5月1日 その⑤
七不思議其の壱『20cmの高揚感』のルール
1.ゲーム参加者は全員、用意された階段に移動する。
2.階段に乗った者は、全員階段の頂上を目指して階段を登っていく。
3.最下層まで降りてきてしまったゲーム参加者は死亡する。
4.誰か一人が頂上にたどり着いたらゲーム終了。ゲーム参加者は全員、学校に戻ってくる。
「───うお!」
俺達が上っている階段が、下りのエスカレーターのようにどんどん下に下がっていく。
このまま留まっていれば、いつかスタート地点に戻され、死亡してしまう。
───階段が下がっていくことくらい、考えればわかっただろう。
七不思議其の壱『20cmの高揚感』のルールの3───『最下層まで降りてきてしまったゲーム参加者は死亡する』があれば、想像はついたはずだ。
「クソ...上らないとマズい!」
俺達は、走るように上ることを余儀なくされる。これまで走っていなかった俺達はまだ体力は有り余っているが、走っていった先頭集団はもう辛い頃合いだろう。スタートから今までずっと走って階段を上っているのなら、もう1時間半も走っていることとなる。
きっと、先を走っていった康太や裕翔・美玲などは息を切らしているだろう。
森宮皇斗は───わからない。余裕そうな顔で、突き進んでいそうだ。
「おいおい、オレはこんなの聞いてねぇぞ?」
俺達とは別行動だったが、同じくらいのスピードで歩いていた鈴華が大声で文句を言う。
彼女も俺と同じで第3ゲーム『パートナーガター』の臨時教師との戦いで怪我を負ったのだ。
俺は腹をナイフで刺されただけであったが、鈴華は背骨を粉々に砕かれていたのだ。
歩けるどころか、立てる───いや、意識を保っているだけでも奇跡同然なのに、鈴華は立ってイキイキしていた。もちろん、今は足場が動き始めたことにより焦ってはいるが。
「皆、とりあえず上に上ろう!」
「わ、わかった!」
───俺達は、ダッシュで階段を上る。
だが、それが非常に上りにくいのだ。足場が動いているから、こちらがあげた足が、しっかりと着地することは珍しい。
正確性を求めると必然的に上るスピードは遅くなり、スピードを求めると必然的に正確性は無くなる。
正確性が無くなれば、転ぶ可能性が高くなり、結果的に上るのが遅くなる可能性だってあるし、転がりが留まることを知らず、そのまま一番下まで転がっていく───なんて可能性もある。
エスカレーターなら手すりがあるので、ある程度の落下なら免れるだろうけれど、今回のデスゲーム会場は広いので、掴むような手すりはない。
「下に下っていくの、マジでウザい!留まってちゃ駄目じゃねぇか!」
進むことを強制されるデスゲーム。俺達は、上り続けた。すると───
「やぁ、また会ったピョン」
そう言って、上からドンブラコと───いや、川ではないので桃太郎が流されてきた時のような音はなっていなかったが、エスカレーターのように下がっていく階段に座ってやってきたのは、宇佐見蒼であった。
「下りてきたのか?どうして!」
「どうしてって...ボクは流れるプールでは泳がないピョン」
「流れるプールではほとんどの人が泳がないよ!」
「え、じゃあ流れるプールは温泉だったピョン?」
「温泉で泳ぐマナーのなってない人もいるけども!」
俺は、思わずそうツッコんでしまう。
「ほら、蒼も一緒に来い!」
「言われなくても死にたくないからいつかは走り出すつもりだったピョン。はぁ...しょうがないからイヤイヤついて行ってやるピョン...イヤイヤ」
「イヤイヤを強調するな!」
なんだか、蒼といると俺はツッコミになるらしい。
前までは嫌味と嫌がらせだけをする人物だと思っていたが、ジョークを言える奴だったらしい。語尾がピョンなのに。
「そうだ。純介きゅんはボクのことが嫌いみたいな目で見てくるけど、仲良くしてくれないピョン?」
蒼は、純介に絡みに行った。走るだけでも大変なのに、よくもまぁ絡みに行くだけの元気があるな───などと思ったが、蒼はこれまで走るのをサボっていたのだった。
「ちょっとー、無視しないで欲しいピョン!ボクは可愛い可愛い男の子だピョンよ?無視しちゃ嫌ピョン!イヤイヤ!」
「またイヤイヤ言ってる...」
「あ、いや。別に嫌じゃないって言うか...そのぉ...」
純介は蒼に迫られて少し困っている。言葉もたどたどしいし、このまま蒼が絡むと転んでしまうのも時間の問題だろう。
それにしても、「いや」が多い会話だ。
「純介をいじめるのはそれ以上にしておけ」
俺は、蒼を制止する。
「人がいじめているみたいに言うなんて酷いピョン!」
蒼は、ウサギのように跳躍しながら、俺の隣にまで戻ってきた。
「とまぁ、純介きゅんにだる絡みしたのは認めるピョン。だから、そろそろ離れることにするピョン」
「そうしてくれ。お互いそれが幸せだろうし」
「あはは、俺が会話に入る隙がないや...」
稜がどこか困ったような表情をしていた。もちろん、ここまでの会話は全て階段を上りながら行われている。
なんだか、こんな会話をしているとデスゲームの恐怖感が無くなって来たような気がする。
それに、次第に動く足場の中で走るのも慣れてきたところだし。
───そんなことを思っていると、上の方から大量の液体が垂れ出てくる。
「これは...」
「さぁ、皆さんお楽しみ!一番下の人まで、ローションは届きました!足元をすくわれないように気を付けてください!」
マスコット先生から、そんな放送がやってくる。俺達4人と宇佐見蒼に加えて、俺達と同じスピードで走っている安土鈴華と園田茉裕が最後尾なのだ。
「うわぁぁ!ローションだぁぁ!───って、叫びたいんだけどマスコット先生が言ってた『足元をすくわれる』ってのは間違いで、『足をすくわれる』が正解だってツッコみたい!」
「おっと、池本栄君に揚げ足をとられてしまいました」
どうやら、俺のツッコミは届いたようだった。そんな大声を出した訳では無いのだが...まぁ、いいだろう。
「そんなことより、今は迫りくるローションを対処しないと...やばそうだな...」
「バラエティでも見ない量だよ...」
───何はともあれ、俺達は上から迫りくるローションの中に突入した。
マスコット先生は、こんな仕掛けまで用意している。かなり嫌がらせが好きなようであった。
第〇回と番号がつくデスゲームは割りとシリアスにいきますが、七不思議は少しネタに寄せたデスゲームにしようと思っています。
デスゲームにネタとかマジとかないけどね。