4月23日 その⑧
今日から主人公視点。
───4月23日の午前2時。
「栄、見張りの時間だよ...」
「んん...」
俺は午前2時に雷人の小声で目を覚ます。
「見張りか...お疲れ様...」
「栄も頑張ってね...」
俺は、寝ぼけ眼をこすりながら見張りの仕事につく。見張りは時間ごとに決めていた。
───何の見張りかって?
それは、第3ゲーム『パートナーガター』の鬼である臨時教師がこちらに気付き迫ってくるかどうかの見張りだ。寝首をかかれて作戦失敗となっちゃあ話にならないからだ。
俺は、皆の寝ている遊具ゾーンの一角から少し離れて、助ける対象である梨央達3人と臨時教師がいる「牢屋」が見える場所にまで移動する。
ここから、見ていれば鬼である臨時教師の動向はすぐにわかった。
「───にしても、明日...いや、今日の午前中か。救出作戦、上手くいくのかな...」
俺は、少し不安になっていた。
俺以外に「捕虜救出隊」として捕らえられている3人───菊池梨央・成瀬蓮也・三橋明里を助けようとしているメンバーは9人いた。
安土鈴華・奥田美緒・斉藤紬・杉田雷人・竹原美玲・東堂真胡・村田智恵・山田稜・結城奏汰の9人───俺を含めると10人が鬼である臨時教師の元まで移動し、臨時教師を倒して捕まった3人を救うという作戦だ。
倒すといっても、戦力として数えられるのはスケバンであり血気盛んな安土鈴華と、柔道をやっていた結城奏汰。そして、池本栄と杉田雷人・東堂真胡であった。
稜は、指を怪我しているので戦力として出るのは反対された。本人は、どこか不満そうであったが。
男性の殆どを主戦力として投じた今、女子である皆がその補助をする必要がある。奥田美緒は梨央を救出するために動くこととなった。
だが、鬼の目当ては梨央───正確には、梨央の腕であった。梨央の白く細いキレイな腕に惚れきってそれを奪おうとしているのだ。
それが、鬼として移動もせずに「牢屋」の前で時間になるまで待機している理由であった。
俺は、明日のために備えつつ見張りの時間が過ぎていくのを待った。鬼である臨時教師は「牢屋」の中にいる梨央の腕に惚れきっているのでその場を動くことはなかった。
───では、鬼である臨時教師の脅威について語っておこう。
まず、臨時教師は逃げるとなると超スピードで走るらしい。それは、まるで瞬間移動だそうだ。
最初はパルクールゾーンに移動したはずの臨時教師は、一瞬で梨央のいる森林ゾーンにやってきて姿を現した。
だが、その後の鬼ごっこでは普通の速さでも追いつきはしなかったので、そこになにか秘密がありそうだ。
それと、指を触れられただけで折るなどという芸当をやってのける人物でもあった。
「明日はどうなるかな...」
俺は、汗をかかないで程度に筋トレをしながら見張りを行って1時間を過ごした。俺は、次の見張りである稜を叩き起こして自分の寝袋に移動する。
「もう1回くらい寝ておくか...」
俺は、自分の寝袋の中に入る前に智恵の寝顔を眺める。前に話してくれた「悪夢」は見ていないような心地よさそうな顔をしていた。
今日行う作戦も頑張れそうな気がして、俺は自分の寝袋の中に入って眠りについた。
***
───4月23日。午前7時。
「さーかーえ!起ーきーて!」
「んん...」
そう声が聞こえて、目を開けると目の前にいたのは智恵であった。俺の上に馬乗りになっている。
「智恵か...どうしたの?」
「もう朝だよ!準備しようよ!」
「あ、あぁ。うん、そうだね」
俺は、智恵に寝袋のジッパーを開けてもらい外に出る。手を出すところがあるから、そこからでも開けられるんだけどね。
「んじゃ、顔を洗ってくるからちょっとまってて」
俺はそう言うと、遊具ゾーンの奥にある建物で顔を洗う。ここには、シャワーやトイレが完備されており、俺達はここを使用していた。
そして、智恵たちのいる外に出る。どうして、建物の中にいなかったのかって言うと、臨時教師がやって来た時に一網打尽にされてしまうからであった。
外なら、四方八方に逃げれるけど建物の中だと限られてくるしね。
───そして、俺は智恵と一緒に朝ごはんを食べて今日の作戦に備える。
「そうだ、今日の作戦決行は午前11時にするから。いいね?」
「えぇ」
「もちろん!」
俺と智恵は、食事中に奏汰に言われたので快い返事をする。
───そして、食事を終えて支度をした後、俺達は各々の配置につく。
各ゾーンの境目辺りに、2人か3人ずつに分かれる。川ゾーンと森林ゾーンの境目には美緒と安土鈴華。森林ゾーンと遊具ゾーンの境目には紬と竹原美玲・東堂真胡。遊具ゾーンとパルクールゾーンの境目には俺と智恵・稜。そして、パルクールゾーンと川ゾーンの境目には杉田雷人・結城奏汰が移動していた。
───時刻は11時を過ぎる。
結城奏汰「開始」
スマホに、合図がやってくる。
「智恵、稜、行こう!」
「あぁ!」
「えぇ!」
俺達は原っぱゾーンの中心にある「牢屋」に向かって移動を開始する。
他のゾーンを見ても、各々が牢屋に向かって移動を開始していた。
───俺達「捕虜救出隊」と臨時教師との戦いが今、始まる。
いざ、開幕!