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4月23日 その⑱

 

 ***


 混濁。


 混沌。


 混迷。


 混雑。


 池本栄───俺の脳内では、色々な感情が複雑に混ざり合っていた。


 ゴチャゴチャした感情が、津波のように押し寄せてくる俺の心の中。その感情の正体は全部、「捕虜救出隊」の───いや、第3ゲーム『パートナーガター』のことであった。


 このゲームの名前はパートナーガター。和訳するなら「仲間との溝」だろう。


 ───いや「協力者との溝」かもしれない。


 きっと、このゲームを作った田口真紀は「パートナー」との()で溝ができる為に『パートナーガター』と名付けたのだろう。


 ───だが、マスコット先生は違った解釈をした。


 パートナーガターの意味は「協力者との溝」であり、その「協力者」は廣井兄弟のことを表しているのだろうと解釈をしたのだろう。


 しかも、2人の溝を深くするのではない。2人の溝を埋めるためのゲームだったのだ。


 ───きっと、この真意に気付いたのはマスコット先生と俺くらいだろう。


 その自信はあった。マスコット先生と思考回路が同じ───と、言われてしまうと少し嫌な気持ちになるけれど。


 実際、逃げ側でパートナーとの間で溝ができることはなかったし、それどころかお互いがお互いを尊重しあっていた。


『パートナーガター』の主役は俺たち「逃げ」ではなく、鬼であった廣井兄弟2人のことだと知った。



 ───俺は、まだ知らなかった。パートナーガターで溝はできず、パートナーガター以外で友人との深い深い溝ができる事件が起こっていたことを。


 ***


 廣井兄弟に見事勝利し全員「牢屋」から脱出することに成功した。


 智恵は、美緒と協力して無数のナイフに体を蝕まれている梨央を「牢屋」の外から出した。彼女の傷は、死こそしていないが、全てが致命傷───言ってしまえば、後もう一つ何らかの要因があって体が損傷していれば死んでいたのだ。


 一先ず、ナイフを抜かずに失血死をすることは避けた。無数にさされているために、ナイフを全て抜き取ると、血が多量に流れ出て言ってしまう。幸いにも、梨央は失神していて「痛い」と喚き叫ぶことはなかった。


 そして、もう一人の問題は栄であった。


 腹に刺さっていたナイフを、自分から引き抜いた。体からドンドン血が失われていく栄は、廣井大和(ひろいひろかず)に勝利すると同時に、そこで失神してしまったのだ。


 失神して尚、血が流れ続ける栄の腹。稜が養護教諭を呼びに行ったのであった。


 ───その養護教諭は、マスコット先生と同じ被り物をしている。故に、学校の保健室にいるマス美先生やらとは、全くの別人だ。


 稜に連れられて、「捕虜救出隊」の皆がいる森林ゾーンにまでやってきた養護教諭は、栄と梨央に応急処置を施した。


 ───否、栄と梨央だけではない。今回の戦いで、負傷を負った全員だ。


 骨が砕かれた鈴華にも、地面にぶつかりへしゃげるようになった雷人も、顔面パンチでダウンした奏汰も、頭を蹴られて脳震盪を起こした真胡も、全員処置を施された。


 縛った臨時教師2人は、そのまま放置された。包帯でぐるぐる巻きにして、動けなくさせる───という案を、紬があげたが拒否されていた。


 ───戦闘があったが、今回のデスゲームは敵味方ともに死者がでなかった。


 無血───とまではいかなくても、無死者で決着が付いたのは非常に喜ばしい話であった。


 ───そう、思っていたら。




 デスゲーム終了5分前に、デスゲーム会場で2発の銃声音が響いた。


 ───方向は、廣井兄弟を縛って放置しておいた「牢屋」の近くで。


 その異常を察知して、動こうとしたのは紬と美玲であった。だが、すぐに稜に止められる。


「もしかしたら、これは罠かもしれない。臨時教師が俺らを捕まえるための最後の悪あがきかも」

 稜は、冷静にそう述べた。銃声がすれば、皆気になって見に行くだろう。


 ───そこを捕まえる。


 そんな作戦だったのかもしれない。ゲームの終わりの5分前。相手が、自分を救ってくれるかわからない。

 最後の最後でそんなデスゲーム的な何かが起こるのかもしれなかった。


 ───だが、現実は違う。


 この銃声音で撃たれたのは、廣井兄弟であったのだ。


 2人の必要性が感じられなくなったマスコット先生が、廣井兄弟を殺したのだ。


 生徒会として、忠実に働いた廣井大和(ひろいやまと)と、GMが生き返らせた廣井大和(ひろいひろかず)を。


 だが、そんなことはつゆ知らず。稜達は、残り5分を耐えきって、デスゲームをクリアした。


 そして───


 秋元梨花・安倍健吾・岩田時尚・宇佐美蒼・柏木拓人・佐倉美沙・園田茉裕・田口真紀・橘川陽斗・津田信夫・中村康太・西村誠・西森純介・橋本遥・細田歌穂・睦月奈緒・森愛香・森宮皇斗・山本慶太・渡邊裕翔・綿野沙紀の21名に、5万コインずつ配布された。


 全員、チームで捕まった数が0回だったのだ。


 園田茉裕は竹原美玲とペアであったが、竹原美玲が捕まったのは、ペアが変わった最終日であったので園田茉裕のみ捕まった数が「0回」とカウントされることとなった。



 ───こうして、第3ゲーム『パートナーガター』は終了したのであった。



 残った課題は、栄達の怪我と、梨花と美沙の喧嘩であろう。



 ***


 次元の壁を超えた場所で4人のアラサーが集まっていた。


 そこに走ってやってきたのは、金髪の女性───松阪真凛(まつさかまりん)であった。

「先輩方!聞いてください!廣井大和(ひろいやまと)が死にました!」


「へぇ、じゃあ俺は第3回デスゲーム唯一の男の生き残りってなっちまったってことか?ハーレム犯罪!ハーレム犯罪!断罪せよ!」


 ───そして、自分の股間にどこからともなく取り出した刃物を突き刺したのは第3回デスゲーム参加者であり、生徒会として生き残った、廣井大和(ひろいやまと)を除いて唯一の男である人物───鬼龍院(きりゅういん)靫蔓(うつぼかずら)であった。


 周りにいる女子3人は、それが日常茶飯事だと言うように何の反応も示さなかった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 何とか勝ちましたが、満身創痍ですね。 と思ったら次なる敵が!! 次の敵も強敵っぽいですね!
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