4月23日 その⑰
廣井大和の過去回想です。兄貴の方。
***
今から27年前。この世に、双子の赤ちゃんが生まれた。
それが、廣井大和───私と廣井大和であった。
漢字で名前を書くと、同姓同名となる双子。いや、同じ親から生まれたのだから同じ姓になるのは当たり前であろう。
だが、両親は俺達に同じ漢字の名前をつけた。と、言うのもとある経緯を経て、この名前にしたらしいのだ。
母親伝えに聞いた話によると、こうだ。
「双子が生まれるらしいから、お父さんとお母さんで1人ずつ名前を決めることにしたの。そしたら、お父さんとお母さんの2人が同じ漢字にしちゃったから、読み仮名を変えたってこと!」
話だけ聞くには、相思相愛のおしどり夫婦だと思うかもしれないが、名前が同じなのは正直言って迷惑であった。
名前を呼ぶ時には一切の問題は生じない。だが、問題は名前を書くときであった。
病院に行っても、学校に行っても、どこに行っても名前を勘違いされるのだ。
もし仮に、たまたま漢字が完全一致した、別の顔───だとかならば、問題はなかっただろう。
だが、私達は双子であった。故に、顔も瓜二つのそっくりさんであったのだ。
だから、私達は判断をつけるのが難しかったのだ。それこそ、テストでは名前を漢字で書かず平仮名で書いていたし、それを特例で許された。教師陣だって、把握をつけられなかったからだ。
それに、私達は2人共成績が上の上であった。成績上位者リストでは、それこそ同じ人物が、ミスって二度載せられているような感じになっていた。もちろんこのように名前の上にルビが振ってあって勘違いしないように対策されていたのだが。
───そして、俺達は「天才」に選ばれて「帝国大学附属高校」へ進学する権利が与えられた。
今も昔も、この学校の名前は変わっていない。今、5回目のデスゲームが行われているのも、この「帝国大学附属高校」である。
故に、栄や鈴華・真胡に梨央などは私達の後輩になるのだろう。もっとも、生徒会として、悪い例として取り上げられているような気がするし、臨時教師として働かされたから、きっと先輩と後輩という関係より先生と生徒という関係と捉えられているだろうけれど。
───少し、話がズレてしまったので戻すとしよう。私と弟は、「帝国大学附属高校」に入学した。
そして、弟と話し合った結果、私だけが生徒会に所属することになった。
無論、弟は私のことを利用しているつもりだったのだろう。だから、俺も利用させてもらった。
言ってしまえば、協力体制であった。
生徒会の情報を横流しにするから、生徒の中での内部事情を教えてくれ。
そう言った協力体制だったのだ。
───だが、私は弟のことを裏切って、私と同じく生徒会メンバーである九条撫子に弟を殺させたのであった。
私自身で殺さなかったのは、情が写ってしまうことを危惧したからであった。その点、九条撫子は私の弟のことを毛嫌いしていたので、問題はなかった。
───だが、俺は後悔することとなった。
私にとって、弟は大きな存在であったのだ。常時、2人で行動していた私は共に行動する人物を失い、酷い悲しみに暮れた。
同じデスゲーム参加者ではあるが、それ以前に私と弟はれっきとした家族だったのだ。
同じ家で育ち、同じ釜の飯を食い、同じところで寝ていたのだ。悲しくない訳がない。
私は弟が死んだ後、ずっと嘆き悲しんでいた。
───「殺せ」と九条撫子に命じたのは私なのに。
───いや、「殺せ」と九条撫子に命じたのが私だからここまで悲しいのだろう。
自分の判断が間違いであることを、知ったのだ。それ故、悲しかったのだ。
───弟の後を追って死のうとしたが、弟がそれを望んでいないのは確かだった。
