閑話 智恵の小さなデスゲーム
1話完結型の智恵が主人公の閑話。
本編ではかなりシリアスだけども...
***
4月27日午前11時。
村田智恵───私は最近、学食という存在を知った。
生徒心得を読んでいたら、「学食について」という欄があったのだ。昼食はいつもスマホのアプリである「帝国大学附属高校」のショップで無料で食べられるのでそれを利用していたので知らなくても困らなかったのだが、学食の存在を知って食べてみたいと思ったのだ。
───食べてみたいと思ったのだが、どこで学食を食べれるのかわからない。
この学校にあるのは売店だけで、カフェテリアなどというものは存在しない。なので、試しに売店に行って聞いてみた。
「すいませーん」
「あら、嬢ちゃん2人が買い物か?何を買うんや?」
売店の店員であるマスターに声をかける。嬢ちゃん2人というのは、私と紬であった。
梨央は昏睡状態に陥っていたし、美緒はその看病で忙しいらしいので2人で来ていた。
美緒の手伝いをしなくていいのか───なんて思われてしまうかもしれないが、看病に当たれるのは生徒一人だけだった。
だから、私は彼氏である栄の看病についていたのだ。まあ、できたのは手を握ることくらいだけだったから看病も何もしていないのだけれど。
美緒に梨央の看病を任せている任せている私達は、呑気に学食を食べに来ているのであった。
「あの、学食を食べたいんですけどどこに行けば...」
「あぁ、学食か!食べに来てくれる人がいなさすぎて忘れておったわ!学食2人分な?一人あたり500コインやから合計で1000コインや!」
「つむ、コインなんか持ってない...」
「あ、じゃあ私が払うよ」
私は、1000コイン払って自分と紬の分の学食を買う。少し高いけど我慢我慢。
「ほな、少し待ってな」
そう言うと、マスターが丸い机と背もたれのある椅子を2つ用意した。そして、それを売店の横の開いたスペースに置く。
「学食なんか誰も使ってくれへんから、学食を並べる椅子を用意するのも頼まれた時だけなんや」
そう言って、マスターは並べ終えた。
「んで、学食やったな。座って待っててくれ。用意すんのに時間がかかるからな」
そう言って、マスターは準備に取り掛かった。今から作るのは少し時間がかかるだろうか。
───そして、十分ほど。
売店の中から、カレーのいい匂いが漂ってきていた。
「カレーみたいだね」
「うん!」
私がそう言うと、紬が快活に頷いた。
「はい、お待ち」
届いたのはカレー───ではなく、カレーうどんだった。
「ほな、お召し上がりぃや」
そう言うと、マスターはどこかに行ってしまった。
少し刺激的な匂いを纏った黄色いカレーの中に浸されているうどんと野菜。そして、牛肉。
「美味しそう〜!」
───そして、気付く。
制服にカレーうどんという禁忌とも呼べる組み合わせを。
「カレーうどんって...はねるよね?」
「うん」
「制服、上はシャツだから...」
私達が着ているのは白いシャツだ。この後は、栄のところに行くから服にこぼすなんて恥ずかしいことはできない。
私は唾を飲み込む。
───カレーが服につくことなくカレーうどんを食べ終えなければならない。
一度でもハネて服に付けばアウトのデスゲームであった。
「───やってやるわよ...」
服につくことなくカレーうどんを完食してみせる。私はそう意気込んだ。
一番早いのは、制服の上から何かを羽織ること。だけど、今の私はそんなことを持っていない。
制服を脱ぐ───なんて選択肢は論外だ。
「諦めるのはまだ早いわ!私だって生き残ってみせる!」
カレーうどんのキレイな食べ方。
まず、口元は皿の上に持っていく。食べるのに最適なポジションなここ。
そして、大切なのはうどんを掴む位置。うどんはできる限り真ん中を持つ。ここがベストポジション!
そして、食べる時はお箸を使ってうどんを暴れるのを阻止する!
”ズルルルル”
「この方法ならッ!」
イケる。この方法なら、誰も死ぬことなくカレーうどんを食べきることができる!
そう、油断していると───
「───ッ!」
箸で掴んでいたうどんに巻き込まれてやってくるのは牛肉。それが、カレーという大海に落下する。
私の頭に過るのは死。
「───」
カレーの汁が飛ぶ。
───見えた。
”ダッ”
私は、自分でも驚くほどのスピードで飛来してきたカレーうどんの汁を避ける。
そのカレーうどんの汁は私に被弾することなく机の上に落下した。どうやら、避ける必要はなかったらしい。
───その後、私は垂らさないように心がけながらカレーうどんを無事に食した。
美味しかったし汚さなかったので、万事オーケーだ。