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閑話 秋元梨花の過去

 

 秋元梨花───アタシは、小学校の間いじめられていた。


 ───なーんて、唐突にそう述べても信じてもらえないのかもしれない。


 だって、実際いじめられていた頃のアタシと今のアタシでは、表面的な性格は違うのだから。


 いや、もちろん過去のアタシも今のアタシもどちらも同じアタシ───もちろん、テセウスの船のような感じで細胞などは過去の自分と変わっているのだけれど、根底にある部分は同じであった。


 ───と言うことで、信じてもらえないのかもしれないが少しアタシの小学校の話をしようと思う。


 今から、6年以上前のことだった。アタシがいじめられるようになったのは、小学5年生の頃からであった。

 それこそ、小学5年生と言うのは心身が()()()()発達してきているので、いじめという概念が生まれてくる───正確にものを語るとするならば、いじめと呼ぶに相応しいほどの差別がされるようになる時期であった。


 それ以前にも、要する「いじめ」と言うものは行われることがあるのだが、それは相手が明確に悪気というものはなく───と言ったものだった。


 要するに、故意で行ういじめと言うものは5年生辺りから始まるのだ。

 もっとも、この意見はアタシの全くの持論で、科学的根拠はないのだけれど。


 ───と、少し話がズレてしまったような気がする。


 アタシは、小学5年生の頃からいじめられるようになった。理由は「ぶりっ子」みたいだから。


 これは明確な「差別」であり、「故意でやっていない」だなんて言える内容ではなかった。


 アタシをいじめてきていたのは、数人の男子たち。


 最初は、悪口から始まった。

「梨花ちゃんって、ぶりっ子じゃね?」

 そんな、1つの悪口。


 だが、その悪口は小学校人生を変えることとなった。


 男子の中で、私は「ぶりっ子」と言うレッテルを貼られた。


 別に動作がぶりっ子なわけでも、走り方がぶりっ子なわけでもない。アタシは、ただ平然と、他の子と同じようにしていただけなのに。


 アタシは、そして「ぶりっ子」だといじられるようになった。


 しかも、害悪なのは「ぶりっ子だ」と囃し立てるだけで、何か物を隠したりしてこないことであった。

 その時点で、先生に訴えればよかったのだが、アタシは報復を恐れてそんなことはできなかった。


 誰にも助け舟を出さなかったアタシは、ある日壊れてしまう。


 ───そう、アタシは男子が怖くなったのだ。


 いじめの主犯格と、その友達がこそこそ話をしている。もしかしたら、アタシの悪口を言っているのではないか。

 いじめの主犯格と、その友達が何かを話して笑っている。もしかしたら、アタシのことで笑っているのではないか。

 いじめの主犯格と、その友達がスマホを見て笑っている。もしかしたら、アタシのことを盗撮して遊んでいるのではないか。


 ───怖い。怖い。怖い。


 自意識過剰なのかもしれない。被害妄想なのかもしれない。



 ───だが、自意識過剰でも被害妄想でもないのかもしれない。


 アタシは、怖くなった。そして、1年以上耐えて耐えて耐えて、小学6年生の冬。ついに耐えきれなくなった。泣いた。教室の真ん中で、泣いた。すると───



「おい、大丈夫か?なんで、泣いてるんだよ!どこか痛いのか?具合が悪いのか?」

 心配そうな声で、アタシに近付いてきたのはいじめの主犯格であった。



 ───そうか、わからないのか。


 いじめている側からすると、アタシの辛さはわからないのか。


 お前のことで、毎日アタシは恐怖しながら生きていたのに、お前にはわからないのか。


 不平等だった。不条理だった。


 アタシは、最初からこれは「故意」でやっていると思っていた。


 だが、全く違かった。本人たちは「故意」だろうけれど、それは「いじめ」としての故意なのではなく、「遊び」としての故意なのであった。


 あくまで、笑い話として。あくまで、場を持たせるためとして。


 アタシは、男を信用できなくなった。


 男という単純で単調な生物を信用できなくなった。信用したくもなかった。


 ───そして、ここで問題なのは、アタシが誰にも相談しなかったことだ。


 先生はおろか、女友だちの一人にも、アタシはこのことについて相談しなかった。

 だから、アタシは傍から見ると唐突に泣き出した「ヤバい奴」なのであった。


 泣いた後は、先生と話す時間が設けられた。


 アタシはその時に、先生にいじめられていることを話した。先生は、怪訝な顔をしつつも、アタシをいじめた生徒をしっかりと叱ってくれた。


 その後は、一応いじめられる───みたいなことはなくなった。

 いじめの主犯格達は、あくまで遊び感覚であったのだから当然だろう。


 だが、アタシの人生はそこで大きく変わり男性恐怖症となっていった。

 もちろん、中学校でもこのデスゲームに参加する前の高校でも、恋に落ちるなんてこともなかった。


 そう、だからこそアタシにとって柏木拓人は大切で重要な人物だったのだ。


 それなのに、美沙は。美沙は───



 ───いや、美沙ばかりに怒りをぶつけるのはよくないだろうか。



 だって、拓人君は、アタシと美沙が言い合っている時に、我先にと逃げていったのだから。


 拓人君も、男だったのだ。そう、男なのだ。


 アタシをいじめたような奴と同じであったのだ。アタシが恐怖を抱く対象に等しかったのだ。



 ───なのに、どうしてだろう。アタシは、一向に拓人君を恨むような感情は心の中に現れない。


 アタシと美沙のどちらの味方もせず、逃げ出した拓人君に怒りは感じていなかったのだ。

 美沙との違いはなんだろうか。


 アタシには、わからなかった。この胸の奥底から締め付けあげられるような───だけど、いじめられている時とは違う苦しみが何か、わからなかった。









 ───だって、アタシは「恋」をもっと甘酸っぱくて優しいものだと信じていたのだから。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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