4月27日 その③
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池本栄───俺の元に、誠がやってきたのは、4月27日の放課後であった。
俺が、第3ゲーム『パートナーガター』の時にできた腹の傷の治療するためにベッドで休んでいる時であった。隣には智恵がいた。
「池本、俺に手伝ってくれ」
「───何をだ?」
「今、このクラスで蠢いている問題の解決することをだ」
「わかった。いいけど...今、俺は見ても分かる通りこんな状況だ。どうすればいいの?それに、蠢いてる問題って?」
「村田、少し席を外してくれないか?」
「あ、うん。わかった」
誠に言われて、智恵は素直に従う。智恵は、保健室の外に出ていった。
「それじゃ、まず今クラスで起こっている問題を説明する」
───そして、俺は誠から大体のことを聞いた。
美沙が拓人と性行為をしたこと。拓人のことが好きな梨花がそれを知ってしまったこと。
そして、大喧嘩が起こったこと。
───そして、美沙が慰み者にされたこと。
「智恵のことを気遣って、退出させたんだな。ありがとう」
「まぁ、俺にできる心遣いはこの程度だけどな」
智恵は、第2ゲーム『スクールダウト』で何らかの性暴力を受けていたことを示唆されていた。
それを誠も知っていたので、外に出したのだ。
「───それで、俺は何をしたらいいんだ?」
「いや、栄には特段大きな仕事をしてくもらおうとは思っていない。ただ、佐倉をチームHの班で寝泊まりできるようにお願いしてやって欲しい。できるか?」
「うん、愛香にでもお願いするよ」
森愛香を、愛香と呼ぶとどことなく違和感がある。でも、森って呼ぶのも違うんだよね。なんだか、森愛香って本名で呼ぶのが一番しっくり来るのかもしれない。
「まぁ、愛香が無理でも歌穂ならお願い聞いてくれる可能性が高いし」
なんだかんだ言って、俺の仲間は多いように思えていた。
「それじゃ、俺は森を呼んでくるから待っていてくれ」
「あー、うん。わかった。お願いできる?」
「任せろ」
そう言うと、保健室から誠は出ていった。それと入れ替わりで、智恵が戻ってきた。誠が、声を掛けてくれたのだろう。
「お話は終わったの?」
「うん。ごめんな、仲間はずれにしちゃって」
「ううん、大丈夫。何の話をしていたかは気になるけどね」
智恵は、そう言うと小さく笑った。
「別に話してもいいけど、智恵が辛くなりそうだから」
「そっか、なら聞かないでおくよ」
智恵は、微笑む。どこか遠くを見ているようだった。
───そして、十数分が経つ。すると───
「妾を呼び寄せるなど、図が高いぞ栄!」
そう言って、大声で保健室に入ってきたのは森愛香であった。うん、やっぱり森愛香がしっくりくる。
「智恵、どけ。そこは妾の席だ」
「は、はい」
智恵が、立ち上がって森愛香に席を譲る。智恵は、少し迷った結果、僕の寝ているベッドに腰を掛けた。
「それでだ。栄、用とは何だ?嫌々来てやった位で並々ならぬ感謝をしてほしいのだが、今回は特別に願いを聞くだけ聞いてやろう」
「叶えてくれるって訳じゃないんだな...」
「もちろんだ。ランプの魔人じゃあるまいし、呼び出されておいそれと願いを叶える訳では無い」
「ランプの魔人は封印を解いたとか、そんな設定で願いを叶えてくれるんじゃなかったけか?」
「さぁな。妾は童話もディズニーも見ないから知らんわ。生まれてすぐに村上春樹と東野圭吾と乙一だった」
森愛香がそう話す。生まれてすぐに村上春樹の作品を読んでいる森愛香って一体…。
「んで、雑談は終わりにして要件を話せ」
「わかった。美沙を、チームHの空いている部屋に泊めさせてほしい」
「断る」
「んな...」
即答であっさりと断られてしまった。
「どうして、妾がそんなことを頼まれて泊めさせなければならないのだ?栄の想い人は、智恵がいるのだから美沙のことだの気にしなくて大丈夫なはずだろう?」
「そうだけど、クラスメートだから...」
「クラスメートならば、誰だって助けるのか?裕翔でも、助けるのか?」
「それは...」
助ける───そう、断定できなかった。
それどころか、助けるかどうかさえ迷ってしまうところだった。
「───でも、お願いだ。泊めてやってくれ。実は───」
俺は、森愛香に、先程聞いた「慰み者」にされていたという事実を伝えた。
「───そうだったのか。それで、チームIから、チームHに...か」
「そういうことだ」
森愛香は、何かを考えるような表情をする。
「お、お願いだ。何だったら、俺の持ってるコインをあげるから!」
「いや、別に栄にコインを貰わなくたって手元には8万あるから問題ない」
「そうか...」
森愛香は、どうやら願いを聞き入れてくれないようだった。
「───しょうがない。栄、条件がある。栄が、その条件に協力してくれると言うのならば、妾は栄の願いを叶えてやろう」
「───ッ!本当か?」
「あぁ、本当だ。妾に二言はない」
だが、問題はその条件だ。達成できるような条件が提示されればいいのだが、俺は今怪我をしていて保健室の外に出られないような状況だった。
「それでだ。条件ってのは何だ?俺に教えてくれ」
「わかった、条件はだな───」
そして、森愛香の口から零れ出た条件は非常に驚くべきものだった。
「───妾がマスコット先生を殺すのを手伝ってくれ」