4月27日 その④
「───え?」
森愛香の「妾がマスコット先生を殺すのを手伝ってくれ」という提案。俺は、思わず驚いてしまった。
「それって...」
「智恵、貴様は黙っていろ」
「ひ」
智恵が、何かを聞こうとしたが森愛香に睨まれて、竦んでしまう。
「待ってくれ。俺は今、怪我をしていて動けないんだぞ?それなのに殺す手伝いって...」
「栄、お前はわかっているはずだ」
「俺は...」
「まず、第2ゲーム『スクールダウト』の栄の選択肢を思い出せ」
第2ゲーム『スクールダウト』の選択肢は以下の5つだった。
1.小寺真由美を殺した。
2.村田智恵に恋している。
3.生徒会に所属している。
4.親はデスゲームの運営に関係している。
5.細田歌穂と付き合っている。
「妾はこう考えた。貴様の親はデスゲームの運営に関係している───ってのが正しいだろ?」
「───」
俺は、思わず黙ってしまう。俺と、同じ推理をしたのだ。
「まず、妾は現場を見ていたのだから1の小寺真由美を殺したというのは嘘だとわかっている。それに、2の村田智恵に恋しているは、ゲームの中で真実と判明していた」
実際、今も付き合っているし嘘であるわけがなかった。
「また、それと同じ理由で5は嘘だとわかる。3と4のどちらかが真実なのは、妾にとっては明白なのだ」
「───そう...だな...」
「そして、妾は栄のことを生徒会だとは思っていないから残る選択肢は4の親はデスゲームの運営に関係しているというものだけだ」
「俺も、それは断定できない...」
「妾も断定できていない。だが、妾の手元に残された真実かもしれない選択肢の1と2はどちらも両親に関連するのだ」
1.両親は仕事をする上で、政治家に根回ししている。
2.親はデスゲームの運営に関係している。
3.デスゲームに参加する以前に人を殺したことがある。
4.暗所恐怖症だ。
5.平塚ここあを殺した。
森愛香の情報は、この5つだ。そして、4が真実であることがわかっている。
俺にとっては、これ以上追求することができなかったが、森愛香は正解を知っているのだ。
───そして、本人曰く1か2のどちらかが真実らしいのだ。
と、言うことはデスゲームに参加する以前に人を殺したことも、平塚ここあを殺したことも無いということだ。
「それで、マスコット先生に聞くってのはわかる。だが、どうして殺すんだ?」
俺は、そこを疑問に思っていた。親かどうか判明させるには話をするだけで問題ない。どうして、殺す必要がある。
「栄は、マスコットが本当のことを話すと思っているのか?そう思っているのなら、栄の頭はめでたいな」
森愛香に、そんなことを言われてしまう。
「そして、お前は4月7日のマスコットとの対談の内容を忘れたのか?」
4月7日のマスコット先生との対談───
「デスゲーム、今回が初めてじゃないだろ?」の返答に「5回目」と。
「今回のデスゲームに、前のデスゲームの生き残りの子供が参加しているか?」の返答に「はい」と。
「その生き残りは俺か?」の返答に「違う」と。
「その情報を加味して、もう一度『スクールダウト』の親はデスゲームの運営に関係しているという内容を考えてみろ」
「それは───」
そこから求めだされる結論。流石に、俺でも気付いた。そう、それは───
「「───親は、デスゲームに参加せずにデスゲームに関わっている。すなわち、最初からデスゲームの運営側だった」」
「嘘...」
智恵は俺らの言葉を聞いて気付いたようだ。
「そのまさかだ。最初のデスゲームがいつ行われたかわからないが、その可能性は高いだろう」
「そうだな...俺の父さんと母さんは何を...」
まだ、謎に包まれていた。だけど、辿り着いた結論は正しい可能性は大きい。
「栄だからこそできるお願いだ。受け入れてくれるか?」
「もちろんだ。殺す殺さないはともかく、両親に会いたい」
「───それとだ、もう一つ問題はある」
「何だ?」
「それはだな───」
「急患だ!急患だ!梨花ちゃんがまた刺されちゃってる!」
そんな声が、保健室に響く。その声の主は、綿野沙紀であった。声の主がわかったのは、区切りからチラリとその姿が見えていたからだ。
「騒がしいな、ガキが...」
森愛香が、舌打ちを挟む。
───だが、俺には重大な内容だった。
俺が思い出されるのは、誠の作戦だった。マスコット先生の殺しを手伝うのも、全ては秋元梨花と佐倉美沙の仲直りをさせるのが目的だった。
───それなのに、刺されたと言うのなら。
「また、刺されただと?」
裏で、まだ生徒会が暗躍しているということだ。殺していないが、場を混乱させている。
───否。この状況では、殺すことよりも生かしておくほうが問題は大きく膨らんでいく。
もしかしたら、誠が作ろうとしていた仲直りの場までも壊されてしまったのかもしれない。
すると───
「それでだ、話を戻すぞ、栄」
俺は、森愛香の言葉で現実に引き戻される。森愛香には、秋元梨花のことなんて関係ないのだろう。
「もうひとつの問題───というよりかは、仮説。それはだな」
森愛香が、表情一つ変えずこう述べた。それは、十分に可能性があった問題あり、仮説であった。
「───多分、昔デスゲームに参加していた人物の子孫って、妾のことだ」