以外の友達は切り捨てようね、栄君。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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