4月26日 その③
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目まぐるしく、状況が変わっていくデスゲーム会場である帝国大学附属高校。
それは、栄が怪我で保健室にいた時も変わりなかった。
川が絶えず流れ続けるように、昼と夜が繰り返されるように、帝国大学附属高校は日々変化をしていた。
大体は、その根幹に栄がいたのだが、今回は栄は関与していない。
故に、3人称視点でお伝えしようと思っている。
まず、今回起こった出来事の概要をまとめることとしよう。
今回起こった出来事の中心人物は、3人の人物だ。
一人は、出席番号1番である茶髪でツインテールの少女───秋元梨花だ。
彼女は、柏木拓人という今回の中心人物でもある男子生徒に恋している。だが、数日前にデスゲーム会場で一番仲が良く、自分が拓人に恋していることを知っているはずの最後の中心人物である佐倉美沙が、拓人君と性行為に及んでいたことを知ってしまう。
その後、秋元梨花は美沙から逃げ出すが、逃げた先の体育館にて「真の鬼」を名乗る生徒会のメンバーと出会ってしまう。「生徒会」と書かれた被り物をしていたため、顔は見えなかった。
秋元梨花は、逃げようと画策するも失敗。「真の鬼」を名乗る生徒会の一人に背中を刺されてしまう。だが、失神する直前に被り物をした、梨花を刺した人物の声が美沙と全く同じものであったことに気付く。
彼女は拓人の手で保健室に運ばれて、数時間目を覚ます。
そこで、数言交わすと、美沙が保健室にやってきて、口論に。
気まずくなった拓人は、その場からいなくなり、それを発端として梨花と美沙の取っ組み合いの喧嘩───否、梨花が美沙に一方的に暴力を振るった。
マス美先生の手助けもあって、美沙は梨花から逃げることに成功するも、教室に戻ったら拓人が、「美沙は鬼だ」と言う噂を立てられて、教室で縛られることとなった。
───これが、4月23日までの事件であった。
4月26日になった今、現状維持で滞っているわけがない。この問題は、悪化していた。
まず、23日は金曜日・26日は月曜日なので、間には土日が存在していた。
その土日の間で、秋元梨花が保健室で行われている治療から解放された。
背中の刺し傷がある程度治ったのだ。そして、教室に戻ってくると、第一に美沙を罵倒した。
悪口を言い、誹謗中傷をし、悪態をつき、罵詈雑言を吐き出し、悪口雑言を放ち、憎まれ口を叩き、謗言を並べ、批難を行い、批判を続けた。
それは、この世の暴言を全て集めたかのような酷いものだった。その際、クラスに居合わせた歌穂は、それほどまでの悪口がよくもまぁ、ポンポンと出てくるなぁと、感心してしまったほどだ。
だが、美沙は投げかけられる言葉に言い返したりせず、全て受け止めた。それが、自分の贖罪と言うかのばかりに。罪滅ぼしと言うばかりに。
───故に、クラスは2分された。
梨花擁護派と、美沙擁護派であった。他に、中立派もあったが彼ら彼女らは関与してこないので、数えなくてもいいだろう。
だが、美沙擁護派はかなり少なかった。それもそのはず、今クラスの中では美沙が生徒会かもしれないという疑いがあったからだ。
美沙擁護派についた者たちは、美沙を疑いつつも、それが未だ「疑い」の余地を出ないことを理由にしたようだった。後、梨花の放つ罵詈雑言が聞くに耐えないようなものであったのも加味されるだろう。
───そして、拓人が美沙と性行為を行っていたことも発覚した。
問題が起これば、その発端が掘り下げられるのは当たり前のことだった。掘り下げると、梨花や美沙が答えるよりも先に、拓人が自白した。
拓人自身、梨花が自分に惚れていたが、美沙と行為に及んでしまったことで美沙に怒っていることに気付いていただろう。
拓人は、モテ男だったために気付いたのだ。梨花が、自分に恋をしていることに。
そう、拓人は自他共認めるイケメンであった。老若男女が皆、拓人のことを見たら異口同音にこう言うだろう。
「イケメンだ」と。
それこそ、結婚できずに一生を過ごすであろう40代半ばの未婚のハゲでさえも、拓人を見たら悔しながらに「イケメンだ」と答えるだろう。
それほどまでのイケメン。それほどまでの容姿端麗な人物であった。
───拓人が、行為に及んだのを自白したら、それに影響されたかのように、康太も美沙と行為に及んだことを自白した。
他にも、雷人も行為を行っていたが、その時はまだ保健室で治療を受けていたために、本人から自白する術はなかったのだが、美沙が行ってことで周知の事実となった。
そのことで、美沙は「ビッチ」だなどと、男子からも悪口を投げかけられることとなった。
これは、童貞の恨みだろうか。筆おろししてもらえばいいのに、とも思うところがあったが、そんな勇気が無いのだ。だって、童貞だもの。
───そんな、汚い話はやめておこう。
一先ず、今の状況は梨花と拓人と美沙の関係が赤裸々に明かされ、それにより梨花と美沙の関係がより悪化したことであった。
美沙は、チームAの寮に入れてもらえていないらしい。拓人と美沙が接触をしてしまうと、梨花がまた暴走してしまう可能性があったため、美沙はチームIの寮で寝泊まりさせてもらっていた。
4月3日に死亡が判明した平塚ここあの部屋は、片付いていて自由に出入りができる状態であったため、そこを仮部屋とすることにしていたのであった。
きっと、行為に及んだ雷人はかなり気まずかっただろうが、そこは我慢するしか無いだろう。
───男女が絡み合う問題は解決するのが難しいのだが、今回の場合はどうだろうか。