4月27日 その⑩
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誠が、マス美先生から被り物を奪い取ってくる───と言って保健室から出て言って早くも十分が経過していた。
俺のベッドの上の蛍光灯は電気を消されているが、保管室の入り口のところは電気がついている。
美緒は、誠が出て言った後、すぐに梨央のベッドの方に戻ってしまったから話す人もいない。
「少し速いけど、もう寝るかな...」
俺は、隣のベッドにも届かないような小さな声でそう囁いた。
そして、俺はベッドの中に潜ると───
「栄!!出てこいやぁ!罰してやる!!!」
俺の名前を呼ぶ見知らぬ声。俺は、亀が甲羅から顔を出すようにして布団から顔を出した。
すると、俺の目に入ってくる「生徒会」と縦に書かれた被り物をした人物が。
その人物は、誠よりも、マスコット先生よりも長身であった。
「お前は...」
「お前が栄か?」
俺が、目の前にいる人物に誰かと聞く前に俺の名前を聞かれる。
「───そうだ。確かに俺が池本栄だ」
俺はそう認める。
「へぇ、そうかいそうかい。お前が俺のダチの大和を殺した野郎か!随分と優男っぽい顔をしやがってよぉ!」
目の前の被り物をしている人物は怒りをあらわにしていた。そして、俺はマスコット先生の言葉を思い出す。
{廣井兄弟は、池本栄君が殺したことにしておきましたので。もしかしたら、廣井大和君と同じ代である元・生徒会が仇討ちに来るかもしれません。まぁ、お元気で}
昨日の去り際、マスコット先生はそんなことを言っていたはずだ。
───本当に、元・生徒会らしき人物がやってきた。
しかも、俺のダチと言っているところからも第3回のデスゲームでの生徒会なのだろう。
「───お前は誰だ?」
「俺は、第3回デスゲームの生き残りである、鬼龍院靫蔓だ!前は長々と話したが、そんなデジャブは甚だしい!よって省略!」
目の前にいた「生徒会」と書かれた被り物をした人物は鬼龍院靫蔓と名乗った。
鬼龍院という名字はかなり珍しくてイカツかったが、それ以上に名前の靫蔓のインパクトがデカすぎた。
靫蔓って、食虫植物のアレだろうか。丸く膨らんだ袋を持ち、そこに小虫を誘い込んで吸収するあの植物のことだろうか。
「靫蔓って...名前なのか?」
「あぁ、靫蔓って名前だ。何か悪いか?」
こんなインパクトの強い名前が現実に存在したのか。いや、デスゲームに参加している以上、現実味が無いものだって現実だと信じるしかなくなってしまう。
それこそ、俺がデスゲームを生き残ったら私小説としてどこかに応募してみたり、ネットに投稿してもいいだろう。
そう言えば、カクヨムで前にデスゲーム企画みたいなのがあった気がする。なら、投稿するならカクヨムだろうか。
───そんな、くだらないことを考えているのは現実から少しでも逃避するためだった。
「───靫蔓...さんが何の用なん...ですか?」
俺は、敬語を使うかどうか迷いつつも最終的に敬語を使う。
「わかってるだろ?報復だよ。俺のダチを殺しやがって...殺人犯罪!殺人犯罪!贖罪せよ!」
「───ッ!」
靫蔓の拳が、俺の方に向けて飛んでくる。狙うのは縫われている腹。
───彼もまた、激昂しているが理性的に動いているのであった。
「まだ勝負の時じゃない!」
「───」
俺は、この拳に当たったらマズいと考えて咄嗟に声に出していた。俺の腹に当たる寸前で、靫蔓の拳は止まる。
「俺は今現在怪我をしてる!報復するのも仇討ちするのも構わないけど、それは本当に勝利したと言えるのか?納得して勝ったと言えるのか?それはただ、お前がスッキリするだけじゃないのか?」
気付くと、俺の口から言葉が驚くほどにスラスラと出てくる。これも、脳が今を生きるためにフル稼働しているようだった。
「勝負をするには正々堂々勝負をしよう!そうだ、次の第4ゲームで臨時教師として靫蔓さんが出ればいい!そうしたら、俺としっかり勝負ができる!第4ゲームの時には俺も完治しているから問題ないはずだ!それならどうだ?」
「第4ゲームねぇ...まぁ、ゲームでやられたならゲームで勝つのも納得がいくかなぁ...」
そんなことを言って、靫蔓は思案している。
第4ゲームでコイツと戦うだなんて、したくもないが抵抗できない今よりかは楽なはずだ。
それこそ、名前を集めることだって可能だろう。
智恵を馬鹿にしたことで怒ったのを謝れば、森愛香も交換条件で仲間になってくれるかもしれない。
「んじゃ、しょうがねぇ。第4ゲームまでお前をボコボコするのは我慢してやる。その代わり、第4ゲームは俺が考えるからな。お前をボコボコにするために徹底的に残酷なルールを考えてやるよ。生憎、俺はジャンプ系列を読み漁ってんだ。どっかにいいルールの元が転がってるだろ」
そう言うと、靫蔓は俺から離れる。俺を蝕もうとしていた拳から逃げることに成功した。
いや、厳密には逃げ切ってはいない。猶予ができただけであった。
「───それとだ。お前は誠って野郎に主人公と言ったらしいがな、俺はお前のことが主人公だと思っている」
「───は?」
俺は、そんな情報をどこで仕入れたのかと思い、眉間にしわを寄せて怪訝そうな顔をする。
「なにせ、両親が失踪したって過去は大きいし、その両親はデスゲームの」
その直後、目の前にいたはずの靫蔓が消えた。文字通り消えたのだ。
まるで、瞬間移動したかのように消えていったのだ。
「───何が起こったんだ?」
靫蔓は、何かペラペラと喋っていたが、俺の両親について話そうとした瞬間に消えていった。
───だが、俺は鈍感系主人公ではあるまい。
俺は智恵への恋情にすぐに気がついた。だから、靫蔓が言おうとしたことも大体は察しがついていた。
───俺の予想によると、両親はデスゲームのGMだ。
栄は、カクヨムだと予想していますがハズレです。
ここはハーレムやチート・婚約破棄にざまぁが蔓延る魔境・小説家になろうなのさ!