だから、私はデスゲームを生徒会5人全員で生き延びてデスゲームを終わらせて、帝国大学を卒業後、マスコット先生の───否、GMの元で働き始めるのであった。
そう、私の仲間とも言える生徒会メンバーは私を含めて5人いた。彼ら彼女らを紹介したほうがいいのだろうか。
折角だから、初めて生徒会室に入った時の話でもしておこうか。
私は、弟と裏打ちするため一番遅れて生徒会室に移動した。移動した方法は、自分の個室に入ってマスコット先生に、生徒会室までワープしてもらえるようにお願いするのだ。
───今も、その方法が使われているという。
「はい、皆さん!これで5人全員が揃いました!」
マスコット先生の、軽快な声が生徒会室に聞こえてきた。すると、部屋にいた4人は一言ずつこういった。
「私を待たせるとは...貴様に『傲慢』と『怠惰』と『強欲』の称号をくれてやろう。死ね」
「別に、そこまでキレることは無いだろ。遅刻犯罪!遅刻犯罪!てことで、死ね!」
「妾は愚民には優しいからのう。数瞬遅れた程度では怒らんのじゃ。だが、数秒は駄目だ。死ね」
「--・-・ --・-」
生徒会室に入った瞬間から、私は罵詈雑言を浴びせられた。情緒のおかしい4人が、そこにはいた。
彼ら彼女らの名前は、発言した順番で言うと九条撫子・鬼龍院靫蔓・柊紫陽花・深海ヶ原牡丹であった。
───彼ら彼女らは、まだマスコット先生のもとで働いている。
どうやら、デスゲーム第3回生徒会メンバーで最初に死ぬのは、どうやら私のようだった。
───そこで、私の意識はハッキリしてきて。
***
夜風に晒され、失神から目を覚ますのは臨時教師───廣井大和であった。
「私は...」
身じろぎしようと試みたが、自らを縛る縄がそれを妨害した。
「殺され...なかったのですね」
廣井大和は、自らと戦った相手、一人一人の顔を頭に思い浮かべた。
「兄貴、目を覚ましたのか」
ふと、後ろから聞き慣れた声がする。廣井大和が体をよじって振り向くと、そこには弟である廣井大和がいた。
廣井大和も廣井大和と同じく縄で縛られていた。
「大和...」
廣井大和は、弟の名前を呟く。自然、涙がこぼれていた。
「謝らせてください、殺させて───いや、殺してしまいすいませんでした」
「別に、怒ってねぇよ。俺だって、殺されてなきゃ兄貴のことを殺してた。そう考えりゃ、おあいこだろうよ」
「───そうですか...いや、そうだな」
廣井大和は、空を見上げる。すると、入り込んだのは見慣れた被り物───マスコット先生であった。
「いやぁ、臨時教師として、鬼として、弟を救うチャンスをあげたのに、救えないだなんて、駄目な兄ですねぇ?」
「マスコット先生───」
”バキュンッ”
響くのは、銃声。
撃たれたのは廣井大和。
「あっ...」
「約束しましたよね?鬼として、誰かを捕まえられたら弟と共に普通の世界で生活させてあげるって。ですが、アナタは鬼として誰かを捕まえるどころか、逃げに捕まっています。なので、弟君は没収です!」
「───ッ!」
怒りに任せて、廣井大和は動いていた。自分を縛っていた縄を引き千切って、マスコット先生に殴りかかっていた。だが───
”スッ”
マスコット先生には、触れられない。まるで、ホログラムのように透き通るのだ。
「───んなっ」
一撃。せめて、一撃でも食らわせられたら。廣井大和はそう思う。
───だが、それは不可能なままで終わる。
「さようなら、廣井大和君。最後まで、兄としていられませんでしたね」
そんな、マスコット先生の声とともに、銃声音が響く。
マスコット先生が消えた後、残ったのは二人の兄弟が凶弾に倒れた無惨な姿であった。
───そして、GMはこう呟く。
「第3ゲーム『パートナーガター』、これにて終幕!」
名前とキャラが濃い生徒会メンバー。