4月27日 その②
───誠の行動は、まだまだ続く。
「佐倉だから...ここにいそうだな」
体育館裏。屋外にあるが、体育館が障害物になっており太陽の姿は見えない。
そこに、ポツンと体育座りをしている少女の姿がそこにはあった。
「佐倉」
「───」
その声に、反応して顔をあげるのは誠の想定通り美沙であった。
「───ま...まこ...まこまこ...誠君も...」
美沙が、誠の姿を捕らえるとその顔はドンドン青ざめていく。
まるで、恐怖を覚えるような。植え付けられたトラウマを思い出してしまったかのような。
───第2ゲーム『スクールダウト』の本戦での智恵のような感じになっていた。
「佐倉、話があ───」
誠が、そう言って美沙に近付くと、目に入ったのは美沙の尊厳が破壊された後の姿であった。
もちろん、死んでいるわけじゃない。美沙はまだ生きている。
───否、生かされている。
「い...いや、やめ...やめやめ」
誠の頭の中では、すぐに合点が行った。
───美沙は、この数日で慰み者にされていたのだ。
「───」
誠の知らぬ、裏での行動。誰が、こんなことをしたのだろうか。
───きっと、美沙の行動を聞いて、弱みにつけこんだ人物達であろう。
「まこ...まことこ...まこっ君も...ミサ...ミサに...」
「喋らなくていい。ただ、聞いてくれ」
美沙の目からは、自然と涙がこぼれている。
「安心しろ、佐倉。俺は、お前に酷いことはしない」
「で、で、でも...」
「俺は、佐倉の味方だ。大丈夫」
「───ッ!」
美沙の目が見開かれる。そして、途端に顔がクシャクシャになる。
───男子がいるからと、自分を可愛く見せることを第一に行動していた美沙が、顔をクシャクシャにして───男子がいることを気にせずに泣いている。
これは退化だろうか。進化だろうか。誰にもわからなかった。
「佐倉、俺の話を聞いてくれるか?」
美沙は、顔をクシャクシャにして、涙で顔を汚しながらも必死にうなずく。
「明日、秋元にきちんと謝罪をしよう。もちろん、佐倉がこれまでに何度も秋元に謝罪をして、それが秋元の反感を買っていたのはわかっていたのは承知の上だ。だから、俺がきちんと謝罪をする場を作る。だから、もう一度だけ謝ろう」
「う、うん、わ、わ、わかった...あやま、まりはするよ」
美沙は吃りながらも、そう答える。
「───今、佐倉が一番怖いのは秋元じゃなくて、男だろ?」
美沙は、必死になって頷く。
彼女は、ここ数日で心無い男子の慰み者として利用されていたのだろう。はだけた制服に、投げ捨てられた下着。そして、地に流れ出る精液。
目の前で、残酷な行為が行われいてたのが見て取れる。
首元を見てみると、そこには痣もできており、梨花に殴られた傷なのか、男子から好意の一貫として殴られた時にできた傷なのかはわからないが、それはどちらにせよ美沙が暴力に晒されていることを表現していた。
「俺は男だから、どれだけ辛いかはわかってやれない。まぁ、男じゃなくても俺ならばわかってあげられなかったのかもしれないがな」
誠は、冷酷にもそう言い放つ。だが、それは事実であった。
どう頑張ったって、男が尊厳破壊された女性の心持ちをわかれる訳がないのだ。
心は痛み、同情する気持ちを吐き出すだろうが、それはわかったつもりでいるだけの人物の行うことであった。だが、誠はそんなことをしなかった。その代わり───
「きちんと、佐倉の辛さをわかってくれる人物と仲間になろう。それが秋元だ。呉越同舟───と言うよりは、昨日の敵は今日の友と言えばいいだろうか」
もっとも、今回の場合は「一昨日の友は昨日の敵であり今日の友」という感じなのだが。
「───明日、秋元に謝罪をしてくれるか?佐倉は何もしなくていい。ただ、誠意を持って謝ればいいだけだ」
「わか、わかった...がん、頑張って、み、みる」
美沙は、しどろもどろになりつつもそう答える。
「寮は、池本を経由して森に頼み込んでチームHの寮にしてくれるようにしといてやる。男がいる寮じゃ、辛いだろうからな」
そう言うと、誠は栄のいる保健室へと移動を開始した。
───誠の計画は、今のところ順調に進んでいた。
そう、今のところは順調に進んでいるのだ。今のところは───
同時刻、体育館。
外で行われている美沙と誠の会話を盗み聞きしている人物が一人いた。
「へぇ...大舞台は明日なんだ。なら...」
その人物は、頭の中で計画を立てる。そして、ニヤリと笑った。
「ここはあえて、謝罪をするところまでは僕たち生徒会は大人しく傍観しているとしよう」
そしてその人物は、他の生徒会メンバーに連絡を入れようとする。が───
「えぇ?あの野郎、もう秋元梨花に手を出したの?僕が今回の総司令なのに、勝手に行動されちゃ困るなぁ...」
そう言って、その人物はため息をつく。
「まぁ、いっか。これで、ギスギスは蔓延していくだろうし。いやぁ、大変だね。生かされているっていうのは」
その少年が受けた連絡。それは───
───秋元梨花を図書室で再度刺したというものだった。
何も考えず殺すよりも、色々考えて生かした方が、結果的に都合が良いことが多いです。
まぁ、考えているから当然ですよね。