5月1日 その③
「それでは早速、七不思議其の壱『20cmの高揚感』のルール説明───と行きたいところなのですが、昨日に池本栄君がいなかったので、七不思議についての説明をザックリ行おうと思います!」
どうやら、俺のために特別に説明を行ってくれるようだった。正直、皆には申し訳ないのだが、皆気にしている様子はない。
「まず、七不思議は生徒の発想力や想像力・推理力を鍛えるために行います!もちろん、死ぬ可能性がありますのでお気をつけください。そして、七不思議は1人から6人までのチームで行うことができます!」
ここまでは、保健室でマス美先生から聞いたことだった。
「七不思議が行える日は、土曜日日曜日の間の夜のみ───要するに、毎週土曜日の夜から日曜日の朝までですね」
これは初耳情報であった。土日に行う───とだけ聞いていたから、てっきり明日の夕方から───日曜日の夕方から月曜日の朝まで行うのかと思っていた。
これは聞いて正解の情報だっただろう。
「もっとも、今週は5月3日から5月日まではゴールデンウィークで学校で授業は───いや、出席義務は無いので行っても良かったのですが...先生も休みがほしいので行いません!」
「中の人を変えればいいんじゃ...」
「それ名案!だが、不採用!」
康太の案は褒められたが不採用となった。でもまぁ、被り物をしていてボイスチェンジャーを付けてしまえば殆ど差異なく行えるような気もする。
「少し話がズレてしまいましたので、戻します。七不思議は、始まればそれ以降ならいつでも乱入することが可能です。その代わり、チームに途中参加というのはできまえん。参加するなら、最初からチームのメンバーと来てください」
途中参加も可能ということだ。だから、人からどんな感じか聞いてそれを実行するのもいいようだ。
「逆に、七不思議は普通のデスゲームと違って、いつでも逃げ出すことができます。この校門から出てしまえば、七不思議───名称をつけるとするならば、怪異はそれ以上追ってきたりしませんので」
最悪、逃げるには校門から出てしまえばよさそうだった。校門の内側と外側では、怪異の通れない見えない壁があると考えてもいいだろう。
「そして、七不思議は学校の七不思議をモチーフとしています。まぁ、もっとも学校の七不思議なんて無限にあるようなものでしょうけれどね」
言われてみれば、これが確固たる学校の七不思議だみたいなのは聞いたことがない。
トイレの花子さん───だとかは、共通認識だろうけれど、7つ全部が一致するのは違う学校どころか、同じ学校の人とやっても難しいだろう。
実際、七不思議なんて語り継がれた噂話なのだし一致しなくても当然だろう。
「───では、ここからは七不思議其の壱『20cmの高揚感』のルールの説明をしようと思います!では、どん!」
そんなかけ声と共に、マスコット先生が取り出したのはカフェ看板。
カフェ看板である理由は、校門の前に置いておくからだろう。そして、そこに書かれていたのはマスコット先生が言っていたように七不思議其の壱『20cmの高揚感』のルールであった。
七不思議其の壱『20cmの高揚感』のルール
1.ゲーム参加者は全員、用意された階段に移動する。
2.階段に乗った者は、全員階段の頂上を目指して階段を登っていく。
3.最下層まで降りてきてしまったゲーム参加者は死亡する。
4.誰か一人が頂上にたどり着いたらゲーム終了。ゲーム参加者は全員、学校に戻ってくる。
「なんだ?このゲーム...」
書かれていたのは、そのルール4つだけだった。ルールを一言でまとめるなら、階段を登って頂上を目指せ───ということだった。
「ただ階段を登ればいいってことか?」
「そうです!ただ、階段を登ればいい!そして、階段の一番下にまで行ってはいけない!ただ、それだけのゲームです!」
そんなゲームで何が楽しいのだろうか。どうやら、すぐに誰かがコインを手に入れそうなゲームであった。
「それでは、ゲームの参加者は全員校門の奥に進んでください!」
「よっしゃ!ワイが一番先や!トッキー、置いてくでー!」
「ちょっ!信夫!待ってよー!」
そう言って、2人がまっ先に入っていった。なんともまぁ、2人らしいっちゃ2人らしい。
───と、思っていると校門に入っていった2人の姿が消える。
「な───」
消えた。消えたのだ。文字通りその場から姿を無くしたのだ。
「消えたッ?!」
驚きが隠せないのは、どうやら俺だけではなかったようだ。消えたことに驚いているのは、俺だけでなく美玲達もであった。
「───どうして...」
「マスコット先生!どういうことだよ!」
「大丈夫です。岩田時尚君に津田信夫君は七不思議のゲーム開催会場にまで送られただけですので」
「───信用していいんだな?」
「えぇ、もちろん。先生の言うことですよ?疑う余地はありますか?」
「疑う余地しかねぇんだよ。人を苦しむのを楽しむために情報を隠蔽したり改変したりするお前はな」
俺はそう言い放つ。
「まぁまぁ、そう言わずにさ。デスゲームに関しては平等だって言ったのは栄だろ?」
俺は稜にそう言われる。
「まぁ...そうだけどさ...」
「なら、信用して言ってみようぜ」
「───うん。わかった」
俺はそう返事をする。もう、森宮皇斗や安土鈴華などはゲーム会場に行ったようだった。
「んじゃ、俺達も行こう!」
「「「おぉ!」」」
俺の掛け声に合わせて、俺達4人はデスゲーム会場に入る。そこには───
「───なんだよ...これ...」
俺達の目の前にあったのは、超巨大な横にも縦にも広い階段。頂上は遠すぎて、どこにあるのかわからなかった。
───この長すぎる巨大な階段が、七不思議其の壱『20cmの高揚感』の舞台であった。