4月27日 その⑨
夜中のグラウンドにて対面する誠と、第3ゲームの生き残りであり元・生徒会であった鬼龍院靫蔓。それを、少し下がったところからマス美先生は見ていた。
「鬼龍院靫蔓か...すごい名前だな」
「そうか?3回目のデスゲームには、俺よりすげぇ名前の奴らがたくさんいたぜ?」
「へぇ、それはそれで興味があるが...」
「そんで、お前の名前は?」
「すごい名前がたくさんいると聞いて、平々凡々とした自分の名前を名乗るのは少し恥ずかしいのだが...しょうがない。俺は、今回のデスゲーム参加者である西村誠だ。愛読書は週刊少年マガジン。好きな少年誌は月刊少年マガジン。オススメの雑誌は月刊アフタヌーン。尊敬する青年誌は週刊ヤングマガジン。大切な雑誌は月刊少年シリウス。重要な雑誌はモーニングだな」
「へぇ、お前は講談社か。講談社の生徒会は、ただのお色気だからな。同じ生徒会として吐き気がする!」
「生徒会4コマ漫画は講談社の伝統だ。それに、集英社の生徒会漫画なんて...何かあったか?」
「かぐや様は告らせたいに、めだかボックスをお忘れか?」
「おっと、小学生並みの下ネタと下着丸出しの露出狂女の登場する漫画じゃないか。おあいこだな」
誠も、何かとノリノリで靫蔓の漫画トークについていっている。
煽り合いからか、かなり作品を否定した言い方をしているのは否めないが。
「んで、漫画の話をしにきたわけじゃないだろう?俺に何のようだ?」
「お前に用?あるわけねぇだろ。俺は池本栄って言うやつを探してんだ」
「───何故だ?」
「別に、お前に話す必要も理由も利点もないが、教えてやる。俺のダチが池本栄って野郎に殺されたからよぉ...俺が仇討ちにやってきただけだぜ?デスゲームの均衡を崩さぬためにも、殺すなとGMに言われているがな」
靫蔓はペラペラとやってきた理由を話す。
誠は、靫蔓のことを何か見据えたような目で見ていた。
「そうだ、折角なら池本栄のいる場所を教えてくれよ。とまぁ、この時間なら寮にいると思うのだが...栄とやらの寮は何番だ?」
「残念だが、教えることはできない」
「そうかいそうかい。お前と栄とやらは、ダチか何かか?」
「残念ながら、友達ではない」
誠はそう答える。そして、誠に向けて中指を立ててこう言った。
「───友達ではなく、池本は───栄は俺の仲間だ。お前が栄をボコボコにする気ならば、俺がお前をボコボコにしてやるよ」
「へぇ、カッコいいじゃねぇか?だが、その選択肢は間違いだったと思えよ?」
靫蔓は、被っていた「生徒会」と縦に書かれた被り物を外す。
そして、靫蔓は自分の前髪をかきあげて、オールバックのようにする。
靫蔓と言う名前には似合わないようなイケメンが、そこには立っていた。
「逃げるなら今のうちだぜ?」
「残念ながら、俺にも俺なりの正義はある。仲間を見捨てられるほど薄情者ではない。それに、俺は栄に主人公だと言われてしまったからな。逃げれないんだよ」
「お前が主人公?ハハハハハ!な訳ねぇだろ?お前に主人公の素質はねぇ。その証拠を今から3つあげてやる」
靫蔓は、拳を前に突き出してから人差し指を天高く突き立てた。
「1つ目。お前の血筋はショボい。お前の親は偉大な人物か?特別な家系か?何か誇れるような業績を成し得たか?」
靫蔓は、真っ先に誠の家族を否定する。
「そうだな。俺の家は何もすごくない。一般的な家庭だ。親が凄いってことを考慮すると、森とかが主人公なのだろうか?」
誠は、靫蔓の言葉を冷静に分析して森愛香を主人公の例として出す。
「2つ目。お前の過去もショボい。何か大きな事故や事件があったか?これまでの人生波乱万丈だったか?過去回想で盛り上がれるか?」
次に、靫蔓は誠のこれまでの人生を否定する。
「そうだな。俺の過去は何一つとしてつまらないだろう。漫画なら、全カットされてしまいそうな。それこそ、エピローグにすら描かれなさそうな話だ。もっとも、エピローグどころかプロローグ以前の話なんだけどな」
誠は、靫蔓の言葉を噛み締めて、己の過去の話をする。
その言葉に、全くの怒りなどは感じられない。
「3つと言ったが、4つに変更だ。3つ目。お前は、冷静すぎて面白くない。感情でも無いんか?って思うくらい冷静だ。お前、機械だったりするか?」
「機械か。それはいい例えかもしれないな。それに、感情でも無いんかっていうのも鋭い指摘だ。やはり、無いものをあるように見せるのは難しいことなんだな」
誠の言葉から、誠に「感情がない」と言うことが読み取れた。現代文の読解問題で「この時の心情を答えなさい」なんて書かれても「無」が正しいだろう。
「俺がいくら楽しそうなフリをしても怒ったようなフリをしても結局は紛い物だしな」
「───感情がねぇんじゃ、それこそ主人公以外の問題だろ」
「それで、最後の1つはなんだ?」
「んなの簡単だ。主人公ってのは、負けないから主人公なんだよ。だけど、お前は負ける」
直後、靫蔓が誠の方へ向かって動き始める。靫蔓が持っていた「生徒会」と書かれている被り物は地面に落下してボトリと音を立てた。
誠は、靫蔓の動きを見て、冷静に対処し───
───たが、いとも簡単に捕らえられる。
「───ッ!」
「お前を殺したら俺が殺される。だから、3分の4殺しで我慢してやんよ」
「それじゃ、俺は死んでるじゃねぇか」
誠がそう言った直後に、頭から地面に叩きつけられる。刃物などの凶器を持たずにただ地面に叩きつけるだけの攻撃。ただ、その1発で誠は立ち上がることはなかった。
「マス美先生、すみませんね。怪我人を増やしてしまって。殺せば治療しなくてすみますが...どうします?」
「あら、殺したら殺されるんじゃなかったのかしら?」
「なら、GM権限で怪我する前に戻してもらいますか?」
「まぁ、どっちもでいいわ。この程度の怪我ならすぐに治るでしょうし」
「そうか、なら心配ご無用だな」
「それと、栄なら保健室にいるわよ」
「おいおい、自慢の生徒の場所おしえちゃってよかったのか?」
「えぇ、もちろん」
靫蔓は、地面に落ちた被り物を拾って土を払う。そして、今は被らないのか腰に携えた。
「んじゃ、保健室にお邪魔するとするかな」
そして、靫蔓がグラウンドからB棟に入ろうとする時。失神して立ち上がらない誠の方を向いて、こう言い足した。
「お前が主人公じゃない理由、もう一つ追加な」
靫蔓は、嘲るような表情をしてこう言い捨てた。
「───5つ目。お前はデスゲームの途中で死亡するから主人公じゃねぇ。もし仮に主人公だったとしても、打ち切りエンドだぜ」