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4月28日 その②

 

 ***


 ───4月28日。


 時刻は朝の8時を過ぎた頃であった。時間的にはホームルームを終えたすぐ───になるのだが、その時間に保健室に駆けつけてきたのは一人の少女───佐倉美沙であった。


「梨花ちゃん!」

 美沙は梨花の名前を呼ぶと、すぐに梨花のところに駆けつけた。


 今現在、保健室にいるのは俺と梨花と誠に梨央。そして、梨央の看病をしている美緒に駆けつけてきた美沙とマス美先生の7人であった。


 梨央はまだ昏睡状態であるし、マス美先生は生徒間の会話に積極的に入ってこようとはしない。

 俺も今回は、ある程度のところまでは傍観で見送るつもりだった。


 ───何せ、今回の梨花と美沙の問題は俺はハッキリって言ってしまえば部外者なのだから。


「梨花ちゃん、もう一度だけ謝らせてください、ごめんなさい!」

 美沙の謝罪する声だけが聞こえてくる。美沙は土下座をしているのだろうか。頭を下げてしっかり謝っているのだろうか。


 ベッドとベッドの間には区切りが用意されているため、見ることはできない。それは、他の病室の皆も同じであろう。


「アタシは...」

 梨花は、何かを噛みしめるようにする。昨日も誠のフリをした生徒会に刺されたのだ。


「アタシも怒りすぎちゃったみたいだね、ごめん。ごめんね」

「───んぇ」


 美沙の口から、思わず驚きが零れ出てしまう。俺だって驚いた。誠の話を聞くに、大きく対立していたであろう2人が、こんなに単純に容易に簡単に和解したのだから。


 まるで、これまでの争いが全て忘れ去られたとでも言うように一瞬の和解だった。


 戦争の集結を表す際の条約のサインをするのは一瞬であるように。短距離走の選手の試合が数秒であるように。

 これまで積み重ねてきたものを一瞬で使用した。貪った。


「赦して...くれるんですか?」

「うん、アタシも美沙にはたくさん酷いこと言っちゃったし、酷いことをしちゃったって思ってる。だから、アタシからも謝らせてください」

「───」


「暴力を振るって、罵詈雑言を言い放ってしまい、申し訳ございませんでした」

 梨花の謝罪。それが、保健室内に響く。


「はい!」



 ───和解が成立した。


 誠の行いは、全て功を奏したのだ。でも、梨花がボイスチェンジャーで声を誠にした人物に刺されたのは昨日だ。本来であれば、信じることは難しいであろうに、どうして謝罪を受け入れたのだろうか。



「でも、どうして───」

 俺と全く同じ疑問を、美沙が投げかけてくれた。


「アタシ、昨日の夜に考えたの。誠君も病室に運ばれた時に、生徒会側の作戦かもしれない───って。でも、そうなるとおかしいの。アタシと美沙を和解させないのと誠君を攻撃するのは因果関係が直接的には無いかなって。なら、誠君も生徒会の被害者って、考えたの。それに、美沙が生徒会の凶刃に倒れていないのは、生徒会にとって都合がいいから...って考えたから、その逆で誠君が凶刃に倒れたのは生徒会にとって誠君が都合が悪いからかなぁ...って思って」


 梨花が、全てを解説してくれた。要は、生徒会視点で考えて思案したのだ。


 生徒会に所属している人も、デスゲーム参加者も、梨花も全員が同じように「天才」であったのだ。

 ならば、考え方は直感的に似るはずなのだ。


 もっとも、生徒会が「快楽殺人者」の集まりという考え方もあったが「アタシを2度も殺さなかった」というところからその選択は消したのだという。


 ───梨花も、天才の一人なのだ。何も考えずに暴力を振るうような人物ではなかったのだ。


 ここに来ている人たちは皆、冷静ささえ保てれば、しっかり思案し正解を導くことは可能なのだ。


 俺は、誠の行動が無駄にならなくてよかったと安堵する。


 そして、第3ゲーム『パートナーガター』との間で行われたパートナーとの摩擦は無事に解決する。


 ───だが、まだ残っているのだ。第3ゲーム『パートナーガター』を機に生まれた障害が。


「打倒靫蔓(うつぼかずら)...次の目標としてはこれだろうな...」

 俺は、小さく呟いた。だが、まぁこれは第4ゲームとしてまとめられるから、次のゲームが問題なのだ。


 ───ということで、学校内での大きなイザコザは解決したと思われる。


 ***


 ───保健室のベッドの下に盗聴器を付けていた生徒会の人物が、仲直りしたことを聞いて苛立ちを見せていた。


「ったく、変に行動するから思案の余地を与えちまったじゃねぇか...しかも、謝罪をパフォーマンスではなく保健室で隠密で行いやがったから暴動も起こせなかったし、さらなる問題へと成長させることもできなかった...」


 その人物は、苛立ちを口にする。


「第4ゲームで最低でも1キルはしねぇとまずいな...4月だけで2人ってのはマズい...しかも、意外にも禁止行為を犯さない奴が多いってのも悩みのタネだ...」


 生徒会は思案を続ける。


 ***


 仲直りした結果、梨花と美沙の仲はより強固なものとなった。


 雨降って地固まる───というやつだろう。


 そして、女子の中では「柏木拓人には手を出すな!」と言われるようになり、梨花と拓人の距離は近付いていくのだが───それは、今の話ではなく未来の話だ。



 ───これにて、4月は終わりを迎えるのであった。

次回から5月に。

次話から、「4月2日 その④」辺りで匂わされていた「アレ」を遂に行おうと思います。


まぁ、第4ゲームはちょっと待ってね。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、なんとか和解が成立。 個人的にはこの展開は大歓迎です。 と思ったら生徒会側が盗聴!? や、やることにぬかりねえなあ。 でもこれはこれで面白い!
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