5月1日 その①
───5月1日。
今日で、デスゲーム開始から早くも1ヶ月が経過する。
早くも───などと言っているが、俺の体感で言うと本当に長く感じた。1年の3分の1以上───4ヶ月以上かかってような気もしているのだ。
「今日で1ヶ月か...」
「そうですね。栄君は学校生活に慣れましたか?」
「いや、まだデスゲームに慣れなんてないよ。今だって禁止行為を犯せば死んじまうような状態になるんだから」
「それはそうですね」
俺は、腹の傷を綴じていた糸を抜くために保健室にやってきていた。もう、糸は抜き終えている。
時刻は───午後3時くらいだろうか。
今日は土曜日なので、本来は学校は無い。だが、今日はどこか活気づいているような気もした。
「今日、学校でなにかあるんですか?」
俺は、最後の診察をしながら雑談をシているマス美先生に問う。
「今月は、七不思議の『壱』が始まるらしいわよ」
「七不思議?」
俺はマス美先生に問う。七不思議って、あれだろうか。
かの有名な、トイレの花子さんだとか。独りでに鳴り出すピアノとか。
「学校の七不思議───ってやつよ。それを、デスゲーム風に改良したやつで、参加は自由。マスコット先生の言葉を借りるなら、やる意義としては『発想力や想像力・推理力を鍛えるため』かしら?」
マス美先生は、カルテに何かを書きながらそう答えてくれる。
「デスゲーム風に改良って...デスゲームじゃないんですか?」
「最悪死ぬわ」
「それじゃ、デスゲームじゃないですか!」
「まぁ、何もしなくたって死ぬんだから、少し位リスクが増えるだけよ」
「ハイリスクなだけでリターンが無いと思うんですが...」
「あぁ、そうそう。ちゃんとリターンもあるらしいわよ。報酬はチーム全体で12万コインだとか...」
12万コイン。
それは、週に一度行われるデスゲーム───小テストやミニテストだのと呼び方が定まらないものに変わるときもあるが、一先ずデスゲームとまとめて故障する。デスゲーム2.4回分と同じ値段であった。
「一回のデスゲームで優勝してやっと5万なのに...七不思議で勝つ?クリアする?生き残る?をすれば、12万貰えるんですか?」
「そういうことね。これは、最低1人最大6人のチームで行えるらしいわ。あ、1人死んだから皆死ぬって訳じゃないみたいよ」
「チームで連帯責任ってわけでもないのか...」
デスゲームに参加でき、その対価は12万コイン。参加する価値はあるだろうか。
「うーん...」
俺は、命とお金を天秤にかける。もちろん、命の方が重かった。
「まぁ、参加するかどうかはお友達と話し合えばいいと思うわ」
「それはそうですね。わかりました。ちょっと、考えることにします」
俺は、そう言って話をまとめた。
「はい、それじゃ今日で長かった保健室通いも終わりよ。退院───いや、ここは保健室だから退室かしら?まぁ、どっちもでいいわよね。完治おめでとう!」
マス美先生にそう言われる。
もう、保健室で治療を受けているのは梨央しかいない。その梨央も、昨日無事に目を覚ましている。
誠はマス美先生の予測通り28日に退室しているし、梨花はその次の日───29日に退室していた。
「少し、挨拶してきますね」
「そうしてあげて」
俺は、そう言うと梨央の病室に顔を覗かせる。もっとも、ここは保健室なので病「室」ではなくエリアなのだが。
「栄、今日で治療も終わりなんだ」
梨央のいる区切りの中に入ると、梨央はそう声をかけてくれた。看病していた美緒は、来ていないみたいだ。
「あぁ、俺はもう抜糸したしな。梨央は大丈夫そうか?」
「うん、まだ抜糸はできないっぽいけど...順調に回復してるって!」
「そうか、それはよかった」
随分と他人事のような返事をしてしまった。
「あ、あの...臨時教師との戦いに巻き込んじゃってごめんね?」
梨央に、申し訳なさそうに謝られる。
「いやいや、謝らないでくれよ。梨央は悪くないだろ?梨央は被害者なんだから」
「それはそうだけど...ワタシを助けに来なければそんな怪我しなかったし...」
「梨央を助けなければ、体に傷はできなかっただろうけど、心と友情に傷や亀裂は入っていたよ。だから、助けて絶対に正解だったんだ」
「───」
梨央は黙り込んでしまった。
「あ、あれ...俺、なんか酷いこと言っちゃったか?」
「いや、栄は悪くない。ただ、嬉しくて」
「───そっか。お礼は俺じゃなくて稜にいいな。2回戦目のMVPは稜だろうよ。とどめを刺したのは俺だったけれど...」
ちなみに、作戦も俺だ。でも、ここは梨央のことが好きであろう稜の名前を立てる。
「稜が...」
梨央は、何かを考えるような表情をする。
「そっか、教えてくれてありがとう!」
「目が覚めたあと、稜と話したのか?」
「うん、昨日目が覚めたって美緒が皆に報告しに行ったあと、真っ先に来たよ」
稜らしいな───なんて、そんなことを思った。
「何かあったか?」
「何か?いや別に何も」
まだ告白はしていないようだった。まぁ、告白したら稜が自慢してくるだろうし。一応鎌をかけてみたけど、特に何もなかったようだった。
「んじゃ、俺は寮に戻るね」
「うん、わかった。完治おめでとう!」
「あぁ、ありがとう。梨央も早く治るといいな!」
「うん!」
俺は、そのまま保健室を出て寮に戻っていった。足は怪我していなかったから、何一つ不自由なく歩ける。
───こうして、5月は幕を開けたのであった。