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4月27日 その①

 

 ***


 4月27日の午後3時。


『3-Α』に属する一人の少年───西村誠は考えていた。


 今、『3-Α』を覆っている問題を解決させなくていいのか、を。


 今現在、『3-Α』では梨花と美沙の喧嘩───いや、喧嘩は間違っているだろうか。梨花が美沙に対する一方的な攻撃───端的に言い表せば、いじめが行われていた。


 誠は、梨花のことを知っているし、共に「真の鬼」から逃げた人物であるから、梨花を擁護するという選択を取っている。

 だが、毎日毎日罵倒を浴びせ、暴力で訴えている梨花を見て疑問を持ってしまったのだ。


 ───それは、正しいことなのか。


 西村は、情など関係なくただ考えた。そして、結論を出した。


 ───秋元梨花は、やり過ぎだ、と。


 結論を出した後、西村誠はすぐに行動に移した。学校に、まだいる梨花を探し出して声をかけに言ったのだ。

 梨花は、図書室にいた。


「なぁ、梨花」

「あ、誠君。どうしたの?」

 梨花は、美沙がいない場では落ち着けるようになっていた。


 精神の安寧が保たれているのだ。

「俺の話に、少しだけ耳を傾けてくれないか?」

「う、うん。いいけど...」

「では、こっちに」

 そう言うと、誠と梨花は図書室を出た。


「それで...話って?」

「俺が、上手く口裏を合わせるから美沙と仲直りしてくれ。今の秋元は、見るに堪えない」

「───は?」

 梨花が、わかりやすくキレたような表情で誠のことを見る。


「それって、どういう...」

「そのまんまだ。今の秋元は見るに堪えない。もう、赦してしまえば場は丸く収まる時期だ」

「───はぁ?誠にはわかんないの?アタシは、美沙に拓人君を取られたの!寝取られたんだよ!」

「元から、秋元のものではないだろう」


「───ッ!」

 正論。機械的な正論であった。そこには、優しさも───いや、喜怒哀楽の全てが含まれていない全くの正論であった。


「別に、取られるも何も秋元のものではなかったはずだ。恋人というものは、速いもの勝ちだ。だから、秋元はその戦いに遅れを取っただけってことだ。それに、佐倉だって柏木とは付き合っていない。ならば、そろそろ赦すべきだとは思わないか?」

「───でも、でも...」


「別に俺は、謝れとは言ってない。口裏を合わせるから、赦せと言っているんだ」

「でも、鬼かもしれないんだよ?美沙は!」

「鬼じゃないかもしれないぞ?佐倉は」


「───もう!ああ言えばこう言うのやめてよね!」

「阿吽の呼吸で呼応の副詞。目には目を歯には歯を煽り文句には煽り文句にを」

「───ッチ!もう、何を言われたって、美沙を赦す気は無いんだから!」


「───そうか、なら柏木とは一生付き合えないだろうな」

「───ッ!」

 梨花が、怒って図書室に戻ろうとした時に、吐き捨てるように───否、そこには一切の感情が感じられないので吐き捨てるも何もなく、淡々と述べた。


「人のことをいじめる女とは、誰だって付き合いたくない。社会的体裁としても、自分の心持ちとしても」

「───そうだけど...」

 誠の言葉に、梨花は少し考え込んでしまう。


 誠が放つ言葉は、正論だけなのだ。そこには、感情が含まれていない論理的な正論だったのだ。


「───で、どうする?秋元に非は無いはずだし、欠点もないはずだ」

「でも...」

「プライドが赦すことを許さないというのか?」

「───」


 梨花は、心を読んだのかと驚くような顔をして誠の方を見る。

「秋元の好きにすればいい。ただ、俺の意見としては今すぐにでも仲直りしてほしい───そう思っている」

「仲直りしたとして...きっとアタシは美沙のことを好きになれないとは思うし、美沙だってアタシのことを好きだとは思えないと思う...」

「仲直りする前提で話すことを始めたな。なら、仲直りしてしまおう」

「───あ!嵌めたな?」

「常套手段だ」


 そう言うと、誠は口角を上げる。

「それじゃ、こっちも上手く行動する。誘導するから、仲直りしてくれるか?」

「───しょうがないわね、アタシは別に誠のお願いを叶えるために仲直りするわけでも、美沙を思って仲直りするわけでもないんだから。ただ、アタシは拓人君と付き合うためにするんだから!」

「───そうか。なら、そういう事にしといてやるよ」

「え、なんか言った?」

「なんでもない。良いやつだな、秋元は」


「───別に、そこまで良い奴ではないわよ。本当に良い奴なら、友達をいじめたりはしないわ」


 ───どうやら、梨花も美沙との争いの終着点を見失っていたようだった。


 怒りは収まれども、美沙を責めることを続けるのは梨花にも酷だったのかもしれない。


 梨花と拓人を、そして梨花と美沙を繋げる橋に、誠はなれるのだろうか。


「───んじゃ、明日行おうと思っているから。いいな?」

「えぇ、いいわよ。美沙を説得してちょうだいね」

「任せろ」


 誠はそう言うと、次は美沙のところに行こうとどこかに歩んでいった。


「───全く、なんだかんだ言って誠君も人がいいんだから」

 そう言うと、梨花は息を吐く。そして───


「アタシが、拓人君の事が好きじゃなかったら、誠君のことを好きになっていたかもしれないわね」

 梨花はそんなことを呟いて、微笑むと図書室へと戻っていった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 誠はなかなか冷静なキャラですね。 梨花は何というか嫌な面を見すぎた。 そしてさりげなく誠にもアピール。 梨花も梨花でアレですね。 でも物語的には面白くなてきました!
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