4月23日 その⑩
安土鈴華の一発により、皆の士気があがる。スケバンである彼女は、臆せずに蹴りを入れたのだ。
「これで尚、諦めず蹴りを入れてきますか...面白いですね...次は、あなたの相手をしてあげましょう」
「何言ってんだ?今も昔も変わらず、お前の相手はオレ等であってオレじゃねぇ!ほら、後ろが危ないぜ?」
鈴華の忠告に従うかのように、鬼である臨時教師が振り向くと、そこにいたのは雷人であった。
彼は、今にも臨時教師を蹴りそうな動きをする。
「避け───」
「残念僕じゃない」
「───ッ!」
判断ミス。雷人は、完璧なる囮であった。
”ドゴォォ”
後ろを向いた臨時教師にキレイな右のストレートを決めたのは鈴華であった。彼女は、雷人に攻撃させるフリをしていた臨時教師を騙したのであった。
───今の鈴華のセリフから考えるに、攻撃してくるのは鈴華のみではなく全員であったからだ。
教えるように、振り向かせてそこを殴るだなんて思いもしなかった。そんな真似をするだなんて、臨時教師は思っていなかったのだ。
「これで何発目だ?そして、これから後何発殴れる?」
「これ以降、殴らせませんよ。これから殴れなくなるんですから」
「───ッ!」
鈴華の腕を掴もうとしていた臨時教師の腕を鈴華は後ろに下がることで避ける。
「あなたは、耳を削がれたことはありますか?」
「残念だが、無いな」
「そうですか。では、苦し紛れに食べた人のクソの味は知っていますか?」
「残念だが、それも無いな」
「そうですか。では───」
「だが、体が穿つほど怪我をして、泣く泣く泥だんご食って、右目は潰されてるぜ」
鈴華の胆力の強さの一端は、彼女の周りに渦巻く壮絶な過去があったからだろう。
俺は───いや、俺らは臨時教師のその異常さに体がすくんで動けていないと言うのに。
「───その包帯は厨二病故ではなかったのですか」
「見るか?」
「いえ、大丈夫です。古傷を風に曝すと痛むでしょうし。傷が?いえ、心が」
臨時教師はそう述べる。
「───私も、名乗ろうかと思います。鈴華さん。アナタのその精神力に惚れました。できれば、アナタの腕も欲しいものですね」
「ハッ!オレが英雄?笑わせてくれる!英雄なら、神に捨てられるわけねぇだろ」
そう言って、鈴華は臨時教師に迫り飛び蹴りを食らわせる。
───が、それは右腕で食い止められる。
「───なっ!」
右腕は、皮膚が裂けて筋肉があらわになっている。それなのに、動いている。力が入り動いている。
「何を驚いているのです?ただ、皮膚を裂いただけ。筋繊維も神経も切り離してはおりません。なんら、驚くことはないのです」
鈴華はそのまま地面に着地し、獣のような動きで後ろに下がる。
「名乗ります。私は廣井大和。第3回のデスゲーム生徒会として卒業した人物の一人です」
「───んな...昔の生徒会...」
「あなた方と同じ境遇だったんです。昔の失態は、今のあなた方で回収してくださいね」
そう言って、臨時教師を辺りを見渡す。俺達は、後ろに退いてしまった。
「そうかいそうかい、今も昔も変わらんな」
鈴華は尚も動き続ける。まさに、獣。戦いに貪欲な獣であった。
「やはり、喧嘩は今も昔も楽しい!」
「それは、同感です!」
”ドンッ”
拳と拳がぶつかる音が、これまでに聞いたことが無いような音であった。
”ドンッ”
”ドンドンドンドンドンドンドンドン”
「なんだよ、この音!」
「まるで、打楽器じゃない!」
稜が耳を塞ぎ、竹原美玲がツッコミを入れる。俺らは、まだ何も助けに入ることができていない。
「美緒、今の内だ!」
「わ、わかったわ!」
腹を殴られ、呼吸ができない状況にいた奏汰が、声を振り絞り美緒に梨央を助けるように言う。
そして、美緒は梨央に触れてそのまま逃げ出そうとすると───
「あなただけは、逃さない」
「───ッ!」
”ドォォン”
「───うぐ」
直後、鈴華が弾き飛ばされる。そのまま、鈴華は「牢屋」外に弾き出される。
「───んなっ!」
『パートナーガター』のルール
9.捕まった「逃げ」は、「脱走」できる状態でないのに、「牢屋」の外に出た場合死亡する。
まずい、このままでは鈴華が死んで───
「クッソ、弾きやがってよぉ...」
───いない。
「ちょっと、鈴華!危ないじゃない!馬鹿じゃないの?私が即座にパートナーを脱走させるを選択してなかったら死んでたのよ!」
「わりぃわりぃ!だが、次は負けな───ッ!」
鈴華が、即座の判断で自分を救ってくれた明里の方に感謝を伝えて、その後すぐに臨時教師の方を向くと、そこには衝撃的な光景が繰り広げられていた。
「───あ...が...」
臨時教師に首を絞められているのは梨央───ではなく、美緒。
「気付いたんだよ。今ここで、梨央のパートナーである美緒さんを殺してしまえば、梨央は一生逃げることができない」
「まずい...助けないと!」
今、臨時教師の近くにいるのは、首を絞められている美緒と、梨央と真胡の3人だけであった。
真胡は男だが、女々しいので正直戦力になるとは思わないし、それどころか美緒の首を絞めている臨時教師の指一本も外せないと思うので、俺が駆けつけなければ───
”ドォォン”
「───がはっ!」
「んなっ...」
「え...」
「何が...」
「嘘...」
目の前の現状に、思わず開いた口が塞がらなくなる。真胡が、ただ一発拳を振るっただけで臨時教師は美緒を離して吹き飛んでいったのだ。
「手荒な真似は嫌いだよ...けど!友達が死ぬかもしれないのなら、私は何千個嫌なことが積み上げられても、私は友達を助けることを選択するよ!」
───女々しくて、喧嘩の弱そうだと思っていた真胡は、実は喧嘩が超強い事が発覚した。
いくら、美少女のような見た目でも彼は、「捕虜救出隊」一番の戦力であったのだ。
「捕虜救出隊」腕相撲強さランキング(ハンタ風)
1.東堂真胡
2.安土鈴華
3.結城奏汰
4.竹原美玲
5.池本栄
6.山田稜
7.杉田雷人
8.村田智恵
9.奥田美緒
10.斉藤紬