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4月1日 その⑭

 

 ”ガシャァァン”


 地面にこぼれ落ちるのは、大量のジェンガブロック。


「あちゃあ...池本栄君、倒してしまいましたか...」

 マスコット先生が駆け寄ってくる。そして、俺に顔を近付ける。


「あぁ、俺の負けだ。残念だな」

 俺は、ニヤリと笑う。マスコット先生も、被り物なのにニヤリと口角を上げた。仕組みはわからない。


「負けてしまった、池本栄君には、罰を与えなければなりません」

「な───」

 クラスメート全員が、俺の方を凝視している。


「罰、それは───」

 俺は、間違っていたのか。屁理屈は通用しなかったのか。


「本日のお菓子は抜き!」

「え、それだけ?」

「はい。お菓子抜きです。泣き喚いてください」

「いや、別にお菓子なんか興味ないし...ちなみに、何がお菓子ででるの?」

「ルマ◯ドです」

「あ、そう」

 俺は、席に座る。


「俺らは、全員生き伸びれたな」

「うわぁぁ!栄ぇぇぇ!」

 涙目の稜が抱きついてくる。


「急に倒したから、トチ狂ったのかと思ったよぉ!」

「あぁ、抱きつくな!」

「死んだのかと思って、びっくりした!」


 ”ガラガラガッシャァァン”


 クラスのあちこちで、ジェンガタワーを崩す音が聞こえてくる。先程、全員が生きて生存すると言っていた中村康太も行っていた。


「栄、よかったな」

「あぁ、よかったよ」

 俺らは、誰一人欠けることなく生き延びることができた。こんなゲーム一つ一つでドキドキしていれば心臓が持たないのだけれど。


 ───と、ジェンガタワーを崩したのは、9チーム中8チーム。


 1チームだけ、ジェンガタワーを崩すことはなかった。それはチームH。

 10番小寺真由美、26番細田歌穂、31番森愛香、37番綿野沙紀の4人チームだった。


「愛香ちゃん、もういいんじゃない?」

「いいや、駄目だ。妾は、あのマスコットの首を斬るんだ!」


 チームHのジェンガタワーは、パーフェクトジェンガまでもう少しだった。

 後数個引き抜けばパーフェクトジェンガが達成される。


 5段目から上は、完璧にこなされている。残りは、4段。

 引き抜くジェンガの数は5本だ。


「歌穂、貴様の番だ」

「わかってる、わかってるよぉ!」

 白髪の少女は、4段目の真ん中のジェンガブロックを右手の人差し指で押して抜き出す。


 精密な作業。だが、その精密さ故に一つの振動も起こっていない。


「えっと、自らのコンプレックスは?だってさ...なんだろ?やっぱり、この白髪かな?色素が抜け落ちちゃって...染めてるって言われるのは少し嫌かな」


 何も言わずに、入学式の時などは左隣に座っていた少女───小寺真由美は3段目右側のジェンガを引き抜く。

「血液型はB型」


「んじゃ、私だね」

 大きなくまのぬいぐるみを、自らの脚の横に侍らせているその少女───綿野沙紀は、3段目の左側のジェンガを引き抜いた。


「えっと...家族構成は、お母さんとお父さんとお兄ちゃんがいるよ」

「妾のターンだ」


 ”スッ”


 懐から、扇子を取り出した森愛香。その扇子の持ち手の部分で2段目真ん中のジェンガを上手に抜き取った。


「読め、小寺」

「えっと...助けるなら、両親か恋人のどっち?だって」

「恋人一択だろうな。次」


 そして、残るは1段の左右の2つに。これなら、本当にパーフェクトジェンガしてしまいそうな勢いだ。


「アタシの番か...」

 1段目の右側を取り払う。

「えっと...このクラスで、一人殺すとしたら誰?だって。うーん・・・」


 細田歌穂は、周りの皆を見回す。


「そこの弱そうな男の子かな」

 指名されたのは、背の高い美少女のような少年───東堂真胡だった。


「わ...私?」

「そう、君。男の子の悲鳴、聞いてみたいんだよね」

 そう言って、細田歌穂はウインクをした。


「わ...私、まだ死にたくないなぁ...」

 全員の視線が向けられる中、細田歌穂が行った発言は、死刑宣告にも捉えることができるだろう。


「ねぇ、先生。デスゲームってやっぱり死人が出たほうが面白いんじゃない?」

 細田歌穂は、立ち上がり1歩東堂真胡に近付いた。

「えぇ、そうですね」

「じゃあ、今ここで殴り合ってもいい?」

「えぇ、もちろん。殴り合ったら行けないなんて、生徒心得にも校則にも書いていませんから」

「じゃあ───」


「やめろ、歌穂。妾の目的まで後1歩だと言うのにどうして邪魔をする。殺すぞ」

「はーい、ごめんなさーい」


 細田歌穂は、森愛香に睨まれて席に戻った。


 ”チッ”


 そんな、舌打ちが教室のどこかから聞こえてきた。


「───でだ。最後の1つを引け小寺」

「わかった」


 小寺真由美は、1段目の左側を抜き取る。

「あなたにとっての『愛』とは?だって...なんだろう...」


 一瞬の、思案。そして小寺真由美はこう答えを出す。


「助け合うこと...かな?」


 ”テッテレー”


 そんな音楽が、どこからともなく流れてくる。いや、音が出ていた場所はわかっていた。教室の白板上部にあったスピーカーだ。


「いやぁ、パーフェクトジェンガを行ってしまうなんて流石ですねぇ」

「妾に首を斬らせろ。マスコット」

「わかりました。では、ノコギリを用意しまーす!」


 ”パチンッ”


 指パッチンと同時に、白い衣服に包まれた防護服を着た人の一人がノコギリを持ってきた。

 その間に、マスコット先生は机を縦に3つ並べる。


「では、私はここで寝っ転がっているので好きなように首を斬ってくださいねぇ!」

 マスコット先生はそう言うと、うつ伏せになって机の上に寝っ転がった。


「では、妾が貴様の首を刎ねる。死ね」


 ”ザッ”


 ”ドスンッ”


 そんな鈍い音がして、机から落ちたマスコット先生の生首が床に転がる。


 断面からは、鮮血が零れ落ちていた。


 ”ガラガラガラ”


「はい、ではアイスブレイクも首斬りも終わりましたねぇ。皆さん、席に座ってくださーい」

「なっ!」


 教室に入ってきたのは、体型や背丈・衣服に被り物まで全く同じのマスコット先生だった。


 机に置かれた死体も、しっかり実在している。

 一体、目の前にいる2人目のマスコット先生は何者なのだ。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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