4月28日 その①
靫蔓がどこかに消えた後、誠が保健室に運ばれてきた。
ベッドにいた俺は何もできずに、治療されている音を聴くことしかできなかったが。
───だが、誠はそこまで大きな怪我ではなかったらしい。
治療のため、保管室で一晩を過ごすことが決定したのだが、次の日の昼にはもう自由に動き回ってもいい程度の怪我らしいのだ。
───と、思っていたのだがここまで保健室に人が集結してしまって大丈夫なのだろうか。
今、保健室に寝泊まりしているのは俺と梨央、そして梨花に誠であった。
昨日の夕方頃───俺が目を覚まして一段落ついた後、奏汰と真胡が退室していったのだが、俺と梨央の2人はまだベッドを使用していた。
───と、思ったが2人出て行って2人入ったのだからそう考えればベッドの数としては問題なさそうだ。
まさか、これからクラス全員保健室送り───なんてことはならないだろうし。
一人だとやはり、かなり静かだなぁ───などと思いながら、長いように感じられた4月27日は幕を閉じたのであった。
***
「たっでーまー。俺、帰宅ー。元気にしてたか?小娘たちー」
一人の青年───鬼龍院靫蔓は、GMに「私のことを話すな」とこっぴどく叱られた後、自分と同じ第3回デスゲームの生き残りである3人の淑女───九条撫子・柊紫陽花・深海ヶ原牡丹に声をかけた。
彼女達は、用意されている椅子にそれぞれ座っていた。
「私は小娘じゃない...貴様に『傲慢』の称号をくれてやる...」
「んじゃ、撫子には『憤怒』の称号をやるよ」
「───返す」
「いつも通りか」
靫蔓と九条撫子が、顔を合わせて話す時はいつも行う言葉のキャッチボールをあいも変わらず行った。
九条撫子は黒髪で頭にパイロットゴーグルを付けていた。黒いトップスを着ており、そこには白く習字のような迫力のある字で「絢爛豪華」と書かれていた。下は普通のスカートであった。
「で、どうだった靫蔓よ。大和を殺した人物をボコボコのグチャグチャのケチョンケチョンのちゃらんぽらんにしてきたのか?」
「姫さん、そこまで俺は暴力的じゃねぇし、最後のちゃらんぽらんに至っては意味も違うよ」
姫さんと呼ばれた、金色のドレスを身に纏い、金色の髪と瞳を輝かせている玉座のような豪華な椅子に座っている少し背の低い女性が柊紫陽花であった。
そして、明らかになるのが以外にも靫蔓はツッコミ枠であったと言うことだ。
これほどまでにイカれていたのにも関わらず、ツッコミであることがこのグループの異常さを表している。
───いや、靫蔓がツッコミが合う性分なだけなのかもしれないが。
───そして、靫蔓と会話に参加しない女性が深海ヶ原牡丹であった。
彼女は、深海のように寡黙であった。黒髪黒目であり、座っているソファの上で体育座りをしている深海ヶ原牡丹は、会話をしている皆をただ見ていた。
「───それでだ。報告としては、第4ゲームにて、大和を殺した人物───池本栄と直接対決することとなった」
「ほう、それは面白い。大和の二の舞を演じてくれるのか?」
「残念だが、前車の轍を踏むわけにはいかねぇよ。前車の覆るは後車の戒めって言うだろ」
「それはそうだけど、勝つ算段とかあるの?無いのなら大罪よ」
「今からその算段を作るんだよ。ルールってのは俺が考えるより、どっかの漫画から持ってきた方がしっかりしてんだ。俺だって素人だからな。ルールを考えるのは苦手だし面倒なんだ」
「あ、そう。貴様には『怠惰』を授けるわ...」
「はいはい、サンキュー」
靫蔓は九条撫子の言葉を適当にあしらう。すると───
「--・-- ・- ・-・-- -・・・ --・-・ ・・ ・--・- -・--- - ・・-- - ---・- ---- -・ ・・ --・-- ・-・ ・・-・・ ・・ -・--・ ---- ・・-・・ ・-・ ・-・・ ---」
そう述べたのはこれまで会話を聴くに一貫していた深海ヶ原牡丹であった。
「んなことわかってるよ。舐めプなんかしねぇ。ダチが死んでんだ。俺が好きな言葉は友情・努力・勝利なんだよ。俺と大和の友情は薄っぺらいもんじゃねぇ!勝利してみせるぜ!」
深海ヶ原牡丹の言葉を受けて、靫蔓はそう答えた。
「まぁ、妾には友情も努力も勝利も関係ないことよ。望まずとも妾についてくるのがその3つじゃ。友達を奪われなかったアンパンマンはたいそう安堵しているじゃろうなぁ」
「はいはい、姫さんは大人しくしといてください」
そう言って、柊紫陽花の言葉を軽く流す靫蔓。
「ま、万一俺が負けた時はよろしく頼むわ。GMは部下である俺等にも優しくないからな。俺が負けたらGMに殺されちまうだろうよ」
「骨くらいは拾ってあげるわ...」
「頭の片隅に名前くらいは残しておいてやろうぞ!」
「・-・・ -・ -・-・・ ・・- ・・-・ ・--- --・-・ ・-・-- --・-- -・-- ・・ -・--・」
「皆、ありがとうな。なんだかんだで、俺はお前らのことが大好きだよ」
「キモい。貴様に『色欲』と『傲慢』と『強欲』の称号を授ける。悶え死ね」
「吐き気を催すから、妾の視界に入ってくるでない。そして、その煩い心音を止めよ」
「-・-・・ -・--- ・・- ・---・ ・-・-」
「あーあ、最後に要らんこと言っちまったぜ。まぁ、ツンデレの奴に{お前ってツンデレだよな}って言ったら{そんな訳ない!死ね!}って言われるのと同じ原理か...」
そう言って靫蔓はその場を後にした。